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コラム

バイオコンピュータと知性

2016.12.27

パラメトリック・ボイス           アンズスタジオ 竹中司/岡部文

岡部  この関東地方の鉄道網の図(下記図1)誰が書いたと思う?
    この地図を書いたのは、実は人間ではなく、粘菌という菌の一種なんだ。
 
竹中  脳や神経を持たない単細胞生物が描き出したものとは思えないネットワーク図だね。
 
岡部  こうしたネットワーク形成の「粘菌理論」を研究する中垣俊之氏(北海道大学・電子
    科学研究所教授)らは、2度もイグノーベル賞を受賞するほど世界でも注目を集めて
    いる。
 
竹中  この研究の面白さは、粘菌の描くネットワークによる物質輸送が、実際の鉄道ネット
    ワークより輸送効率が高いという結果にあるんだ。
 
岡部  さらには、粘菌がネットワーク図を創作する過程を、発展方程式を用いて数理モデル
    化した「粘菌コンピュータ」がとても興味深い。
 
竹中  問題に対して、たった一つの解を出す既存のコンピュータとは違い、複数の解を導く
    ことのできる柔軟な思考をもったコンピュータ開発への応用が、期待されている。
 
岡部  つまり「バイオコンピュータ」の世界へと繋がっているわけだね。
 
竹中  バイオコンピュータとは、人間をはじめとする生き物の生物学的認知機能や生体の情
    報処理原理をモデル化し、これらを基に開発されたコンピュータのことだ。コン
    ピュータが人の脳のように「あいまいさ」を扱える高度な能力を持ちうる。
 
岡部  無機質の世界にも知能が誕生する未来が訪れる。
    そんな時代がやってきたら、人の創造性はどのように変わってゆくのだろうか。
 
竹中  膨大な情報量を扱い、正確な計算結果を導き出すコンピュータが、曖昧性を持つこと
    で、人間と密に共働する新しい創造性の形を導くだろう。
 
岡部  それは私たちが想像しているよりも、ずっと人間味ある世界なのかもしれない。
    しかし、コンピュータの解に依存する現社会において、人は、より確かに、人間らし
    さを自身で把握する必要が出てくるにちがいない。
 
竹中  無機質も有機物もすべてがネットワーク化され、互いに常に対話し適応する、インタ
    ラクティブで多義的なモノの姿を描き出せる時代だ。
    従来の定量的な世界から、曖昧性が許容される定性的な世界へ、実にクリエイティブ
    な世界を想像してゆくだろう。

 図1 粘菌の都市間ネットワーク作成実験 ※

 図1 粘菌の都市間ネットワーク作成実験 ※


 図2 真正粘菌変形体 ※
 ※上記の図1、図2の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元の科学技術振興機構の
  Webサイトへリンクします。

 図2 真正粘菌変形体 ※
 ※上記の図1、図2の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元の科学技術振興機構の
  Webサイトへリンクします。

竹中 司 氏/岡部 文 氏

アンズスタジオ /アットロボティクス 代表取締役 / 取締役