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コラム

ロジスティクスと建築

2015.06.04

ArchiFuture's Eye                慶應義塾大学 池田靖史

国産杉材の需要拡大につながる大型パネルCLTという材料が注目を集めている。慶應義塾大学
のプロジェクトとして建設された環境共生住宅建築実験では3Dモデルのデータをもとにした
加工が試され、岡山の工場の正確なプレカットのおかげで現場では数日間で組み立てを終えた。
その一方で現場にたどり着くまでの大型トレーラーへの運搬積み降ろし計画の重要性も興味深
く感じた。

建築を造ろうとするときに、そのための資材を様々な場所から集めてくること自体の歴史は長
い。しかし現代の日本ほどその流通経路の複雑さと正確さを極めている国は歴史上も稀である
と断言できる。様々な材料や部品の細分化された加工や組立過程を世界中に分散させながら、
標準化された性能基準に基づいて緻密に組織化され、そのほとんどの生産現場を見た事も無い
設計者や施工者で立派に仕上げられている。
比喩的にではなく現代の日本で建築が造られているのは本質的には工事現場では無い。他の国
で仕事をすれば、手に入らない材料があるというより、材料の質の確保や入手経路に関する情
報が少ないことを実感する。言うまでもなく日本の建築産業が高度に工業化されている事を意
味しているが、同時にその流通システムの最適化がデザインの経済的合理性を決定している点
も興味深い。考えてみると何かが安価に手に入るのは安定的な需要と供給を前提にした流通シ
ステムの合理化によるところが大きいからだ。

さて、デジタル・ファブリケーション技術の台頭が大量生産技術を補完する方法として建築デ
ザインにも新たな自由度を拓く事が期待されているが、その現実的な反応は、この高度な建築
資材ロジスティクスの変革に起きるのかもしれない。なぜなら現場で調整しながら製作が可能
なデザインがデータとして世界中で共有可能とされることで、ローカルな現場の特殊な状況や
そのとき偶然その場で利用可能な材料の活用が、生産物の経済性を変えるからだ。そのときに
日本の誇る「社会全体の高度な分業的システムとしての建築技術」がどこに向かうのかとても
興味深い。(次回に続く)