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コラム

BIMとPDCAサイクルの関係

2016.09.16

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

作業能率の向上には先ず、人や機械の働き方を分析し、ムリ無くムダ無くムラの無い作業や手順
の標準を定め、それを改善し続けるPDCAサイクルの永続的な回転が求められる。そのような取
り組みをした上で、新しい技術や機械の導入や開発を行うのが筋とされる*1。PDCAサイクルの
永続的な回転は、ものづくりの最前線に立つ技能職による作業改善と、生産技術などの専門職に
よる作業フローの改善が密接にリンクしていなければ成立しない。仮に、専門職が技能職のニー
ズを聞いて技術開発をしたとしても現場にとって意味のある改善に繋がると限らない。「現場
のニーズ」に優って重要なのは、「現場のデータ」ではないかと思う。

建設現場で作業工数のデータを取得する手法については、1990年に日本建築学会が出版した
「作業能率測定指」に体系的に纏められている*2。工数調査で得たデータは管理グラフやヒス
トグラムなどの統計的手法を用いて分析をする。しかし、多くの場合取得データの示す傾向が、
類似プロジクトと比較して「良かった/悪かった」というような表面的な評価に留まりやすい。
これは、CheckとActが不在のまま、PlanとDoを行き来しているに過ぎない。建築工事は現地施
工であるが故に、どの部材がどこでどれだけの時間をかけて取り付けられたのかという、物と場
所と現象が一体化したデータでなければ、改善に向けた議論が難しいのではないかと思う。

そこで、工数調査で得た作業時間のデータでBIMモデルのオブジェクトを色分けして可視化して
はどうなるかと思い、市販のビューワソフト*3 をカスタマイズしたのが図である。この事例で
は、CLT構造建築の建設工事の工数調査で得たCLTパネルの取り付け時間を、1σ以内は青、1σか
ら2σ以内は緑、3σを超えると黒、というように、パネルごとに色分けした。ビューワソフトの
カスタマイズは、BIMモデルを読み込む際にオブジェクト毎にフォルダを自動作成し、各フォル
ダの中に保存した計測データを読み取ってオブジクトの表示色を変えるようした*4。このよう
にすれば、どのパネルがどの場所で取付けに時間がかかったのかを一目で認識し、施工の状況を
思い出しながら、改善に向けた議論を効率的に進めることが可能となる。このプロジェクトでは、CLTパネルの取り付け手順を検討するための積算や施工シミュレーションも行った。一応、躯体
施工を対象に、BIMを用いたPDCAサイクルの展開の可能性を試行したつもりである。

このストーリーは、建築生産のプロセス全般に展開できると考えている。計画をPlan、設計/施
工をDoとすれば、建築生産プロセスは、PlanとDoの行き来だけで、CheckとActの検証が行われ
ていないのが日常と想像する。環境や構造など計画段階のシミュレーションは使いやすくなって
いるし、現場のデータを計測するセンサも安価になってきた。計測データを可視化して、現況把
握や計画時のシミュレーションと比較することで、つくる側とつかう側の間で意識を共有しやす
く、改修や次のプロジェクトに向けた議論を効率的に進めることが可能になると期待する。BIM
とPDCAサイクルは、一見、無縁のように思われるが、むしろ密接に関係していると考えるべき
である。可視化したデータを利用して様々な立場の人材で共創することが、BIMによるプロセス
の醍醐味ではないかと思う。
 

*1  大野耐一「トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして」,ダイヤモンド社,1978.5
*2  日本建築学会「作業能率測定指針」,日本建築学会,1990.2
*3  カスタマイズしたビューワソフトは、株式会社ディックスの「VizitViewer」である
*4  志手一哉,牧野能久,青島啓太,「BIM を用いた情報の一元管理とその可視化に関する
    研究」,日本建築学会大会(九州)学術講演梗概集. 建築社会システム,pp.27-28,2016.8


 

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授