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コラム

ブーム?木造超高層

2016.12.15

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

イギリス、モーガン社のスポーツカーは、木製フレームを現在でも続けている。車のフレーム
が木製!!? 今年のミラノデザインウィークでの日本製の展示車「SETSUNA」は外装が木製。
このモーガン車のような衝撃をイギリスで構想中の木造80階建の超高層建築に感じた。エッ、
超高層が木製!!? 否、木造。木と木造建築の概念が変わる。現在、カナダでは18階建ての
学生寮が施工中であり、スペインのリベリアには、1万2千平米を超す世界最大級の考古博物
館を中心とした複合施設の木造建築がある。日本では、BIMで工期の短縮を図った4層木造ラー
メン構造で外壁仕上げが能登ヒバの大学音楽ホール伊勢志摩のメディアセンター公共建築
教育施設、事務所、シルバー施設、医院など計画中のものを含め多種多様である。最新事例で
は、高知県自治会館や12月に完成したC.W.ニコル氏提唱の「森の学校」の考え方に基づく東
松島市の宮野森小学校がある。クロス・ラミネーティッド・ティンバー(CLT)の活用では、
南国市での事務所・店舗・共同住宅の複合建築があり、新木造へのチャレンジが各地で試みら
れ、今後も拡大基調。今の潮流は、一過性のブームとは異なるサスティナブルの考えに裏付け
された動きであり今後の大きな柱になると想定できる。既に周知の2020年の東京オリンピッ
クのメインスタジアムも木質系を中心とした計画となっている。そこで地球温暖化対応
CO2削減などに対応し、イェール大がスーパーコンピューター解析で世界に3兆450億本あ
るとした樹木や森林の活性化に直結する木造建築と木質系建築のことを少し考えてみたい。
 
このコラムを書き始めて、40数年前に大学の卒業設計の準備で奥多摩の林業に携わる山村を調
査したことを思い出した。当時は輸入材が主流で奥多摩の林業は廃れていた。調査した山村の
林業従事者の住まいは、山を下りて街に出たとかで廃屋となり、下枝などを刈り取る大きな山
林用の鎌や子供の絵日記、カレンダーなどが残され、昨日まで住んでいたような様子を見せな
がら荒れていた。調査に同行した学友の卒業設計は、山林に囲まれた庭に五右衛門風呂を設え
たハーフセルフビルドの家をこの敷地に再生計画し、見事に最優秀賞の金賞を得たと記憶して
いる。日本の高度成長期が終焉を迎えるころのことである。これから長い時を経て地球環境改
善やサスティナブルな社会を目指すなど、世界の共通目標と価値基準のパラダイムシフトが進
行し、これと呼応するように建築基準法が2000年に改正された。このことが新たな日本の木
造建築推進のターニングポイントとなっているという。これに加え、2010年公共建築に国産
木材利用の促進を図る法律も追い風となり、併せ、先進するユーロ圏でのCLTなどの先進的な
木材利用建築の多くの事例も背中を押しているといえる。現在の日本では、プレカットなどの
工場によるデジタル化された加工技術や構造的に改良された木造用金物も登場し、地震国なら
ではの対応も見られる。この根底には、地球環境の循環やエコ対応の基本理念があるが、地球
環境への負担が少ない木造化に拍車がかかり、4~5階建ての住宅から事務所建築、商業建築、
美術館、学校など多様性が増している。木質系の住居では、BIMによる外観とインテリアなど
の意匠と設備や構造との擦り合わせやプレカット、部品化、そして組立などに木質系建築でも
BIMデータの共有が可能だと考えられ、住宅では既に確認申請審査が実行されているものもあ
る。しかしながら、現状の日本は森林大国にもかかわらず、その資源活用と循環、対応すべき
BIMなどの技術がバランス良く機能していないのが実情であり伸びしろともいえる。
 
この7月に金閣寺の境内から室町時代のものとみられる仏塔頂の相輪の一部の破片が見つかっ
た。この大きさから推定すると「幻の大塔」と言われる木造の七重塔のものではないかという。
文献によるとこの大塔は、1416年に完成間近に落雷で残念ながら焼失したようだが、日本の建
築史上、100mを超える最も高層の木造建築といわれる。現在、ロンドンの木造超高層建築構想
は、この大塔の高さを凌ぐ300mを想定しているという。日本では、台風、地震と火災対策が重
要となり、諸外国の事例からも学ぶ点が多くあると考えられるが、独自の対応も必要となる。
CLT研究の第一人者のグラーツ工科大学のシックフォッハー教授がいるオーストリアは、国土の
約半分が森林世界一のCLT生産量を誇りEU各国をマーケットとし併せ木魂を3Dカッター
で構造用の部材として削り出し、この組合せで構築する技術なども研究され展開するなど多様な
先進的試みが進んでいる。

日本は、国土の≒68%が森林であるが、そのうちの≒40%が成木や老木だという。今まさに伐
採時期を迎えており逃せないという。日本でも新素材として国産の直交集成材=CLTなどが開発
され、この関連の告示も今年の3月と4月に制定されている。木質ペレットによるバイオマス発
電への有効利用なども活発になりつつあり、日本流に特化した技術といえるようになった。新国
立競技場の設計では、BIM技術が有効利用されているが、工場加工が主流の現在、大型の木造建
築での設計だけに留まらず、住宅の設計や施工でのBIM利用も進みつつある。今年のエコプロ展
では、RC造の壁に耐震補強の筋交いとして国産材の集成材を使用し、工期短縮する技術が、大
手ゼネコンから発表された。
 
女性として世界で初めて、エベレストと七代大陸最高峰登頂をされ、世界中の山々を訪れられた
田部井淳子さんは、亡くなられる直前に日本の山と里は世界で一番美しいと語られている。こ
の山里を構成する森や林を維持整備しながら美しくサスティナブルに利用が出来ることを念願し
ている。


 

松家 克 氏

ARX建築研究所 代表