Magazine(マガジン)

コラム

アトリエ事務所とBIM

2017.05.09

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

JIA(日本建築家協会)環境委員会が主催した栗林賢次建築研究所の栗林氏とカシモ(株)の
左近充(さこんじゅう)氏、両氏のセミナー、「本当は教えたくないBIMテクとZEH/ZEBへの活用展望」に参
加した。今までにBIMはアトリエ系や少人数の事務所に有効度が高いのでは、との見解が多く
あるにもかかわらず、遅々として小事務所での展開がない状況が続いてきた。最近こそ、住宅
などでの事例も増え小事務所でのBIMの有効性の意識が芽生えてきたが、なかなか順調に進ま
ない。大きな理由にBIM環境整備のコストとスキルを持つ若手人材の問題があると考えられる。
このセミナーでは、これらを乗り越える大きな示唆があった。
 
先ず、栗林賢次建築研究所がBIMに移行する切っ掛け話から始まった。事務所運営が行き詰ま
たった一人となった栗林さんご自身が、当時の状況から何とか脱することを試み、最初に
既存のソフトで3Dモデリングにトライ、うまく熟せなく挫折。この時期に若手が参加。その
時に依頼を受けていたプロジェクトの全てを任せ、ベテランの栗林氏との二人体制で進めたこ
とが、その後のBIMの良き展開につながったという。この3次元の入力中に次のステージへの
ヒントや課題などが確認できいくつかのプロジェクトのプロセスの中で3DやBIMの有効性の
確信が持て、ハードも徐々に整え、ソフトもその時までに利用していた環境に合ったものを少
しずつ加えていった。ただ、原資に限りがある小事務所ゆえに、そのやりくりと身の丈に合っ
た展開を心掛けたことも強調されていた。その後にBIM化の全てを任せた若手にさらにもう
一人が加わり、若手同士での工夫と研鑽、併せ、栗林氏の意見などを加え、段階的に環境を整
えながら岐阜加子母(かしも)ヒノキの利用を図る「加子母子屋プロトタイプ開発」で、本格的なBIM化
へ歩を進めたという。このプロジェクトで有効性が確認出来、契約書に外構を含む3Dデータ
も含め、現在では、個人ユースから複数人による同時業務が可能なソフトを導入。エリア分け
での作業と相手の作業領域での入力や変更も可能となるBIM環境が構築出来たという。併せ、
今は遠距離での施主との画面を通した打合せとテレビ会議が可能となる無料ソフトの有効利
用や補助タスクなどを考えていることにも触れられた。大手設計事務所では、BIM化、同時翻
訳機能を備え始めたスカイプやテレビ会議など既に実用化されているが、小事務所での今後の
展開に期待が持てる。
 
国は2020年までに新築住宅・建築について省エネルギーのZEHやZEB基準への適合を義務化
するロードマップを策定し、推進している。これに対応する手法として「BIM化」は、小事務
所での質の高い検証ができる有効的な柱となり、不可分なものになると想定できるが、BIM化
へのアイドリングがなく急発進には困難が伴うだろう。ましてやベテランだけでも上手くいか
ないことがこのセミナーからもわかる。今からでも若手参加を見据えた対応が火急といえる。
栗林氏は、3DやCGでの歪みや変形を再確認するために模型も必ず併用し、プレゼンは、模型
や3D・CGと動画で行ない2次元の図面などは使用しないという。これにクラウドの利用
種の分析やシミュレーションの可能性も見えZEH/ZEBでのエクセルとの連動対応などは
だ不十分だが、今後の展開に大きな期待をしていると力強く話された。
 
思い起こせば、BIMの普及は、CAD普及の初期の段階に類似している。大手事務所から始まっ
た初期のオフコンCADの頃は、小事務所では手が出せない状況であった。この環境の中で、
PCに対応する比較的廉価の日本独自のソフトが出現し紆余曲折を経験しながら、あという
間に普及した。BIM化も大手事務所や大手ゼネコンから導入が始まり、似たような展開を見せ
ている。近々の内にフラッシュオーバーのように小事務所での爆発的な普及が想定できる。そ
れが何時起こるのか予測できないが、楽しみでもある。クライアントやエンドユーザーの期待
に応えるべき個人住宅や共同住宅などの設計では、大手ハウスメーカーなどに対抗できる機能
が備わっており、大きな戦力となる。BIMは、小事務所がイニシアティブを確保できる必要不
可分のものになると確信できる。

 ※写真は、本文で紹介している事務所の写真ではありません。

 ※写真は、本文で紹介している事務所の写真ではありません。