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コラム

建築とイノベーション

2017.07.04

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

コラム仲間の志手先生が「建築ものづくり論」という本で2017年日本建築学会著作賞を受
賞した。大変おめでたく、うれしいことである。先日、有志でささやかなお祝い会を行っ
た。著作を手にしないでお祝いするのも気が引けたので、近くの書店で購入して一読した。
この本、凄く面白い。東京大学ものづくり経営研究シリーズ第8弾で『特殊な世界とみられ
がちな建築物および建築業を、できるだけ「普通の人工物」「普通のものづくり産業」とし
て分析することによって、新たな知見や発見をえられないか、という共通の動機でかかれて
いる。』とのことである。奥付を見ると2015年7月10日が初版1刷発行とある。2年近く
前に出版されていたのである。もっと早く読んでおくべきだったと悔やんでいる。
 
ものづくり産業(製造業)では、さまざまなイノベーションが起こっている。はやりのイン
ダストリー4.0もIoTも、対象としているのは主としてものづくり産業である。建築業での応
用を考える時に、冒頭で紹介した本は非常に参考になる。建築業の分析、ものづくり産業と
建築業の類似点と相違点、建築業へのものづくり経営学の導入など、本書で述べられている
ことを知らないで、建築業のイノベーションを探し求めるとあらぬ方向に進んでしまうこと
だろう(結果として、それがいいかもしれないが)。建築業でのイノベーションを考えてい
る人は必見の書である。
 
iPhoneが発売されて10年だそうである。スマートフォン自体も立派なイノベーションだと
思うが、新たなイノベーションを誘発する基盤となっていることの意義は大きい。スマート
フォンによってさまざまなものが変化したが、最大の変化は常にネットワークにつながった
状態で、個人情報が本人とともに移動していることではないだろうか。個人情報は刻々と更
新され、条件が整えば、いつどこで何を買ったかだけでなく、そこにいたるまでに、どこに
行って何を見てきたかという情報も得ることができる。誰がそこにいるかではなく、どんな
好みを持った人がどうやってそこにやって来たかが分かる。交通量を調査するまでもなく、
技術的には人や車の流れの情報は取得可能である。建築の即応性が高ければ、このような情
報を活用し、新たなイノベーションを起こしたいところである。しかし、スマートフォンか
ら得られる情報で、建築が変わったという話は聞かない。イノベーションのきっかけはス
マートフォンだけではないし、IoTやICTだけでもない。素材、工構法からファイナンスに
いたるまでさまざまな可能性がある。ものづくり産業に負けず、建築、建築業でもイノベー
ションを起こしたいものだ。