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コラム

スマホとゲームと建築

2016.10.13

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

今年で26回目を迎えた日本最大規模の東京ゲームショウが、37の国と地域から過去最多の
614企業の出展と東京大学慶應義塾大学電気通信大学の研究室などが参加し2016年9月
15日~18日の4日間、初音ミクがVRで歌うなどの話題も満載で開催され、海外からも大勢の
人が訪れた。今年は、コンピュータゲームのVR元年とも言われている。
 
このイベントを機に韓国から来日されたVRなどのゲームソフトの開発者を友人から紹介され、
自由が丘の事務所でお会い出来た。3人で来られたが、一人は、金 東鉉氏(Donghyun KIM)。
大阪大学の笹田研究室で建築を学ばれ、Archi Future実行委員の猪里氏と同期の方である。帰
国後に韓国での建築やIT関連の要職を歴任されているとお聞きした。30年くらい前に阪大の
笹田研究室を日本建築家協会(JIA)の情報開発部会のメンバーでお伺いしたことがあった。当
時の笹田研は、日本の建築CAD化の最先端の情報を提供し続けており、学生も燃えていた。
研究室で寝泊まりすることも多く、隅に布団が重ねられ、猫が2匹同居していたことを思い出
す。この金(KIM)さんと同行した小生の友人とが、スマホゲーム用に開発したソフトを建築
の設計や施工業務に活かせないかと考えていたという。同行されたゲームソフトの開発者のChristopher HONG氏からゲームに関心がない私が、開発されたソフトと事例の説明を受け
た。見聞きしながら、この新技術は、建築への応用編として活かせるのではとの思いが湧き、
興味深く検証することに気持ちが変化した。
 
スマホカメラで撮影のデータから、3Dスキャナーのように3Dデータが策定でき、3Dプリン
ターでの利用も可能となるという。スマホでのVR(バーチャル・リアリティ=仮想現実)画
面の建築への応用、AR(オーグメンティド・リアリティ=拡張現実)画面策定も可能であり、
外観やインテリアのバーチャル&拡張現実が体験可能となる。目線の動きを画面に反映させ
るHMD(ヘッドマウントディスプレイ)、スマホを縦横に動かすことによる画像の追
随変化など、触覚や視線、脳波等の情報との連携もゲームのVR世界では可能となり、各種ア
プリの実現に向かっている。既に実用化されているものもあるという。360度カメラによる多
くの情報のスマホでの収集と画像編集、スキャナーのようにスマホでの簡易な3次元のデータ
化の可能性も視野に入ってきたと感じている。今のゲームソフトの開発は、1990年代初めの
建築系CADソフトが雨後の竹の子のように開発されていた状態に類似しており、開発に携わ
る人やソフトの数は、この時を大きく凌駕していると考えられる。すごい速さと勢いで開発
が進んでいるようだ。建築にも波及してくると確信している。
既にKDDIは、スマホのARを利用して製造業の設備点検するサービスを始めたという。コラ
ボしているタブレットから作業の指示も出来、今後は、スマホでの建築設備の保守管理も見
据えているという。NTTドコモとエイベックスは、dTVでVR映像のサービスを7月末から既
に開始し、ユーチューブのスマホVRモード対応アプリも既にある。
 
Archi Futureイベントでは、建築の領域に重なる活動をされている方をお招きし、ご講演いた
だいてきた。今までに、日本デザインセンター代表でHOUSE VISION 2/2016東京展ディレ
クター、武蔵野美術大学教授の原研哉氏とライゾマティクスの齋藤精一氏に講演をお願いし、
他分野や建築領域の際での最先端技術や動向を紹介している。今回もゲームと人工知能研究で
著名な三宅陽一郎氏に講演をお願いしている。このサブタイトルは、「ゲーム制作の世界から
見えてくるリアル」となっているが、まさにゲームソフトから見えてくる建築と人工知能との
接点の話となるのかもとの期待が出来る。ポケモンGOのVRとARの狭間の話もお聞きできる
のかもしれない。

この9月から企業の農地の保有が認められる規制緩和がスタートした。IT企業やオリエンタル
ランド(東京ディズニーランド・東京ディズニーシー・ディズニーホテル・他の企画・運営)、
事務用品大手のナカバヤシなどが次々に最先端の新農業に参入し、農業だけでなく林業、水産
業や養殖分野でのIT化も進み、スマホでの生育分析や収穫量、予想降雨量、肥料計算、計画記
録などの情報を活用しているという。ゲームや農業・水産業・林業・他などの異業種の最先端
技術には、建築に応用出来るヒントの宝の山があるのではと考えている。


 

松家 克 氏

ARX建築研究所 代表