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コラム

人工知能という道具

2017.09.05

パラメトリック・ボイス           アンズスタジオ 竹中司/岡部文

岡部  私たちの脳の中には、「場所細胞」なるものが存在しているという。
    脳における空間認知を構築する細胞だ。
 
竹中  空間の中の自分の位置を認識できる、言わばGPSのような役割の一端を担っていると
    言えるだろう。新しく発見された「グリッド細胞」と連動し、脳内地図を描き出すこ
    とが出来るのだ。
 
岡部  グリッド細胞とは、空間認識のための「座標」としての役割を果たす細胞である。
    人の理解を越えるほどに複雑な脳のしくみに隠された、グリッドという非常に規則的
    なリズムがとても美しい。
 
竹中  他にも、境界細胞や頭方位細胞など、空間認知に関わる様々な細胞のメカニズムが解
    明されてきている。2015年にはこれをロボットのナビゲーションシステムに応用し
    た事例も見られた。今後は、人工知能の開発にも用いられてゆくと考えられる。
 
岡部  現在、汎用人工知能は2つの方式によって実現すると言われている。
    1つ目は、脳の構造を模倣した人工脳を作ることで実現される、
    「全脳アーキテクチャ」と呼ばれる方式。
 
竹中  そして、もう1つが、脳神経系の様々なしくみを全てデータ化し、
    コンピュータ上で再現する「全脳エミュレーション方式」だ。
 
岡部  前者の「全脳アーキテクチャ方式」による汎用人工知能の完成は2030年、
    「全脳エミュレーション方式」による完成は2100年以降とされる。
 
竹中  しかし、おそらく完成に至る前に、私たちは大きな変化を体験すると予想される。
    何故なら、モノづくりの世界が注目したいのは、完成形の脳の存在ではなく、
    共に働く道具としての、コラボレーティブな脳の存在だからだ。
 
岡部  道具は、人の能力を補い、拡張することでその存在意義を導き出してきた。
    コンピュータや人工知能であっても、この関係性は変わらないはずだ。
    では一体、人工知能と今までの道具との大きな違いは何だろうか。
 
竹中  それは、道具が思考や認識、感覚のレベルまで入り込んできたという点だ。
    そうした深いレベルで道具と人がコミュニケーションを取れるようになれば、モノづ
    くりの世界はより多弁さを増す。そしてこれがIoTの技術により数千億台のアクチュ
    エータと結びついたとき、人は脳内に描いた豊かなイマジネーションを創発し、人工
    知能に「使われる」ことなく、「使う」立場に立つことが出来るだろう。そんな人工
    知能との対話が今、はじまろうとしている。

  グリッド細胞の発火パターンとグリッド細胞の発火頻度を表した図 © Edvard Moser
  ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のScholarpediaへリンク
  します。

  グリッド細胞の発火パターンとグリッド細胞の発火頻度を表した図 © Edvard Moser
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