空調気流や温度分布のシミュレーション結果を3D
体感できるMRシステムの構築によりイメージどおりの工事を実現<三機工業>
2017.01.19
建築設備事業などで高い技術力と提案力をもつ、総合エンジニアリング企業の三機工業。
ソフトウェアクレイドルの熱流体解析ソフトウェアSTREAMを活用することで、空調設備の効
果を検証している。さらにクライアントへの提案力と説得力を高めるため、STREAMと
MR(Mixed Reality:複合現実感)システムを組み合わせることで気流などのシミュレーショ
ン結果を3D体感できるシステムを構築。クライアントに、現実空間にシミュレーション結果
を重ね合わせて3D体感してもらうことで、深い理解が得られ、意思疎通を図るのに大きく役
立っている。
複雑な空調の提案に対応するSTREAM
三機工業は、キヤノングループ会社と共同で、空調気流・温度シミュレーションの3DCGデー
タとMRシステムとの連携により、目の前に空調気流や温度分布が実在するかのように3D体感
できるシステムを構築した。
実際の空間にリアルタイムにつなぎ合わせられるのは、ソフトウェアクレイドルの熱流体解析
ソフトウェアSTREAMやSCRYU/Tetraのシミュレーション結果である。三機工業がSTREAM
を導入したのは約28年前。現在、技術研究所でSTREAMをメインに扱うのは6名だが、建築系
の新人にはSTREAMの使用が必須になっているという。習得したスキルを、支社や支店に異動
配属された時に活用してもらう狙いである。中堅社員も、案件ごとにOJTでテクニックを習得
していて、会社全体では70名ぐらいがSTREAMを使用できる。「計算条件のチェックやアド
バイスできる立場のスタッフが支社支店にいると、シミュレーション自体は研究所で実施して
も効率がよくなります。クライアントからシミュレーションの依頼を受けた時でも、条件を整
理して優先順位を絞り込んで目的を明確にしたりするなどで、意思疎通をスムーズにすること
ができるのです」と福森氏は語る。
三機工業株式会社 技術研究所 建築設備開発部
建築設備2グループ マネージャー 福森 幹太 氏
技術研究所で扱う年間の物件数は30件前後で、建物の用途は、病院、工場、オフィスビルが多
い。新築案件はそのうち1/3ほど。既存建築物の改修やレイアウト変更の案件に伴う空調設計
が2/3を占める。既設の生産装置が何年かして入れ替わると、以前の空気の流れや温度の分布
が変わってきてしまうこともある。こうした場合、コストの制約と適切な環境を得るために、
すべてを刷新せずターゲットを決めて部分的に改修し能力アップを図ることが求められるケー
スが多いという。「クライアント側から改修案が提示される場合もありますが、STREAMでシ
ミュレーションをかけ、各種の建築図を見てバランスを考えながら、最適な案を提案していま
す」と福森氏はいう。
「STREAMを使うことで最も助かっているのは、クライアント側から提示された案に対して、
設計上うまくいかないという場合に、その根拠を明確にできることです。もう一つは、現状の
把握が的確にできること。例えば、シミュレーションから空間に淀みや熱溜まりができている
個所がわかるので、どのような手段で気流を改善すると効果があるか、事前に当たりをつける
ことができます。そうして、設計担当者や設備技術担当者は気流を詳しく確認して、改善案を
具体的に示すことができるため、STREAMは不可欠なツールになっています」と福森氏は語る。
三機工業技術研究所では、シミュレーション結果の精度を高めるため、実際の現場における測
定や実物大モックアップによる実験とシミュレーションとの整合性をとっている。
シミュレーション結果の3D体感により高い臨場感を得る
気流や温度のシミュレーション結果は、これまでクライアントに出力紙やビデオ映像として見
せることが一般的であったという。福森氏はこうした方法が伝わりにくかったと指摘する。
「気流や温度は目に見えず、クライアントが想像していた出力イメージと相違することが多い
ので理解が困難な場合があります。また、シミュレーション結果の断面が異なっていたり、気
流や温度のスケール色、色味が異なっているなどの主観的な意見が出ると、やりとりが煩雑に
なってきます」。そうした折に、キヤノンマーケティングジャパンとキヤノンITソリューショ
ンズから「MREAL」が2012年にリリースされた。福森氏は「”STREAMで行うシミュレーショ
ンをひと目でわかるようにし、クライアントに伝えやすくしたい”と早速相談に行きました。そ
こからどのように気流や温度を見せられるかを、約3年をかけて協議・構築してきたのです」と
語る。三機工業が導入したMREALは、ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)とコンピュー
タ、そして位置マーカーで構成される。
MRのシステムフロー図
現実映像をHMDに内蔵された3Dビデオカメラで撮影し、その映像をコンピュータに送る。ま
た、3Dビデオカメラなどが捉えた位置マーカーとジャイロセンサーにより、ユーザーの頭の位
置や姿勢を精密に計測してコンピュータに送付。現実映像と、STREAMやSCRYU/Tetraの空調
関連のシミュレーション結果や仮想CG映像を高精度で合成する。この合成された映像を再び
HMDに送り返すことで、歪みが少ない実物大の複合世界を、ディスプレイ表示する。例えば、
病室を想定したセッティングでは、実際には存在しない仮想のベッドや横たわる人が視界に映
し出される。同時に、天井面にあるように見える空調設備からは、温度に応じて異なる色が付
けられた動く矢印が目の前に現れ、空調の気流や温度分布が実在するかのような臨場感が得ら
れる。
MREALを利用したユーザーから見える空調気流シミュレーションの映像
人の動きにリアルタイムに対応する効果も大きい。仮想ベッドに近づくと違和感なく距離が縮
まり、HMDの向きを変えると周囲の風景や気流を表す矢印も追随する。「ARやVRとは異なりMREALは位置合わせの能力が高く、また自分の手と対象物の重なりができても肌色で補正をす
るので自然に見えます」と福森氏。どの位置であれば風が当たるのかを、実物大で体感的に理
解できるのである。
人の動きや視線に3Dデータも連動する
コミュニケーションを円滑にし説得力を高めるバーチャル体感
福森氏によれば、病院での案件について、MREALを活用した事例がすでにいくつかあるという。
「病室では寝ている患者の滞在時間が長いので、音や光よりも、ちょっとした気流に関するク
レームが最も多いのです。一方で病室を訪れる面会者などは気流感がないと、もわっとした不
快感を抱きます。患者に気流が直接当たらないような冷暖房の輻射パネルと、患者以外のとこ
ろに気流を生む吹き出し口を組み合わせた設備機器を設定するなどして、MREALでシミュレー
ションと重ねて見せています」。
病室の空調気流シミュレーションの操作画面
「クライアントの方々が”こんなふうに空気は流れているのか”と驚かれる様子を目にします」
と福森氏はMREALの効果を語る。三機工業は、展示場やモックアップとして病室を製作して
MREALを設置。クライアントにはそこに訪れてもらうほか、システムは可搬式となっているた
め、客先に持ち込んでセッティングし運用することもできる。「実際のレイアウトに対応して、
事前に何パターンかシミュレーションをし、現地で提示すると説得力が高まります」。
今回、三機工業が橋渡しとなり、キヤノングループはSTREAMなどのCFDソフトウェアから数
値シミュレーション結果を直接MREALに取り込む専用プラグインを開発し、独自手法のシステ
ムを共同で構築した。同システムにより、検証に掛かる時間と労力を大幅に削減することがで
きた。
これからの展望について福森氏は「BIMのデータをインポートすることで、モデル製作の時間
短縮に繋げたいと考えています。一連の流れを整備することで、MREALの見せ方がしやすくな
るほか、竣工後のメンテナンスや変更時にも活用できるはず」とする。さまざまな用途や規模
での展開が期待されるSTREAMによるシミュレーション結果のMRでの体感は、今後も一層の
発展が見込まれる。
「STREAM®」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。