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コラム

プルーヴェのBCCハウスから、クックパッド住宅へ

2017.05.23

ArchiFuture's Eye                 日建設計 山梨知彦

このゴールデンウィークの間、たまたま海外出張が続いた。飛行機の中で見る映画も尽きて、
「AIは、今後どのように建築デザイン分野に入り込んでくるのだろう?」などと、さしたる根
拠もない夢想にふけってしまった。
 
■万能型のAI
将来的にはなんでも出来る「万能型」のAIが登場して、人間がやることなどほとんど無くなっ
てしまうかもしれないが、万能型の登場までにはまだ時間が必要だろう。この域に至ったAIは
もはや神様であるから、凡人には夢想すら難しい(笑)。でも、そもそも僕は、絶対とか万能と
かを信じてないから、こんな小憎らしいAIの登場自体が想像できない。それに正直に言えば、
普段から自分の知能をはるかに超えた人材に囲まれ、仕事して、さしたる支障もなく暮らして
いる身としては、AIの知能が人間のそれを超えたぐらいでは、シンギュラリティなんていう大
それたことが起こるとも思えない。「最近、便利になりすぎて困っちゃったね」なんていうお
気楽な話題が週刊誌をにぎわす程度だろう。人間はどん欲に、AIを飲み込んでいくに違いない。
 
■専門領域特化型AIの三原則
夢想していて楽しいのは、専門領域に特化した「可愛いAI」だ。まず現状のAIが大活躍をして
いる将棋や囲碁やチェスといったゲームであることから類推してみると、可愛いAIの出番には、
次の3つの原則がありそうだ。①比較的ルールが明確で、②結果が評価しやすい部分で、かつ
③ゲームのように多くの人々が頻繁に繰り返して検討を試みることに使われるとみるのが妥当
そうだ。
 
■ボリュームスタディAI
この三原則が当てはまりそうな作業は、建築の領域でも多々思い当たる。
まず挙げられるのは、いわゆるボリュームスタディ。たとえばオフィスビルであれば、①法的
規制の中で、②最大限の床面積を、③プロジェクト関係者が納得いくまで頻繁に繰り返し検討
される。精度の高い検討が素早く求められる事項であるから、比較的早くAI化される可能性が
ありそうだ。一方で、こうした考えもある。ボリュームスタディは、現状では設計事務所やデ
ベロッパーの若手社員の訓練として行われていて、実質的なコストはそれほどかかっておらず、
専用のAIを開発し維持していく方がはるかにコストが嵩んでしまう可能性が高い。③の頻度が、
AIを用いる域に達していないのだ。ゆえに、こうした領域は、AI化が進みそうだが実はなかな
か進まないし、一度AI化されたとしても長く維持されそうにない。たとえ、最適ボリューム検
討を自己学習していく勤勉なAIが生まれたとしても、こうしたAIを可愛がるのはボリュームス
タディによる徹夜から解放される若手社員程度で、社会的に大きなインパクトをもたらすには
至らないだろう。
 
■階段設計・トイレ設計AI
むしろ、避難階段であるとかトイレの設計といった、①必要な数を、②最小の面積で、③多く
のプロジェクトにおいて汎用利用可能なAIの方が、実現の可能性は高い。事実、多くのBIMソ
フトウェアが、すでに階段を半自動で設計できる機能を組み込み済みである。でもこれもまた、
設計事務所や階段工事専門業者やトイレ機器メーカーなどの設計者の一部には可愛がられるも
のの、クライアントやユーザーといった建物に関わる関係者の多くには直接の利益を生むもの
ではない。AI化はされるであろうが、その性能は利用頻度に見合ったレベルのものに止まるで
あろうし、社会的なインパクトの弱い「地味なAI」にしかなりえないだろう。
 
■ファサード設計AI
AIではないが、設計実務において現在、コンピュテーショナルな手法を最も用いているのは、
ファサードのデザインスタディではなかろうか。主流はRhinoとGrasshopperを組み合わせた
設計環境により、変数を変えることで形状やサッシュ割、サッシュの太さなどを自在に変更し
てスタディを重ねる手法だ。中国や中東などにみられるユニークな形状の超高層ビルの多くは、
おそらくこの恩恵のもとに生まれているであろうから、もはや無視できない存在だ。またファ
サードは、ビル建設コストの1/4を占める部分でもあり、コスト上のインパクトも大きい。
そして何よりも、多くの建築家や、クライアントにとっても、ファサードのデザインは重大事
である。ここにAIが組み込まれ、より入念なスタディが成されるようになることは間違いない。
次期Grasshopperは、間違いなくAI-enhancedに違いないと、僕は予想している(笑)。
とはいえ、このAIとて直接手に触れるのは建築家のみであり、所詮は建築家にとって可愛い
「裏方のAI」にしか過ぎない。
 
■クックパッド住宅
それでは、建築デザインにおけるAIの本命はなんであるかと言えば、僕は住宅に関わるAIでは
なかろうかとの考えに至った。
20世紀には、住宅は工業化の影響を受け、プレファブ住宅などの工業化住宅や、日本で顕著
に進んだ商品住宅を生んだ。21世紀には、AIと専用Webサイトを使って、設計や部材発注、
そしてセルフビルドで組み立てる、丁度料理レシピサイト「クックパッド」にアクセスしなが
ら気軽においしい手料理を作るように、住宅をセルフ設計/施工する「クックパッド住宅」が
誕生するのではなかろうか?
クックパッド住宅は、①自分が欲しいデザインの住宅を、②自分の好みと予算に合わせて、
③皆が造れることを目指すシステムだから、AI向きである。20世紀のプレファブ住宅や商品
住宅であれば、マスプロダクションされたもの押し付けられるだけであったが、クックパッド
住宅は、AIの助けにより個人の好みに合わせた住宅をマスカスタマイゼーションする21世紀
的な仕組みでもある。住宅が欲しい人は、「住宅クックパッド」サイトにアクセスし、「ヘイ、
クックパッド!」と、質問に対して話をしていると、瞬く間に設計が成され、構造計算が成さ
れ、工事費が示される。建築家にとっては残念なことだが、ここまでの設計料はひょっとする
とタダかもしれない!デザインと価格がOKであれば、発注ボタンを押せば、確認申請が提出
され、指定の日時に指定の敷地に、組み立てキットと組み立て用レンタルロボットが届く仕組
みだ。
これが実現するころには、社会に広くAIの影響が出始めているはずで、うまくいけば仕事量が
低減しつつも「ベーシックインカム」が生まれ収入は増え、悪ければ仕事から追い出されては
いるものの時間は持て余していることになる。いずれにせよ、現在よりも自由時間は増えてい
るに違いない。この事態に至れば、「多くの人々が、人生最大の買い物である自宅をセルフビ
ルドして、少しでも安く建てることを目指す」という予測は突飛なものとは言えないだろう。
事実、1970年代のデンマークでは、若い夫婦が週末を使ってプレファブ住宅をセルフビル
ドすることがごく普通に行われていたようだ。
こうなると、AIはみんなのものであり、AIの利用頻度はけた違いに上がり、その結果住宅コス
トがけた違いに下がり、社会における住宅設計と生産の意味が、AIにより一変されることにな
る。クックパッド住宅こそが、建築デザインにおけるAIの本命ではなかろうか。
もちろん、クックパッドがいかに普及しようともシェフによる手料理が駆逐されないように、
クックパッド住宅の存在が逆に、建築家の手による住宅の21世紀的意義を浮き彫りにするは
ずだが。
 
■ジャン・プルーヴェのBCCハウス
こんなことを考えていた時に、建築を「生産する」立場から追及した建築家、ジャン・プルー
ヴェの8m×8mの木造組み立て住宅「F 8×8 BCCハウス」を見学させていただく機会を得た
(写真1)。プルーヴェの仕事自体も大変勉強になるものだったが、見学に参加した30人ばか
りの建築家の食い入るように見つめるまなざしも興味深かった(写真2)ディテールの一つ
一つを取り上げ、プルーヴェが何を考えそのかたちへとたどり着いたかをトレースする過程は、
皆がプルーヴェとなったような面持ちとなっていくよう。その面持ちはプルーヴェ自身にとっ
てもこの住宅は、大量生産型住宅のプロトタイプであると同時に、彼用にカスタマイズされた
小宇宙であったことを教えてくれた。そうか、住宅における喜びの一つとは、設計にしろ施工
にしろ、その住宅の誕生のプロセスに自らが関わることなのだ。この意味においても、クック
パッド住宅は、住宅とオーナーの新しい関係をAIの助けによって切り開く21世紀的住宅と言え
るのかもしれない。
気持ちの良い春の日差しの中、そんなバカげた夢想が、時差ボケの頭の中を巡った。

  写真1

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      写真2

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