Magazine(マガジン)

コラム

スマホが無くなる日

2016.04.21

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

SONYのオープンリールの録音機を覚えていますか?
 
テープレコーダーと呼ばれた1950年に登場した録音機である。初期のテープは紙製だったと
いう。初めて販売にこぎつけたG型は、重さ35kg、当時のお金で16万円(単純比較で現在の
160~240万円)。小生が高校生の頃に初めて手に入れた家庭用テープレコーダーが、オープ
ンリールの機能的で魅力的なデザインのSONY製だったと記憶している。今から50年くらい前
だろうか。録音した自分の声が他人の声のような感があった。今のICレコーダーと比較すると
大きさ、重さ、性能と価格も格段に異なっている。放送用やプロ用は別にして、身近な個人
ユースの機器として、これがラジカセなどに展開し、一時期、世界を席巻したウォークマンに
進化発展してゆく。今では、ウォークマンにとって代わって、およそ3センチ角で薄さ8.7㎜、
重さ僅か12.5gのiPod Shuffleを手にすることが出来る。この小さな機器には、数百曲の音楽
を取り込むことが出来るという。よくよく考えてみると僅か50~60年間の驚くべき進歩であ
脅威的とも言える。電話機もダイヤルを回し、交換手を通す電話システムからプッシュホ
ンのデジタル式となりショルダー型がガラケースマホと呼ばれる携帯電話機に仕組みや形を
変え個人ユースへと進化発展し、世界に広がった。この環境の中で、電動自転車、各種ロ
ボット、セグウェイ、ドローン、VR、AR、3Dプリンター、各種センサーなどの新しい道具
や機器が次々に登場している。
反面、この数十年で姿を消した機器や道具類を挙げれば、枚挙に暇がない。真空管のラジオ、
ブラウン管方式のテレビ、「フジカシングル8」の宣伝で記憶している方もいると想像される
富士フイルム社やコダック社が凌ぎを削った8㎜映画撮影機。この次にオープンリールとVHS
やβマックス方式のカセットテープのVTR、その後に8㎜、CDビデオと続き、併せ、フイルム
式アナログカメラ、ポケベル、近近では、LEDの登場で、シリカ電球や蛍光灯などもやがて
消えゆく存在となっている。今では、一部の製品の中には、中古品を手に入れることすら難し
くなっているが、その変遷は、目まぐるしく今後の新しい機器の展開を考えると途方もない
ブラックホールに吸い込まれる感を覚える。
 
驚異的な過去の変化をものさしの一つとすれば、近未来に、iPhoneに代表されるスマホが無く
なる日がきっと来るに違いない。それとも見えないどこかに隠れてしまうのではないだろうか。
車には、多くのコンピュータが積載され、運転者に見えないところで安全や省エネの制御をし
ている。手に持つわけでもなく、指示を与えるわけでもなく、話すことも必要もない。何処に
もその姿や形は見えない。最近は、パソコンもタブレットタイプを多く見かけるようになって
きた。このパソコンとスマホも姿と形が消え、見えなくなったりするかもしれない。あるいは、
腕に巻くとか、下着のように身に着けるとか、ロボコップのように体内に埋め込まれるとか、
あまり気にせずに使えるウェアラブルタイプに変化するとか、小型ロボット化するとか、多様
な展開が想定され、我々の生活のスタイルに大きな影響をもたらす。ガラケーの目にもとまら
ぬ若者の入力風景から今では、スマホを片手にゲームやニュースを見ながら歩いたり、電車の
中でと、行動スタイルは道具や機器によって変化している。次の変化した様子や生活が近未来
に訪れるに違いない。
 
異なる機能を持つ機器類の登場とともに人の生活スタイルや行動も変化している。期せずして
最近、来日された世界で一番貧しい大統領といわれたウルグワイのホセ・ムヒカ氏は、大切な
のは考え方であり、発展は幸福の邪魔をするものではなく、幸福をもたらすものでなくてはな
らないと、語っているが、果たしてこれらの機器の発展はどうなのだろうか。小生は、恩恵と
歓びを受けていると感じる一人といえる。これらの発展は、変化を見ていて楽しくワクワク感
も与えてくれる。高級車や豪邸などと異なり、コスト的にも多くの人が手に入れられる一般的
なものであるのが良い。生活面だけでなく、業態も変化し、建設現場の道具類や設置する機器
類にも大きく影響されるだろうが、建築も楽しく歓びに満ちた変化をし、幸福をもたらしてゆ
くに違いない。


 

松家 克 氏

ARX建築研究所 代表