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コラム

Architecture,Building,FacilityとBIM

2017.03.21

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

2月21日に日本建築学会主催の「BIMの日シンポジウム」が開催された。力不足ではあるが、
光栄にもパネルディスカッションの司会を担当させていただいた。豊かな経験と高い見識をお
持ちのパネリストの皆さまに示唆に富む事例、お考えを披歴いただいた。中でも前川國男建築
設計事務所にいらっしゃった中田準一氏のお話は、考えさせられることが多かった。BIMとは
直接結びつかないが「従来の建築をつくる体制が崩壊した。建築家、設計者は調査から保証ま
で一貫して関わるべきであるが、近年はその逆にプロセスがぶつ切りにされている。それぞれ
の段階で何をすべきかがマニュアル化され、総合的な責任の所在があいまになっている」、
「発注者も変化し説明責任が求められ、公・民ともに発注者が官僚化している」という指摘に
首肯するとともに、BIMが貢献できることがあるのではないかと思った。また「BIMに関わる
人たちが“いい建築をつくるためにBIMを使う”と言っている」のでパネリストを引き受けたと
おっしゃっていただいた。“いい建築”をつくるのにBIMがどれだけ役立つかは明言できないが、
“いい施設”をつくるためにはBIMが大いに貢献すると確信している。根拠はない。建築:
Architecture、建物:Building、施設:Facilityというほぼ同じ意味を持つ単語の語感の違いから
である。建築をつくるプロセスを含めて“いい建築”づくりにどれだけ貢献できるかというBIM
の課題を発見したシンポジウムであった。
 
話は変わるが、十数年ぶりに歯医者に行った。診察のためにレントゲンや口内の写真を撮られ
た。小さな虫歯があり、歯石が溜まっていて一部が中度の歯肉炎だと診断された。自覚症状は
なかったが、特にケアもしていなかったので診断結果は想定内だった。驚いたのは、説明と今
後の方針を決めるプロセスである。机上のモニターに歯石が溜まっている自分の歯が映し出さ
れ、歯科医の手元のiPadにはさまざまな写真や資料が収められている。健康な口内と現状との
比較や放置し進行した時の事例の提示、歯の構造や飲み薬が効かない理由などが示された。正
確であろう情報の提示と丁寧な説明で、患者が納得して結論が出せるようになっている。これ
がインフォームド・コンセントだと実感した。
 
歯科医の説明を聞いているうちに建物の維持管理を思い浮かべた。建物の現状や保守の良し悪
しによる将来の状態は示すことは可能であるし、現在でも行われていると思う。しかし将来の
悪い状態を示すだけでは、脅しと受け取られる可能性が高い。劣化のメカニズムやそれが施設
に与える影響を、建物の構成とともに示す必要がある。それにはBIMモデルが恰好である。矩
計図や平面詳細図程度の情報が必要となると思われるが、図面による表現では建築の専門家で
しか理解できない。最近はBIMモデルを用いて分かりやすく表現している事例が数多くあり、
その手法が利用できるのではないかと思う。すでにやっているという方がいらっしゃれば、是
非その手法や効果をご教示いただきたい。完成した“いい施設”を維持していくためにもBIMは
大いに貢献できることを示したい。

 BIMの日シンポジウムの会場風景

 BIMの日シンポジウムの会場風景

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長