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ユーザー事例紹介

「住田町新庁舎」BIMプロジェクト~後編
<前田建設工業/中居敬一都市建築設計/中東>

2016.12.15

意匠・構造・設備・備品を統合したフルBIMで
大型木造建築におけるBIM活用の可能性を拓く


日本のゼネコントップ10の一社である前田建設工業は、いち早くARCHICADを導入し、3次元
設計とBIMへ積極的に取り組んできたBIM先進企業である。だがそんな同社にとっても、住
田町庁舎建設プロジェクトはきわめてチャレンジングなBIM案件だったという。前田建設工業
でこのプロジェクトの設計を担当した同社BIM設計グループのグループ長 綱川隆司氏にお話
を伺ってみた。

初挑戦だった純木造建築BIMプロジェクト
――BIMの取り組みで業界をリードし続けていますね
当社の3D CAD活用への本格的な取り組みは2001年からです。当時はまだ「BIM」という言葉
自体知られておらず、この分野で3次元といえばCGを連想する時代でした。そんな中で私たち
が目指したのは、意匠から構造、設備までカバーする業務フロー改善に3D CADを活用するこ
とでした。BIMという言葉は使っていませんが、目指す所はほぼ同じだったといえます。

――ARCHICADの導入はいつですか
2003年のことです。当初は汎用3D CADを使っていましたが、やがて汎用CADの限界が見えて
きて、建築に特化した3D CADを探していく中で出会いました。3D CADはほかにもありました
ARCHICADは3Dモデルと図面間の連携やフロアの概念など私たちが求めていたものに近く、
その直感的な操作性も魅力的でした。また、3Dオブジェクトをパラメトリクに編集していく
3DオブジェクトCADであることにも大きな可能性を感じました。

        前田建設工業株式会社 建設事業本部
        企画・開発設計部 BIM設計グループ 
        グループ長 綱川 隆司 氏

        前田建設工業株式会社 建設事業本部
        企画・開発設計部 BIM設計グループ
        グループ長 綱川 隆司 氏


――現在のBIMへの取り組み状況はいかがですか
現状では、ほとんどの物件で何らかの形でBIMや3次元が活用されています。フルBIM案件も
大きく増えました。引き続き今後もBIMとICT技術の統合により建設会社としての業態を革新
していく――という目標を追求していきます。

――御社にとっても本物件は挑戦だったそうですが
数多くのBIMプロジェクトを展開してきましたが、これだけの規模を持った純木造公共建築の
BIMプロジェクトは経験がありませんでした。このことは施工に関しても同様で、現場所長と
職員も純木造建築は初めての取り組みでした。

――その初挑戦にどのような姿勢で臨みましたか
すべてにおいて慎重に謙虚な姿勢で取り組んでいきました。発注者の方々の要望に真摯に耳を
傾け、設計においては木造建築に造詣が深い先生方に教えを請い、施工では木の扱いについて
その道のプロである住田町の職人さんたちにアドバイスいただき、すべて勉強のつもりでやら
せていただいたのです。結果としてこのやり方が功を奏し、大きな成果を上げられたのではな
いかと思います。


木造こそBIM の活用に適している?
――住田町庁舎でのBIMの取り組みをご紹介ください
本件におけるBIM活用目的は大きく4つあります。まず、ビジュアライゼーションを活かし発
注者様の承認をスムーズにいただくこと。設計工程の短縮が狙いですね。次にBIMによって建
築と設備を統合し、品質の高い設計・施工を行うこと。3番目は建築モデルや解析など検証へ
の活用。そして、最後に町民の皆さんへの情報開示への利用です。

     BIMを用いたセクションパース

     BIMを用いたセクションパース


――そこでの成果をご紹介ください
ビジュアライゼーションの活用は、発注者の皆さんに計意図を伝えていく上でとても効果的で
した。説明会などで建築モデルを使うことで、正しい理解に基づいた要望をいただけたのです。
たとえば、本物件ではあえて天井を張らず木の架構を見せるなど「現し」にした箇所が多く、
通常では見せない設備機器なども一部露出しています。こうした部分もBIMのリアルタイム
ウォークスルーでご検討いただき、視認性を含めてスピーディに確認、承認いただけました。

――建築と設備の統合についてはいかがですか
本件はあまり類例のない大規模な純木造公共建築です。発注者の要望で「木の良さ」を全面に
打ち出すとともに、耐震基準値I類(1.5)の最高クラスも実現しています。また木質ペレット
を使用するバイオマス熱源を採用するなどさまざまな点でチャレンジングな取り組みを行って
います。BIMにおいても、意匠モデル、構造モデル、設備モデル、備品モデルなどすべてを統
合した3次元モデルを活用することで、トータルな設計・施工の品質向上を図りました。

          図面とモデルが一体化されている

      図面とモデルが一体化されている


――デジタルモックアップや解析などへの応用は?
木軸全体のデジタルモックアップやレンズ型トラス梁のデジタルモックアップを現場での説明
に用いました。また本物件のためにBIMと連動した火災避難シミュレーションを開発しました。
一方、情報開示については、設計段階で作ったBIMデータをムービーに編集し、専用ホーム
ページで一般公開しました。町民の方も竣工後の新庁舎の内外観のイメージを非常に早い段階
から共有いただけたわけです。

          住田町新庁舎建設計画木軸

      住田町新庁舎建設計画木軸


――大きな成果ですね
構造がそのまま意匠になる木造建築におけるBIMの有効性が確認できたのはもちろん、今後の
大形耐火木造建築への足がかりにもなりました。実際、この物件以降BIM設計グループは立て
続けに木造に携わることになり、現在も3つの木造プロジェクトが動いています。ARCHICAD
で設計して思うのは木造建築こそBIMが活きるのかも。今後の展開がますます楽しみです。


初体験の本格的BIMに建築設計の新しい波を実感

中居敬一都市建築設計は、盛岡市を中心に、地域に根ざした建築設計や地域開発を行う建築設
計事務所である。住田町新庁舎の建設プロジェクトでは基本設計と監理を担当。その現場で初
めて、BIMの本格的な運用を体験したという。同社代表の平谷伸吾氏に当時の率直な感想を
伺った。

――BIMの運用現場は今回が初めてと伺いました
BIMという概念については、我々なりに研究して把握していましたが、実際に触れる機会はな
く、今回が初めてでした。この物件をとおしてレクチャーを受けながら経験できたので、驚き
はありましたが戸惑うことなく理解できました。

         株式会社中居敬一都市建築設計
         代表取締役 平谷 伸吾 氏

         株式会社中居敬一都市建築設計
         代表取締役 平谷 伸吾 氏


――BIMのどういう活用法が役立ちましたか?
今回のプロジェクトでは「木」の表現が大きなポイントでした。木造の経験は豊富な当社に
とっても経験のない一風変わった木組みや構造が用いられ、これらを理解し把握する上で、
BIMのビジアルな表現がとても役立ちました。特にさまざまな角度から確かめられるだけで
なく、3Dプリンタで模型も信じられない早さで制作できる……本当に驚きでしたね。当社は
まだBIM導入まで踏み込めていませんが早い時期にこれが業界の主流になると実感しました。

     全体のBIM架講のイメージ

     全体のBIM架講のイメージ


――どんな風に使えるとお感じですか
初期段階の設計検討やプロポーザルでのざっくりしたプレゼンテーションなど、我々のような
小規模の事務所にとっても、用途は非常に幅広いと感じています。その後も、BIMを用いたプ
ロジェクトに参加する機会が続いており、当社も必要を感じています。


BIMデータを活かした集成材製作への挑戦

石川県能美市の中東は、集成材をはじめとする木材製品の製造販売を得意とする企業である。
特に国産材による大断面集成材については、屈指の技術と実績を持つ実力派だ。住田町新庁舎
プロジェクトにおいても、プランのかなめとなるレンズ型木造トラス梁などの加工製造から建
て方まで担当。その過程で、前田建設提供のBIMデータを活用する機会があった。その取り組
みについて、集成材事業部の宮越氏と芳賀氏に伺った。

――今回は御社にとっても挑戦だったそうですが
宮越氏 設計についても製作についてもきわめて要求が高く、すべてに高い精度が求められま
した。特にこの構造体をどう図面化しプレカットの機械に繋げるかが問題で、確実に加工デー
タを流せるかどうか技術課で検証を重ねました。

 株式会社中東 常務取締役          株式会社中東 集成材事業部
 集成材事業部長 宮越 久志 氏          技術課 課長 芳賀 賢二 氏

 株式会社中東 常務取締役          株式会社中東 集成材事業部
 集成材事業部長 宮越 久志 氏         技術課 課長 芳賀 賢二 氏


――そこでBIM データを活用されたのですか
芳賀氏 前田建設から当該部分のBIMデータをいただきましたが、私たちの工作機に直接つな
いでデータとして利用するのはやはり難しく、BIMデータをイメージとして用いて確認作業な
どに用いました。レンズ型トラス梁など当社にとっても経験のない構造だったので、3Dで立
体的に見て直感的に形状を把握できたのは非常に有効的でした。

――ほかにもメリットはありましたか
芳賀氏 実際にポイントが全部取れたのはとても助かりました。 2D図面だけで形状を認識し
ようとすると、どうしても押さえきれない箇所や、納まりが理解しきれない部分が出ますが、
3Dならすべてデータになっているので、細かい所まで解析できます。効率化という意味でも
効果は高かったと思いますね。

     木造仕口部分のデジタルモックアップ

     木造仕口部分のデジタルモックアップ


――どのくらいの効率化が図れましたか
芳賀氏 BIMデータを元に、プレカットCAD用3Dデータを約3カ月で作れました。以前のよう
に2Dであのトラス梁を作っていったら、半年かけても終わらなかったでしょう。細工が1本ず
つ全部異なるような形ですから、2Dでは1本ずつ工作図を手描きするしかないし、工場でも手
加工するしかありません。BIM を使って3Dでプレカットしなければ厳しかったでしょう。
……実は前田建設との新しいプロジェクトでは、よりBIMデータを活用することで更に材料を
配置する手間をかなり削減できました。

「ARCHICAD」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。