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ユーザー事例紹介

「住田町新庁舎」BIMプロジェクト~前編
<岩手県住田町>

2016.12.15

「森林・林業日本一の町」にふさわしい新庁舎
住田町は岩手県東南部に位置する人口6,000人ほどの町である。四方を600~1,300m級の
山々に囲まれて森林面積は3万haを超え町の総面積の約9割まで森林によって占められる緑
豊かな地域として知られている。住田町では早くからこの森林資源を活かし、木材加工施設の
整備を進めるなど、「森林・林業日本一の町」を目指して官民一体の取り組みを推進してきた。
近年は木材流通システムの充実とともに、FSC森林認証制度や木質バイオマスなど環境に配慮
した新しい林業施策にも取り組んでいる。そんな住田町に、いま全国の注目を集めるユニーク
な建築物がある。2014年7月に竣工した「住田町庁舎」だ。
「人にやさしく親しまれる庁舎」「環境にやさしく防災の要となる庁舎」「住田町らしさを発
信する庁舎」という3テーマに基づき、2012年から計画が進められた施設である。地上2階建
て延床面積2,883㎡の純木造建築は、木の太い柱と梁で構成された伝統的木造建築の意匠を強
調しながら、同時に先端的デザインのレンズ型トラス梁やラチス耐力壁が印象的で、まさに森
林・林業日本一を目指す住田町にふさわしい庁舎といえる。しかも、総数量710,7㎥(スギ
247.7㎥カラマツ463㎥)の木構造部のうち、実に71.5%余が町内産材で賄われさらには
建設に関わるあらゆる工種で住田町内企業が施工に参加。まさに町内産の木材で町内の企業が
建てた、新しい「地産地消」の取り組みでもあったのだ。
こうしたさまざまなチャレンジが内外の注目を集め、完成後の住田町庁舎は竣工後約1年半で
102件1,359人(2014年8月~2015年12月)もの視察を受け、建築業界紙等にも多数紹介
された。また「第18回木材活用コンクール」農林水産大臣賞や「平成27年度 木材利用優良施
設表彰」林野庁長官賞、第57回BCS賞など、数々の受賞にも輝いている。

     住田町庁舎外観

     住田町庁舎外観



高難度のプロジェクトに BIM の活用で対応
このように各界から高く評価された住田町新庁舎は、官庁工事としては珍しく、公募型プロ
ポーザル方式による設計・施工一括発注された。大手ゼネコンをはじめ有力企業が顔を揃えた
同プロポーザルを勝ち抜き、受注を勝ち取ったのは、前田建設工業を中心に、長谷川建設、
中居敬一都市建築設計(設計協力:近代建築研究所、ホルツストラ)によるJVだった。技術に
は定評ある前田建設だが、そんな同社にとっても本プロジェクトはきわめてチャレンジングな
ものとなった。前述の通り、ほとんど前例がない純木造の大規模公共建築という大前提はもち
ろん、発注者からはさらに難度の高い要望が次々と寄せられ、これまた前例のない巨大なレン
ズ型木造トラスの梁やラチス耐力壁など、新規性の高い技術が必要となった。また、前述のと
おり木材や施工者まで含めた大規模な地産地消の取り組みも求められ、あらゆる面でハイレベ
ルな対応が必要となった。前田建設では従来のARCHICADによるBIMの運用に加えて、新たに
木造に特化したBIMの利活用を試みた。
ここでは、この「住田町庁舎建築プロジェクト」に関わった方々に、本プロジェクトにおける
BIMとARCHICADの活用について具体的な内容とその効果について伺った。
前編では、発注者である住田町町長の多田欣一氏のお話を紹介。
後編では、設計施工の前田建設工業の綱川隆司氏、設計担当の中居敬一都市建築設計の平谷
伸吾氏、集成材の加工・建て方を担当した中東の宮越久志氏、芳賀賢二氏のお話を紹介する。


BIM を活用して設計、施工、地元と緊密に連携!
「森林・林業日本一」を目指す町のシンボルを作る


住田町庁舎建設計画のきっかけは築50年余を経た旧庁舎の老朽化だった。東日本大震災時
壊の恐れから庁舎内に対策本部が設置できなかったことから、新庁舎建設が求められたのだ。
庁舎の構造や設備、機能は検討委員会が中心となってまとめられたが、「木造」とすること、
「森林・林業日本一」を目指す住田町のシンボルとすることは当初からの大前提だったという。
これを主張し主導した最大の推進役、住田町町長の多田欣一氏にお話を伺った。
 
木造公共建築のショールームとして
――落成後1年半ですが使い心地はいかがですか
たいへん満足しています。もちろん「ああすれば良かった」という箇所もありますが、総じて
満足度は非常に高い。特に「木の良さを活かす」というテーマは高いレベルで実現されました。
これは私一人でなく、職員や町民の方からも「とても良いものを作った」という声をいただい
ています。

        岩手県 住田町 町長 多田 欣一 氏

        岩手県 住田町 町長 多田 欣一 氏


――「森林・林業日本一の町づくり」を目指す町だからこそですね
住田町は総面積の90%が森林で、うち約12,000haは町有林です。これは1978年から始めた
林業振興計画で、当時の町長が町有の山にスギを植林していった成果。実はこの木を売れば地
方交付税なしでもやっていけたはずではありますが値が下がってしまいできなくなってしま
いました。しかし、先輩たちが汗と涙で育てた木が使えないのでは申し訳が立たない。今を
生きる私たちが何か知恵を出さなくてはなりません。とにかくこれらの木を使いたい、という
思いから、新庁舎も木造にして全国にアピールしようと考えたのです。

――町長お勧めの「見学ポイント」はどこですか
まず玄関から入ってすぐの木で造った大ホール「交流プラザ」をご覧ください。町民からご寄
贈いただいた樹齢100年余のスギ丸太4本を建て、庁舎のシンボルとしてアピールしています。
ぜひ町民たちが自ら磨いた大木に触れてみてください。また天井や梁に使われた木も、よく見
えるよう「現し」構造にしてあります。地震に強いラチス耐力壁や、この大空間を可能にした
トラス梁などもご注目ください。
 

     4本のスギ象徴木が立つ「交流プラザ」

     4本のスギ象徴木が立つ「交流プラザ」


     レンズ型木造「トラス梁」

     レンズ型木造「トラス梁」


――まるで木造建築のショールームですね
さまざまな木の良さを目で見て確かめ、味わってもらいたかったのです。実際、この完成形に
至るまで多くの要望を出しました。木造に不慣れな前田建設は大変だったと思いますが、だか
らこそ私たちの要望にも素直に耳を傾け、地元企業や職人とも協力して素晴らしい成果をあげ
てくれました。このことは、設計施工一括発注のプロポーザルによる発注先選定の狙いとも共
通しています。

コミュニケーションのカナメ「BIM」
――プロポーザルの狙いとはなんですか
当然、まず設計者と施工者が一緒に行うことで、優れた技術や構造を作りだしてくれるだろう
という期待がありましたが、そこで重要なのは、その技術提案に私たちの要望を加えていくこ
とです。設計者任せ・施工者任せで、設計や予算の縛りの中で、私たちが口を挟めなくなるの
は嫌でしたから、私たちの要望を設計者・施工者らが一体になって考え、実現に向けて努力し
ていけるシステム作りを目指しました。

――そこでBIMの活用が果たした役割は?
非常に大きかったですね。実はいまも私のパソコンに、前田建設からもらった庁舎のモデルな
どの資料が入れてあります。ARCHICADで作られたこの資料が、打合せなどでの幅広いコミュ
ニケーションに役立ちました。私たちの場合、図面やスケッチを見せられてもなかなか具体的
なイメージが湧きませんからね。今回はこの資料が使えたので、私たちも細部にわたる要望を
具体的に伝えられたと思っています。

     木の香あふれるワンストップサービス窓口

     木の香あふれるワンストップサービス窓口


――ARCHICADのBIMxのデータですね
そうです。パソコン内のこれを自分でグルグル回したり、ウォークスルーで階段を登ったり…
…世の中にこういうものがあるとは聞いていましたが、実際に計画中の建物を早い段階からつ
ぶさに見られたのには驚きましたし、大きくイメージが広がったのは確かです。今になって見
直しても、資料の通りに出来上がっているなあ、イメージどおりだなあ、と思います。今後は
少し大きな建物の計画では、ああいったシステムが必須になっていくのではないでしょうか。

――データはいろいろと2次活用もされたとか
誰でも観られるよう、着工してすぐ町のホームページに動画を掲載しました。でも、本当はみ
んなにはあまり見せたくありませんでした。でき上がった時にあっと驚かせたかったので(笑)。

――今後の取り組みについてお聞かせください
町としてはやはり企業誘致が重要な課題となりますが、他所から誘致した企業が永久に居てく
れるとは限りません。ほかに利益が出る場所があればすぐ移転しまうでしょう。だから私たち
は「絶対にそこに留まってもらえる事業体」を作る必要がある。だからこそ「木」が重要なの
です。木を扱う事業体なら木の生産地であるここが一番良い場所ですからね。木工団地も、い
ま構想しているCLT工場もこの発想が出発点であり、今後もこの姿勢は変わりません。とにか
く、日本にとって持続可能な資源は、最終的には「木と水」だけです。皆さんにも、もっと
もっと山林に目を向けてほしいですね。

上記事例の受注者サイドのお話は、「住田町新庁舎」BIMプロジェクト~後編で。