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コラム

ザハ・ハディドとロボット

2016.05.06

パラメトリック・ボイス           アンズスタジオ 竹中司/岡部文

岡部  ザハ・ハディドの早すぎる訃報には、戸惑いを隠しきれなかった。
    彼女の描いた躍動的で美しいドローイングは、建築がもっと自由であり、そして楽し
    く豊かなものだという事実を常に知らしめてくれていた。
 
竹中  そうだね。建築を創造する魅力を教えてくれた建築家であり、芸術家でもある。
    そんな彼女の仕事が語られるとき、多くがアバンギャルドな形態やその作風に焦点が
    当てられる。しかし、彼女の夢が進化させてきた技術にも注目したい。
 
岡部  そう、ザハは数々の興味深いコラボレーションを手掛けてきた。
    例えば、ヴェネツィア・ビエンナーレにて展示された「Arum」の制作では、産業用
    ロボットを用いて鋼板を折る技術を開発してきたRoboFold(2008年設立)と協業し
    ている。
 
竹中  平滑な一枚のシートメタルを、垂直多関節ロボットの先端に取り付けられた真空グ
    リッパーによって持ち上げ、その強靭な金属の板をまるで紙のように軽々と曲げる。
    金型を作ることが基本とされてきた従来の金属プレス加工に対し、マテリアルを直接
    加工する技法を用いて、変種変量な部材の製作を実現しているのだ。
 
岡部  「豊かさ、有機的な一貫性、形や空間の流動性」をコンセプトに掲げたこの作品の表
    情は、488種類の曲面パーツによって美しく再現されていたね。
    こうしたザハの技術開発への果敢な姿勢は、実践的な大規模プロジェクトおいても変
    わることはなかった。例えば2013年に完成したばかりの「東大門デザイン・プラザ
    (DDP)」もそのひとつだ。
 
竹中  DDPの建築ファサードはアルミパネルで覆われており、その総数45133枚。そして、
    それらは全て異なる形状、開口のパターンを有している。さらには、パネルの約48
    パーセント(21753枚)が、製作が困難な3次元曲面パネルだ。
 
岡部  そんな前代未聞の建築を実現した影には、道具を開発するデジタルエンジニアたちの
    挑戦とその執念があった。中でも、STEELLIFE社(2001年設立)を中心に開発され
    た曲面プレス加工機の貢献は大きかったね。
 
竹中  航空機用パネルの製造に用いられるマルチポイント・フォーミング技術を応用した型
    を必要としない曲面プレス加工技術は、大幅な時間短縮に加え、製作コストを従来の
    1/30近くまで削減したというのだから驚きだ。
 
岡部  建築の創造とそれを実現する技術は、表裏一体なのだ。
    今から30年以上も前、香港ピークのコンペティション(1983年)で彼女が描き出し
    たのは、ダイナミックで繊細な建築の世界。未だ実現していないそんな自由な世界を
    創りだすためにも、さらなる技術の進化が必要だ。
 
竹中  建築界における彼女の偉大な貢献に敬意を払うとともに、彼女が実現しえなかった建
    築の姿を想像してみる。そして、我々アンズスタジオは、最先端のロボット技術を駆
    使した道具を開発することで、建築界の夢に少しでも貢献したい。

 Venice Architectural Biennale, Common Ground, Arum
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のVimeoへリンクします。

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 Dongdaemun Design Plaza
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のZaha Hadid ArchitectsのWeb
 サイトへリンクします。

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