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コラム

プロジェクトのBIMと製造者の3次元CAD

2017.09.28

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

建築の設計を進めていくことを建物という空間や物体を部品やその集合に置き換えていく活
動と解釈すれば、部品を提供する製造者による部品設計の集合は建物のto be build modelを
表していると言え、そのことは、modelとしての設計のありようと、modelingとしての設計
のやりようを、BIMというフレームワークで整理することの有用性を示唆している。
 
例えば、高層ビルのファサードを形成するカーテンウォールを事例にすれば、建物全体のイ
メージをデザインする際に、垂直ラインと水平ラインのどちらを強調するか、そのグリッドは
どのような寸法モジュールで繰り返すのか、内外気温の差をどのような機能で制御するのか、
日射をどのように取り込むのか、などを企画することで、カーテンウォールを構成する部材の
選択肢がそれなりに絞られ、ファサードに対する予算の目標をある程度具体的に明示できる。
引き続き、外力や応力、法規制と照らし合わせて部材や接合部などの仕様を検討し、どのよう
な大きさ・重量・内容のユニットで取り付け作業を行うのか、そのユニットをどこで組み立て
るのか、ユニットを取り付けるスピードや方法などを計画し、カーテンウォールの設計要件と
目標価格が詰められる。
プロジェクトチームから設計要件を受け取った製造者は、自社の標準部材の組み合わせをベー
スとして、カーテンウォールのユニットを設計し、見積りをする。この過程において、製造者
の基本・詳細設計や生産計画に3次元CADが使われていることは想像に難くない。プロジェク
トチームの技術者、あるいはカーテンウォールの製造者は、基本設計されたカーテンウォール
のユニットの3次元CADデータをBIMオブジェクト化し、プロジェクトチームのBIMモデルに
組み込み、ユニットのパターンがどれだけ必要かを確認したり、躯体や内装、設備などカーテ
ンウォール以外の部品や部材との取り合いや干渉を検討したりして、カーテンウォールの詳細
設計を確定させる。製造者は、こうした調整を経て確定した製作情報と自社が有する生産情報
と照らし合わせ、カーテンウォールのユニットの製造ラインや制作工程を計画し、カーテン
ウォールのコストが具体になる。
設計業務を内包する製造者、いわゆるspecial sub-contractorが提供する部品やシステムは、
上述の事例とおよそ似たプロセスで建物の部分の詳細化が行われていると想像をする。一方、
規格品を提供する製造者とプロジェクトチームの関係はもう少しシンプルなプロセスとなり、
マーケティングを兼ねて配信されるBIMオブジェクトをプロジェクトの基本・詳細設計で用い
ることになる。
 
こうした設計情報から生産情報への処理プロセスは建設プロジェクトの体制と整合的となる。
米国的なプロジェクトでは、これらの所作を設計プロセスのどのフェーズで行い、フェーズ
ゲートとしてのコストマネジメントをどのように行うか、オーナーサイドのプロジェクトマネ
ジャーが采配する傾向が強い。しかし、BIMの導入により、プロジェクトで生成される情報を
プロジェクトのメンバーが同時に認識して異なる検討を並行して行うことが可能となった。そ
の中でプロジクトのBIMと製造者の3次元CADの接点が有効に機能するようにリーダーシ
プを取ることは、BIMマネジャーに求められる能力である。また、こうしたチームの情報シス
テムを機能させるためには、製造や施工に向けたベクトルを持つ設計情報の流れを滞留・逆流
させないためのBIMのプロトコルが必要で、オーナーのBIMガイドラインやプロジェクトの
BEP(BIM Execution Plan)classification systemやBOM(bill of material)がその拠り所
となる。
 
プロジェクトのBIMは段階的な確定で、製造者の3次元CADはその企業のサプライチェーンマ
ネジメントに組み込まれている。こうした性質の異なる双方の生産情報の流れの合流点が幾重
にも重なるのが建設プロジェクトの特質である。それらのコーディネーションの違いがプロ
ジェクト相互の生産性の違いに強く影響するのであれば、プロジェクトに関わる企業間で情報
を効率的に伝達するための仕組みを整えていく必要がある。加えてQualityCostDelivery
のバランスを満足させて建物の設計を完了するためには、部品、工区、発注パッケージなどの
上手い分割を検討しながら設計の確定度を高めていくことが肝要である。
多様な技術者や専門家がBIMでコラボレートした設計プロセスの効果を発揮するためには、マ
ニュファクチャリングとBIMの間での部品やその集合に関する情報を共通に利用するための標
準化が不可欠であるし、そうした情報を効果的に処理できるプロジェクト発注方式や支払い契
約、さらには、コンサルティングやデザインアシストといった有償サービスへの受容が、発注
者、設計者、施工者のいずれにも求められているのではないかと考える。

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授