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コラム

データの永続性

2017.10.31

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

実家の整理を手伝っていたら、懐かしいものを発見した。Nゲージの機関車、線路、制御装
置である。子供の頃、鉄道が好きで少しではあるがNゲージの車両を購入した覚えがある。
その当時はNゲージの組立式の道床付き線路がなく、父がベニヤ板の上に線路を固定してく
れたものの上で走らせていた。今回発見したのは、道床付きの線路で制御装置も新しく、父
があらためて購入したもののようだ。一方、機関車は私が小学生か中学生の時に購入したも
のだと思う。容器の古さから判断した。線路を組み立て走らせてみたところ、3台のうち2台
の機関車が見事に動いた。スムースではないにしろ動作したのだ。40年以上前の電機製品が
現在でも使用可能という素晴らしい事態である。

それにひきかえ、デジタル情報の寿命については目を覆いたくなる。特にBIMやCADのデー
タの寿命については、古くから問題視されてきた。いまだに有効な解決策はない。設計や施
工の段階では、データを利用する期間が比較的短く頻繁に更新されるので、それほど大きな
問題になっていない。しかし竣工後のデータ保管と利用についての問題は、依然未解決であ
る。BIMの情報はファシリティマネジメントでも有効に利用できるという話をすると、必ず
この点を指摘され答えに窮する。建築の寿命に比べ、CADやBIMのソフトウェア、コン
ピュータの寿命の尺度が異なるくらい短いのが原因である。その上、コンピュータ技術はま
だまだ発展期で変化が大きい。よりよい機能や利用者の要求に応えるには、変化が不可欠で
ある。変化が発展を生むが、一方でデータの永続性を阻害していることになる。

データの永続性を阻害している3大要員は、アプリケーションソフトの永続性とバージョン
アップ・OSの変化・メディアの寿命の3点だと思う。このうち、OSの変化とメディアの寿命
についてはクラウド化により大きく改善できる。難敵はアプリケーションソフトの永続性と
バージョンアップだ。共通ファイルが、この課題解決に貢献してくれることを期待している。
BIMでいうとbuildingSMARTが提唱しているIFC(Industry Foundation Classes)である。
現在のIFCが十分でないことは承知の事実ではあるが、国際的な組織で開発が続けられてい
ることの意義は大きい。共通ファイルのため、アプリケーションソフトのデータを完璧に再
現できるわけではないが、救われる情報も多い。共通ファイルの価値を覚えておいて欲しい。
アプリケーションソフトのバージョンアップに対しては、定期的にデータを更新するしかな
いだろう。どのようなアプリケーションソフトであっても、最低一つ前のバージョンのデー
タは読み込める。アプリケーションソフトのバージョンアップごとに、古いバージョンで作
成したデータを読み込み、新しいバージョンのデータに更新するのが、泥臭いが確実性があ
る。クラウドでこのようなサービスを提供してくれるところがあれば、データの永続性に対
する不安が少なくなる。このようなサービスを望んでいる。

後日談である。新たに機関車を1台購入した。発見した機関車がスムースに動かないのは機
関車自体の問題なのか、それとも線路や制御装置の問題なのかを確かめるためだ。新たに購
入した機関車は大変滑らかに動いた。その上、直径2mm程度の前照灯もともるのだ。進歩
を実感した。そして久しぶりに鉄道模型店に足を踏み入れ、その充実ぶりに目を見張った。
鉄道模型は奥の深い世界である。どっぷり浸る余裕はないが、ささやかな楽しみを発見した
気がしている。

  左の1台が最近購入した機関車。他の2台は40年前に購入したもの。

  左の1台が最近購入した機関車。他の2台は40年前に購入したもの。