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コラム

米国で進むICTとコード体系による生産性向上 Part2

2017.01.19

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

米国の建設仕様書協会(Construction Specifications Institute:CSI)が制定している分類
コードを組み合わせて用いると、BIMのオブジェクトをかなり正確に定義できる。CSIは様々
な分類コードを制定し、提供しているが、その中から、OmniClassTM  Table23– Products
(2012)、UniFormatTM(2010)、MasterFormat®(2016)の関係について考えてみた
い。以下は、下記の画像に示した「柱」のオブジェクトを引き合いに記述する。


OmniClassTM Table23– Productsはひとまとまりの実態を定義する分類コード体系で23-
13 35 00:架構のプロダクト > 23-13 35 11:構造体の架構 > 23-13 35 11 13:柱-床
構法 > 23-13 35 11 13 11:柱という具合にオブジェクトを定義する。日本の建設事情に
合わせれば構造体の柱とか間柱とかの定義であろう。BIMソフトウエアで選択するオブ
ジェクトには、付いているべし番号の一例と考えれば良い。UniFormatTMは、主として部位
を定義する。B:躯体 > B10:地上躯体 > B1010:一般階の施工 > B1010.10:一般階の
構造体、というように、配置した柱が、どの部分に設置されている部位なのか、という情報
を与えるものである。MasterFormat®工種を定義する分類で03 00 00:コンクリート
> 03 30 00:現場打ちコンクリート、という形となる。UniFormatTM(2010)では、コー
ド体系のレベル4“B1010.10:一般階の構造体”の下層に、レベル5として“03 30 00:現場
打ちコンクリート”の番号を与えることができるようになっている。かくしてこの柱のオブ
ジェクトは、「床‐柱構法の地上躯体の一般階の構造体に使われている現場打ちコンクリート
の柱」と定義される。CSIは複数の並列した分類体系の記述を組み合わせてオブジェクトを
定義する“Faceted Classification”の手法を採用している。それを体現した分類システムがOmniClassTMであり、OmniClassTM では、UniFormatTMがTable21- Elements、
MasterFormat®がTable22- Work Resultsとして扱われている。

MasterFormat®=OmniClassTM Table22- Work Resultsは、文字通り、作業の結果である。
すなわち、先の柱で付与した“03 30 00:現場打ちコンクリート”は、何らかの材料を組み合
わせた結果として生成されるものということになる。一般的に考えれば、現場打ちコンク
リートは、型枠・鉄筋・コンクリートという材料を組み合わせたものと一義的に定義できる
そうである。さらに、それらに対する作業として、型枠:組立て・解体、鉄筋:配筋、コン
クリート:打設・押さえというように、これも概ね一義的に定義できよう。そして、これら
の定義は、MasterFormat® の“03 30 00:現場打ちコンクリート”に関連付けたデータベー
スとして事前にセットできるし、各材料や材料に対する作業ごとに実勢価格や労務歩掛りを
蓄積することができる。

これで「床‐柱構法の地上躯体の一般階の構造体に使われている現場打ちコンクリートの柱」
に対する材料や作業が定義できるわけだが、これは、工程計画におけるWBS(Work
Breakdown Structure)そのものになる。つまりBIMモデルから、Primaveraのような
プロジェクトマネジメントツールに、WBSの情報を伝送できる可能性がある。また、
RSMeans社が提供しているようなコスト情報に材料や作業を連携すれば、コストマネジメ
ントや長期修繕計画に活用できそうである。BIMモデルから出力する情報には、体積や面積
などの数量情報も含まれているので、時間やコストを計算できる。こうした分類コードの活
用が5D-BIMの本質的な部分ではないかと思う。しかし、BIMモデルから抽出できる情報の
中に、オブジェクトとオブジェクトの支持関係は含まれていない。例えば梁は柱を連結す
るものであるという支持関係に基づけば、梁→柱という関係性を、例外を除き、ア・プリオ
リに得ることができる。この支持関係の情報が意味することは、梁は柱の施工が終わらない
と架けることができないという施工順序である。もう少し作業をブレイクダウンすれば、梁
の型枠は柱の型枠が施工されないと架けることができないという作業順序の定義になる。材
料相互の支持関係、BIMソフトウエアでいうところの「拘束」という情報を、梁→柱のよう
にベクトルを持った状態で利用できるアプリケーションがあれば、BIMとプロジェクトマネ
ジメントツールを連携させて実務に役立つように活用できる道が開けてくるのではないだろ
うか。

BIMにおける“I”Informationすなわち「属性情報」の活用がいわれて久しいが分類コー
ドの活用を真剣に考えてみる時期に差し掛かっているのではないだろうか。因みに、小職が
授業で利用している、Autodesk社のRevitは、最新版でないものの、OmniClassTM 
Table23– Productsをファミリに、UniFormatTMをオブジェクトのアセンブリコードに、
MasterFormat®をオブジェクトのキーノートに、選択的に付与できるようになっており、
分類コードを活用する準備は整っている。こうしたコードを利用すれば、設計の早い段階で
見積り・工程計画・長期修繕計画を比較的詳細に行うフロントローディングが可能になるこ
とは、自明と思われる。


志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授