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コラム

Googleリアルタイム翻訳に、ウェアラブルデバイスの方向性を学ぶ

2017.02.02

ArchiFuture's Eye                 日建設計 山梨知彦

■Apple Watchは50代の憧れICT
恥ずかしながら、僕は、初代Apple Watchのユーザーなのです。
いち早く手に入れ、会社の後輩たちに見せびらかし、彼らからの「イイっすね! 僕も欲しい
な」といったような羨望に満ちたコメントに悦に入っていた。ところが意外なことに、仕事で
お会いする僕と同世代のクライアントやゼネコンさんの重役の多くが、そろいもそろって
Apple Watch(以下AW)を使われていて、小自慢が出来ずに驚いた覚えがある。先方も、僕と
同じ思いだったらしく、小自慢が出来ずに残念そうな表情を浮かべられていた気がする(笑)。
あれから早2年近くが過ぎようとしているが、コメントとは裏腹に、身近な若者は誰もAWを
買いはしなかった。いや会社の中だけではない。電車に乗ってみたって、AWをしている若者
なんて見かけやしない。ユーザーの主流は、未だに僕ら50代ではなかろうか。
ここで思い出すのは、1965年ごろに放映されていたテレビアニメ「スーパージェッター」の
中に出てくる腕時計型デバイス「タイムストッパー」だ。主人公のジェッタ―が愛車「流星号」
を「流星号、流星号、応答せよ!」と呼びだすために使っていたアレである。時計型デバイス
は、子供のころジェッタ―の洗練を受けた今の50代世代にとって、ICT機器の一つの理想形と
して刷り込まれているに違いない。
<下記の画像の再生ボタンをクリックするとYouTubeの動画が再生されます>



この現象は日本に限ったものではないらしい。1965年頃には、サンダーバードなどの人気番
組の中で世界的に腕時計型のウェアラブルな未来志向のデバイスが登場し、今の50代から
60代世代の子供心を捉えていたようだ。
そんなスーパージェッターの呪縛にはまり、逃れられなくなってしまった僕ら50代には魅力
的に見える腕時計型のデバイスだが、どうやら若者の目には、理想的なICTデバイスとは到底
映らないらしい。彼らの眼差しは、どこに向けられているのだろう。
 
■Googleリアルタイム翻訳と眼鏡型ウェアラブルデバイス
数日前日本でもGoogle翻訳の「リアルタイム翻訳機能」が使えるようになた。ものすごく
話題になっているからすでに試された方も多いと思うがまだ試されていないのであれば、す
ぐにアプリをダウンロードして試されることをお勧めする。とにかく面白い!
<下記の画像の再生ボタンをクリックするとYouTubeの動画が再生されます>





簡単に言えば、スマホのカメラで写しているものに、日本語があれば、リアルタイムで英語に
翻訳し、色やフォントの大きさを調整してはめ込み合成を作ってしまうという、高度であるが、
マニアックで得体の知れない翻訳アプリだ。英語から日本語への翻訳もリアルタイムで可能だ
から、何も机の上でのお堅い翻訳作業に使うばかりではなく、レストランで英語のメニューに
かざして日本語化するとか、街で見かけた英語のサインや看板を日本語化してくれる。
いやむしろ、こんな使い方の方がピッタリなアプリと言えそうだ。
正直言ってこれまで、Googleグラスに代表される眼鏡型ウェアラブルデバイスの使い道が今
一つピンとこなかったのだ。眼鏡から読み取った画像情報が、AIを使って分析、認識され、有
用な情報を眼鏡上に画像として返され、目の前のリアルな画像にオーバーレイされる仕組みは
何となく理解が出来るのだが、SF映画の呪縛の為か、情報はテキスト化され、画面の横に表示
されるイメージを持っていた。これってちっとも面白くない。でも、Googleリアルタイム翻訳
のリアルな画像と翻訳されたバーチルな文字情報がリアルタイムに合成された新しいリア
リティを目の当たりにしたことで、これは眼鏡型のデバイスとは相性が抜群に良さそうと思え
てきた。こうなると一気に、眼鏡型ウェアラブルデバイスの可能性が浮かんで来るから面白
い!(笑)。
朝起きたら、まず眼鏡型デバイスを装着。トイレに行くと、「Googleトイレ」アプリとの連動
で、肉眼では見えない尿や便の中の成分について、便や尿自体が雄弁なキャラクターとなって、
便器の中からリアルタイムで僕に語りかけ、健康状態を教えてくれる。食卓に向かえば、
「Googleカロリー」が自動作動して、テーブルに並んだ食べ物の、食べる順番やら摂取量が指
示される。その指示に逆らおうものなら3か月後の不摂生により醜く膨らんだお腹周りのバー
チャル画像や、それを後日回復するために映画「ロッキー」張りの厳しいトレーニングに涙す
る自分の姿のバーチャル画像が流れ、効果的に食欲を失わせてくれるかもしれない。カミさん
の方を振り返ると、現実世界のカミさんはにっこり笑って「お好きなだけ、食べてねー」とは
言っているが、「Googleマインドリーダー」を通した眼鏡上のカミさんの顔は激怒で赤くなり、「私がつくった手料理、まさか残す気じゃないわよね!」と凄んでいる!
Googleリアルタイム翻訳をいじっていたら、こんな具合に想像が掻き立てられ、眼鏡型デバイ
スが一気に最有力次世代デバイスに思えてきた(笑)。
 
■Google音声翻訳機能で友達になる
でも冷静になって考えてみれば、デバイスにこだわること自体が、もはや時代遅れなのかもし
れない。
外国人建築学科の学生が主催するパーティに呼ばれて驚いたのは、招かれた人々の多様性と多
国籍性。母国語が違うのは当然として、英語も日本語もしゃべれない人たちも来ている。主催
した学生に聞いてみたら、最近クラブで知り合って意気投合して誘ったとのこと。言葉も通じ
ないのにどうやって意気投合したのかと思えば当たり前のようにスマートフォンの「Google
翻訳」で筆談をしたというではないか!
デバイスに対するこだわりなんて微塵も感じさせないこうしたICTの自然だが積極的な使い方
にこそ、あるべきデバイスのカタチへのヒントが隠されているかもしれない。

 Googleリアルタイム翻訳で、「バカの壁」の表紙を翻訳しているところ。実際には、翻訳した
 い言葉が組込まれているものにカメラを向けるだけで、言葉を翻訳し、元の位置にはめ込んだ
 合成画像を、リアルタイムで作成してしまう。是非とも、眼鏡型ウェアラブルデバイスで使っ
 てみたいアプリだ。

 Googleリアルタイム翻訳で、「バカの壁」の表紙を翻訳しているところ。実際には、翻訳した
 い言葉が組込まれているものにカメラを向けるだけで、言葉を翻訳し、元の位置にはめ込んだ
 合成画像を、リアルタイムで作成してしまう。是非とも、眼鏡型ウェアラブルデバイスで使っ
 てみたいアプリだ。

山梨 知彦 氏

日建設計 チーフデザインオフィサー 常務執行役員