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コラム

BIMの本を集めてみた 

2016.09.06

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

初めて“BIM”という言葉を知ったのは2007年の秋ごろであったと記憶している。元々設計の情
報化には興味があり、定期的に情報収集をしていたつもりだった。しかし当時はファシリティ
マネジメント(FM)支援システムの開発に携わっており、あわせてその頃旬であったビッグデー
タをFMで活用できないかとNoSQLデータベースをあれこれ試すという生活を送っていたため、
情報収集が手薄になっていたのである。そんなある日、「BIMというものが注目されている。
調査してレポートしてほしい。」という一本の電話を受け、BIMとの関わりが始まった。
 
まずはBIMのなんたるかを知ろうと思い、ネットワークで検索をしてみた。するとすぐに情報
が見つかり、概念や基礎知識が理解できた。さらに探してみたところBIMに関するセミナーや
シンポジウムが開催されていることがわかり、国内外の動向を知ることができた。まったく便
利な世の中である。
さらにまとまった情報が欲しくて書籍を探してみたのだが、当時はまだツールのマニュアル本
を除けば、BIMに関する本はほとんど出版されていないことがわかった。もう少し探す範囲を
広げてみようと思い、国外の書籍を調べてみたところ、”BIM Handbook: A Guide to
Building Information Modeling for Owners, Managers, Designers, Engineers and
Contractors”という本を見つけたので、一も二もなくこれを入手してみた。改めて注文履歴を
見たところ、刊行年月日が2008年3月3日、発注年月日が2008年3月31日で2008年4月14日
発送となっている。これが最初に手に入れたBIMの本となる。
 
それ以来、BIMに関する情報収集が習慣になった。習慣といっても月に一回程度、いくつかの
検索サイトや国内外のAmazonに”BIM”というキーワードを入力して検索する程度である。ネッ
トワークの情報はホームページであればブックマークしブログであればRSSリーダに登録し
ている。
書籍については、持っておいた方が良さそうなものがあれば注文ボタンを押すことにした。
BIMには勿論仕事として関わっているのだが、BIMの本を集めるのはもはや趣味と化している。
 
ところで筆者は出版業界の仕組みや事情について何も知識がない、まったくの素人である。こ
こから先はあくまでも一介の消費者の感想として見ていただきたい。
 
ネットワークの時代に、なにも手間をかけて書籍を探さなくても良い気もする。しかし情報発
信の手段として、市場ニーズに基づく企画立案や内容の客観的な精査等、より多くの手続きを
必要とすることで、情報の品質と信頼性がある程度担保されることが、書籍の価値ではないか
と思う。ネットワーク上に散在する情報にはスピードや別の価値があり、それぞれの特長が利
用できれば良いのではないだろうか。電子書籍が更に普及すると出版の概念も変わって行くだ
ろうが、当面はこのような役割分担だと勝手に納得している。
このような経緯で、手元にBIMの本が集まるようになった。コレクターではないので、BIMと
名がつけばなんでも手に入れる、という訳ではない。必要とするものと興味が向かうものを対
象としている。また、世界中の出版社を調べたわけでもなければ、世界中の書店を探しまわっ
たわけでもない。筆者が探すことのできた範囲での話である。
 
まず国内外で見ると、圧倒的に国外で刊行される本(洋書という呼び方で良いだろうか)が多
いようである。国内では2009年頃からBIMの本が刊行されるようになったが、最近はあまり
新刊の話を聞かない。ツールのマニュアル本をのぞけば、国内でのBIMの本の刊行数は多くは
ない。内容もBIMの概念や導入事例が中心となっており、BIMをより活用するためのポイント
やノウハウを伝授するような踏み込んだものは少ないようだ。また、発注者をはじめとする、
建設業界を越えた幅広い読者を対象としたものも見かけていない。
 
国外の書籍(英語で書かれたものが中心なので読むには時間と覚悟が必要となる)についても、
数年前まではBIMの概要や導入メリットについての内容が中心となっていたが、その後はオー
ナーやファシリティマネジャーのためのBIM活用や省エネと関連するもの等、目的に特化した
ものが見られるようになった。その後BIMマネジメントに関するものが何冊か刊行され、最近
では発注者のためのBIMや発注者への価値提供に関するものが刊行されている。また、BIMの
間口を広げるための入門書や、BIM COMICなるBIMツール解説のマンガ本もあるようだ。
これらは主として英語圏でのBIMが技術的に成熟し、制度や規約を含めたBIMマネジメントの
合理化を経て、更にBIMによる発注者への新たな価値提供を必要とする段階に移行しているこ
とを示すものだろう。あわせて、市場側でのBIMの認知の広がりも想像できる。今のところ日
本語と英語の本しか追いかけていないのだが、言語の範囲を広げると更に興味深いことがわか
るかもしれない。
 
多ければ良いというわけではないだろうが、国内でBIMの本がより多く刊行されるためには何
が必要なのだろう。海外の書籍を翻訳するという選択肢もあるだろうが、海外での建築に関わ
る各種のフローが国内のそれと必ずしも合致しないことを考えると、安易な翻訳版は受け入れ
られない可能性もある。目安となる発行部数すら知らないのだが、書籍はある程度のニーズや
市場性がなければ刊行が判断されないと想像する。国内ではまだBIMの本の市場性があるとは
思われていないということだろうか。国内でのBIMの認知がまだ建設業界にとどまっており、
建物オーナーや発注者や投資家といった市場側に十分に広がっていないことと、あながち関係
がないことではないのかもしれない。
社会全体にBIMが浸透し、BIMに関する新書やビジネス書が刊行されるには、まだいくつもの
変革が必要なのだろう。
 
BIMの本がもっと国内で刊行されれば良いのに、というところから書き始めたつもりだったが、
いつの間にか国内でのBIMの認知はまだ建設業界にとどまっていることを実感した、と言う話
になってしまった。
ビックデータや人工知能をタイトルとする本は、新書やビジネス書のコーナーでいくつも見つ
けることができる。BIMの新書やビジネス書が街の書店で平積みされるためには何が足りない
のか、これからも考えていきたい。