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コラム

HY戦争とPC/BIM

2017.11.09

ArchiFuture's Eye               ARX建築研究所 松家 克

ホンダとヤマハがオートバイの開発と販売で、激しくしのぎを削り、バイクでのトップの座を
争ったのは、1979年から1983年の4~5年間。このHY戦争と呼ばれた企業間競争は、小生が、
ホンダ青山本社の設計監理業務で現場常駐時に勃発した。現場に来られた当時の河島社長が、
「この状況が続くと両社とも疲弊しかねない。しかし、オートバイの分野で負けるわけにはい
かない。」と話されていたのを鮮明に覚えている。その頃のホンダは、ロードレースの世界選
手権にも一喜一憂していた。レースの結果によっては、新本社の設計会議に影響があることさ
えあった。このHY戦争で2社は、大きな痛手を被ることとなる。
この頃の駅前には原チリと呼ばれるバイクが今の電動自転車のように溢れていた。1980年
の販売台数は安売り競争の影響か約300万台弱、昨年の2016年は約16万台だという。社会と
生活環境の変化を含め近年は大幅に落ち込んでいる。
時は流れ、このHY戦争から30数年以上を経てこの2社が手を組み、さいたま市の協力でJRさい
たま新都心駅での電動バイクの通勤利用の実態実験と共同研究が、9月2日に始まったという。
両社の因縁と社会環境、意識、生活状況の変化に感慨深さを感じる。
この原チャリに繋がるホンダの“スーパーカブ”は1957年の生産開始から現在までの60年間の
累計台数が、この10月に1億台を超えたという。160ヵ国・地域で販売され、単一モデル
としては世界一売れた乗り物だという。二輪ではイタリアのスクーター“ベスパ”と並ぶロング
セラーだ。砂漠や湿地帯、繁華街であろうが、堅牢さと手軽さで走れるのが最大の特徴であり、
タフで創造性溢れるバイクといえる。日本の数少ない立体商標登録も認められているが、この
立体登録には、BIMデータとしアーカイブス化も可能と考えられる。

一方、コンピュータの分野で、スーパーカブのようなロングセラーと呼べるものがあるのだろ
うか。ソフトやハードが日進月歩で変化する激しい競争と進化の領域であり、コンピュータ関
連の長寿命化は可能なのだろうか。ソフトの一太郎、ExcelやWordなどは、PCを使い出した
1980年代の初期の頃から目と手にし長く利用している感がある。各種CADソフトなどもしか
りである。最近のBIM対応ソフトも含め、20年後、50年後、100年後に進化し、残っているの
だろうか。片やOSのロングセラーとして、傑作性、安定性、使いやすさで圧倒的な人気を誇っ
た“WindowsXP”は、2001年の発売以来、7年に亘って販売されてきた。“Vista”や“7”の登場で
ようやく出荷を終了しロングセラーOSの歴史を閉じた。しかしながら継続発展させ“10”に繋
げている。Macは、Mac ProやMacBook Proなどの機種でハードの拡張を行うことによって、
随時OS等の進歩に対応しているという。BASIC、C++、COBOL、HOLONなど多くのプログ
ラム言語もさらに拡充が進むものと忘れ去られるものなどがみられる。コンピュテーションの
歴史は短く、まだまだ流動的。PCは、形態や機能の変化とともに、姿や形が無くなる可能性す
らあるといえる。

片や中東シリアの今は“Islamic State”との戦いが終結を迎えようとしている。これからのシ
リアの復興で、スーパーカブが多方面で活躍するに違いない。ベトナムでは、スーパーカブに
何人もの人が相乗りし、主要な移動と運搬手段となっている。当然のごとくPCを含むハードや
ソフトは、国や地域、時代によって使われ方が異なってくる。スマホやPCも国情によって使用
手段や目的が異なるだろう。“Archi Future 2015”で基調講演をお願いした世界で活躍中の設計
チームの「SHoP」は、デザインからコンストラクシンのコンピテーショナルデザイン技術
の現実的で国状に沿った利用を目的としている。アフリカのボツワナやケニアでのプロジェク
ト、これらの設計プロセス、そして将来像が語られたが設計と施工でのBIMの駆使に特徴が
あり国情や目的により手段も異なていた。このBIMが世界のスーパーカブとなれるだろうか。
離合集散の激しいコンピテーショナルな世界の100年後のハードやソフトは、どうなるのか。
今後もPCとソフトは継続的に発展し形態を変化させながら展開していくものと期待している。

松家 克 氏

ARX建築研究所 代表