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コラム

しくじり先生と学びの宇宙

2016.11.29

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰

『愚か者は人生の贈物がレモンであると知って、あきらめ顔で「私は負けた。これが運命だ。
もはやチャンスはない」などと言い出す。そして世間に文句をつけ、自分を甘やかして放蕩の
限りを尽くすようになる。けれども、賢い人はレモンを手にして自問する。「この不運からど
んな教訓を学ぶべきだろう? どうしたら周囲の状況がよくなるであろう? どうすればこのレ
モンをレモネードに変えられるだろうか?」運命がレモンをくれたら、それでレモネードを造
る努力をしよう。』――デール・カーネギー「道は開ける」

「しくじり先生 俺みたいになるな!!*1」という番組が大好きです。自らの失敗から学ぶという
ことはそもそも容易ではなく、ましてや個人の失敗談を人に届く形で発信し、バラエティ番組
として笑いに変えるということは難しいはずですが、この番組はクオリティをもってそれを実
践しており、番組担当者の愛を感じます。

私が教条的なBIM議論が好きではないのは、多くの場合そこに愛情が欠けているからです。愛
情というと暑苦しいかもしれませんが、共感と言い換えても構いません。BIMはプラット
フォームである、ということに同意するなら、どんな人も等しく巻き込まれなければなりませ
ん。共感には羞恥心*2や痛覚*3すらも引き起こす力があります。そうしたリアリティを伴わ
ない話に共感の連鎖が起きることは稀なはずで、であればどんなに素晴らしい内容の話であれ、
その影響力は小さいはずだからです。

私の場合、最近その共感を強く感じたのが先日のArchi Futureの一場面でした(大盛況あらた
めておめでとうございます)。パネリストとして参加させていただいた私がいくつかお話させ
ていただいた中のひとつのトピックです。

「BIMマネジメントを行う上で自分がRevitなどのモデリングソフトを使えないことに罪悪
感があった。考えてみれば、私の所属するゼネコンも直接何かを作る立場ではなく、それをマ
ネジメントしリスク回避しながら安全に建物を完成させるのが仕事。だから同じように、その
ような役割分担をしてモデリング業務をスムーズにすることに特化していると思えばいい。マ
ネジメントを行っているかどうかと、その人が職務上上位にあるかどうかは別の話だと気がつ
いた。」

壇上でお話させていただくと、聞いて下さる方々の表情はほんとうによく分かります。会場の
中で深くうなずいてくださった方々の顔は今でも覚えています。実務者集団の中で、自分では
操作もできないのにコミットするなんて……と思われて悩まれる方が多いことがよくわかりま
した。そのような共感のループに支えられるというのは、単純に嬉しさを引き起こすものです。

それから1ヶ月。興味が湧いた私は、BIM界隈で活躍するいろいろな方々にこんな話をぶつけ
てみました。「個人的にはBIMを楽しんでいるし、私をとりまく組織もどんどんと変わってき
ている。けれど、やはりCADも紙の図面もなくならない。できることは拡大したけれど、それ
を幅広く実践的にバランスよく解釈できるようなスキルの持ち主はそうそういない。方法論は
共通化したいけれど、標準化は普及と維持管理が大変だ。皆さんどうしているのだろう?」

これに対する答えはまさに異口同音でした。“Things change very slowly, frustratingly
slowly.” – 物事は変わる、ただし本当にゆっくり、イライラするほどにゆっくりと。こんな言
葉もありました。“Things change very slowly until they change very quickly.”

また、ある方が言っていたこんな言葉が忘れられません。“Process-oriented people tend to
be curious about people.” – 概してプロセス指向の人々は(結果指向の人々に比べて)人間
というものに対する好奇心がある。私が愛情・共感・明るさ……と形を変えながら表現してき
たものはこれだったのか、と腑に落ちました。プロセス指向、人間に対する好奇心。それらな
くしてBIMを語っても、はっきり言い切ってしまうなら、時間の無駄なのです。

上記の質問はまるで魔法の言葉でした。他にもいろいろなアドバイスや情報共有をいただくこ
とができ、私はいろいろな人に心から感謝するとともに、これに勝る学習方法はないなと感じ
はじめています。

Learning Universe(学びの宇宙、学びの空間)という言葉に最近出会いました*4。学習者に
とって何かを学ぶことのできる世界はもはや教師やカリキュラムや教科書だけでなく、セミ
ナーやオンライン教材、SNSや動画投稿サイトなどを取り込んで急速に拡大していて、時間と
ともにダイナミズムをもって変化する「学びの宇宙」の中でどのように学ぶのかのナビゲー
ションがいま求められている、ということでした。そしてそこでの議論は、人工知能がそのメ
ニューを作る上で役に立つのではないか、という話で、Human Augmentationというのはこ
ういう形で起こることもあるのかもしれないという期待を強く感じました。

それにしてもLearning universeという言葉の響きには痺れます。一方でしくじり先生という
言葉の愛らしさにも大いに共感するのですが、これが文化の違いか……と、ここまで書いてオ
チの作り方が前回とまったく一緒であることに気づいて冷や汗をかいています。ここまでさん
ざん学びの話を書いておきながら、肝心の締めに新規性がないとは精進が足りません。次回は
なんとかします。


*1  しくじり先生 俺みたいになるな!!|テレビ朝日
*2 「共感的羞恥と心理的距離」、桑村 幸恵 、2011
*3  「他者の苦痛場面に対する共感的反応についての検討」、橋本悟 ほか、2013
*4  Not Your Standard Lecture: 4 Ways the Future of Learning Is Changing, Randy
    Swearer


石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 コンピュテーショナルデザイングループ長 / 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 特任准教授