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コラム

オタクとコミュニケーション

2017.07.20

パラメトリック・ボイス                清水建設 丹野貴一郎

先日、福岡から東京に帰ろうとした際に、滑走路上での機材トラブルが原因で離着陸ができず、
福岡空港が閉鎖になるというトラブルに遭遇しました。既にドアもクローズされ滑走路に向
かっている途中で起きたため、そのまま機内に1時間程閉じ込められるハメになりました。
最初は「なかなか離陸しないな~」位に思っていたのですが、しばらくして管制塔から離陸を
止められたとのアナウンスがあったものの、原因やどれ位かかるかも伝えられないままじっと
する時間が長く続きました。そもそも私は狭い所が苦手なため(決して体型だけが原因ではあ
りません)、終わりの見えないこの状況が非常に苦痛だったのですが、飛行機のようにミスが
許されない場合は情報が確実になるまでは伝達できず、そのために対応に時間がかかってしま
うのかと思いながら我慢をしていました。
 
建築に限った話ではありませんが、日本では新しい技術を取り入れる際に非常に長い期間を要
することがあります。
これまでのやり方が成熟しているため、新しい技術を取り入れる必要性が感じられにくいとい
うこともありますが、空港での状況のように、ほぼ確実になるまではやらないと言う“日本的”
な感覚もあると思います。
以前、コラムでもおなじみの豊田さんと話をしていた時に例えば中国などでは70%大丈夫な
らやってしまうが日本では99%大丈夫にならないとやらない事が新技術導入スピードの差に
なっているとおっしゃっていました。
私は立場的に様々なソフトや技術を試さなければならないため、比較的そういった“日本的”な
感覚はゆるく、何でも試して便利な部分を使っていけば良いと考えていますが、確かに、周り
に使っている人も少なく、どのくらい使えるかもわからないツールを実務の中で試していくの
にはかなりのエネルギーが必要です。特に建設現場では費用と工程が物決めの大きな要素と
なっているため、どちらも読めないようなものに取り組む事は、イノベーションに対してよほ
どの必要性か情熱を持っていなければ難しいでしょう。
これまでのやり方が通用せず、ある意味個人の“オタク”的素質に頼っているというのが現状な
のですが、この状況は組織としては非常に危うく、その“オタク”がいなくなってしまうと技術
の発展性が止まるだけではなく、多くの場合技術そのものが残されていなかったりします。
 
近年の技術は建築に限らず幅広い分野との連携が必須であり、しかも進化のスピードが早いた
め、大きな組織全体で取り組むのではなく、基本的には機動力が高い各個人が取り組み、その
ポイントを共有する事で組織の知識・技術として蓄積していく方が向いていると思います。
昔とある友人から小さな技術集団のネットワークがゼネコンを潰す時代が来ると脅されたこと
がありました。建設には大きな組織力が重要で、ゼネコンも時代にあわせて変化をしていく中、
そんな事は無理だろうと思う反面、(不謹慎ながら)どこかでそんな時代を期待していたりも
します。
どちらにしても、コミュニケーション能力を持った“オタク”の育成が急務なのかもしれません。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長