Magazine(マガジン)

コラム

建築の予防保全ビジネス

2017.08.08

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

iPod nano(第7世代)を購入した。2年ほど前から漠然と買い替えを考えていた。新機種
(第8世代)が発売されるか今使っている第5世代が使えなくなったら買い換えようと思っ
ていたところ、突然のiPod nanoとiPod Shuffleの販売中止である。今使っている機種に問
題がある訳ではないがいつ壊れるかが分からないし、iPodの使い勝手に満足していてこれか
らも使い続けたいので、少し逡巡して第7世代を購入することにした。いつ頃壊れるかが分
かっていれば、即決できたのにと思う。私が聞くのはもっぱら落語、浪曲、講談などの話芸
である。音楽に造詣が深い訳ではないので、iPodが音楽に与えた影響やAppleの深淵な戦略
について論ずることはできないが、私のようなガラパゴス的なユーザがいることも考えて欲
しかったと思う。私のiPodの主な用途は、毎夜就寝時に桂米朝師匠の噺を聞くことである。
笑いたいときには桂枝雀師匠だが、就寝時には桂米朝師匠が適している。ちなみに文化人類
学者の石毛直道先生も全く同じ趣旨のことをお書きになっているのを読んで、大きく首肯し
た。

第5世代のiPodは故障知らずだが、自宅の給湯器が故障した。一時、お湯が出なくなったが、
翌日の応急処置で息を吹き返した。しかし、使い始めて17年近く経っているので、いつどこ
が壊れてもおかしくない、たとえ修理してもすぐ別の個所の具合が悪くなるので修理の価値
はない、早く買い換えた方がいいといわれた。どうせ買い換えるなら少しでも安く、きちん
と工事をしてくれる業者に頼みたい。設置工事が必要ない家電製品であればネットで情報収
集し、家電量販店で実物を見て納得して買うことが出来る。しかし設置工事を伴うものとな
ると話が違うような気がする。贅沢かもしれないが、きちんと工事しアフターケアも安心し
て任せられるところがいい。ネットで検索すると、住設業者のサイトが沢山あることが分
かった。利用者のコメントも掲載されており、どこも安心できそうではあるが、業者同士の
比較ができない。給湯器は小康状態を保っているので、ゆっくり安心できる業者を探してみ
ようと思う。

GEがIoTにより、ジェットエンジンのビジネスモデルを大きく変えたことがイノベーション
の事例としてよく取り上げられている。ジェットエンジンを売り、故障したら修理するとい
うビジネスから、故障を事前に察知し予防保全することで、運航に支障をきたさないように
するというサービスに移行した。エンジンにさまざまなセンサーを付け、リアルタイムで運
航状況に関するデータを収集し、それを分析することで故障を予知できるというわけだ。交
換が必要な部品を事前に用意することで、飛行機の運航に支障をきたすことが少なくなるの
で、航空会社にとってのメリットが大きい。IoTにより、従来のクライアントであったボー
イングなどの飛行機製造会社を飛び越え、エンドユーザである航空会社と直接取引するよう
なビジネスモデルを構築した。さらに、同じ区域を飛行する飛行機のエンジンの状況を比較
することで、効率的な飛行ルートをアドバイスするという新たなサービスを行っている。

GEだけでなく故障の予兆を察知し予防保全するというサービスが始まっている建築でも
的確な予防保全を行おうという動きはあるが、いい出口(課金の手法)が見つからないのが
最大の問題だろう。ジェットエンジンと給湯器、航空会社と個人、価格も規模も雲泥の差が
あるが故障を事前に知ることが出来ればこんなに有り難いことはない。給湯器が「あと1か
月程度でこの給湯器は壊れます。早めの修理をお勧めします」という予告を出すと、最初は
眉に唾するかもしれないが、最初の予告が当たっていればそれ以降は信じるようになるだろ
う。建築における予防保全ビジネスは、個人や小規模な建築を入口とする方がいいのではな
いだろうか。