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コラム

「1図面=1ファイル」の違和感

2016.12.13

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

新築時だけでなく、竣工以降の建物運営・維持管理を含めた建物ライフサイクル全体において、
図面情報はどのように管理・活用されるべきか、という問題に長らく関わってきた。
 
筆者が勤務するNTTファシリティーズは、元々はNTTの建築部門として、全国の通信建物等の
設計・工事監理と維持管理を担ってきた。当時、図面は主としてフィルムやマイクロフィルム
といったメディアで保存されていた。これらをNTTグループの電力・建築の責任分担会社とし
て分社するまでに総てCAD化し、データとして管理することとした。それまでは高価な
EWS(エンジニアリングワークステーション)でしか使用できなかったCADシステムが、当時
普及が加速したPCで動作するようになったことが大きかった。
 
こうして数万に及ぶ平面図、立面図、断面図がCADのデータファイルとなった。以来、建物の
現況情報として、現場調査、改修、修繕工事の検討、運営・維持管理等で活用している。工事
等で建物に変化があればそれにあわせ更新し、現在に至っている。また、図面に建物データ
ベースを連携することで、CAFMのデータとしても利用できるようにもしてきた。現在では通
信施設の集約等により、管理対象図面数は減少しているが、基本的な考え方は変わっていない。
 
建物の運営における図面の参照や利用は、当然ながら様々な目的や手順がある。これらを大ま
かに(なおかつ多少乱暴に)まとめると、二通りくらいになるようだ。
 
一つ目は、ある建物(または特定のフロアやスペース)の状況をできるだけ詳しく知りたい、
というものである。これについては、図面内の図形情報に各種のデータベースをリンクし、図
面のみでは取得が難しい情報についても属性情報として参照ができるようにすれば良い。この
ような図面情報の使い方をするためにはCADだけでは十分ではないため、図面データとデータ
ベースをフレキシブルに連携するCAFMを構築する必要がある。このような仕組みを作ってお
けば、建物の状況や個別の部位機器の仕様や性能諸元を容易に把握することができる。
二つ目は、ある条件を満たす(建物または特定のフロアやスペースをあらわす)図面をできる
だけ迅速に漏らさず探し出す、というものである。これについては、大量の図面群から見つけ
たい図面がすぐに見つかるよう、図面ファイルの管理ルールを設定し、インデックスを介した
検索ができるような環境を作れば良い。図面データと連携するデータベースからの検索をあわ
せて行えるようにしておけば、ある部位機器が設置してある建物とその箇所を迅速にリスト
アップする、ということもできるようになる。
このような仕組みを作り上げることで、多くの建物を持つオーナーのCREやPREの整備計画策
定や、災害等トラブルへの迅速な対応を支援する建物情報環境が実現される。
 
大量の建物情報を管理していると、時として多量の図面の内容確認や修正を短時間で行わなけ
ればならないことがある。特にルールがあるわけではないが、通常CADによる図面データは
「1図面=1ファイル」となっている。これは紙やフィルムと言った従来のメディアでの図面
情報管理の名残りだと言える。勿論ハンドリングの良さという観点からも合理的な方法であろ
う。しかし、大量の図面ファイルをひとつひとつCADシステムで開き、修正を加えていくとい
うのは、効率性からも情報品質の確保からもなかなか大変な話である。文字や数値で構成され
ている属性情報であれば、データベースとしての検索や一括編集は考えやすい。しかし図面
データは個々に存在しているため、複数フロアに渡る平面図や断面図や立面図、部位機器の数
量との整合についても人間が介在しなければならない。
このような問題に直面して以来、1つの図面情報が1つの図面データファイルとなっているこ
とに違和感を持ち続けてきた。
 
BIMの普及とともに、一つの建物をあらわす各種の図面の整合性が確保されるようになった。
これは大変な朗報である。新築時だけでなく、竣工後の運営・維持管理を含めた建物ライフサ
イクル全体においても、図面情報の管理は大きく変わることになるだろう。建物を現す情報は
BIMモデルに置き換えられ、図面はその表現手段の一つとして扱われるようになる。オーナー
の建物情報の保有や、請負者との情報共有の仕組みも変わる。否応なしに頭の切り替えが必要
になっていくはずである。
 
現在のBIMは一般的に1つの建物(必ずしも棟ごとではなく1つのロケーションに位置する複
数棟を含む場合もあるだろうが)が1つのモデルファイルとして扱われている。これは建設プ
ロジェクトごとに建物情報を管理する合理的な手段だと思うが、複数の建物を保有し、それら
をCREやPREとして捉えたいオーナーの視点からは、必ずしも見通しが良い情報管理方法とは
いえない。
 
BIMの普及により「1図面=1ファイル」の制限はなくなっていくが、早くも「1モデル=1
ファイル」に違和感がある。大量のBIMモデルを大きなデータベースとして統合的かつ横断的
に扱うことができる建物データリポジトリと、必要に応じてハンドリングするためのBIMモデ
ルが再現される仕組みが必要だと痛切に感じている。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部 サービス推進部 エンジニアリング部門  設計情報管理センター