Magazine(マガジン)

コラム

守るべきデザインの意図

2017.11.28

パラメトリック・ボイス                清水建設 丹野貴一郎

近頃コンピュテーショナルデザインやデジタルデザインという言葉の認識が急速に広がりつ
つありますが、CADが普及した時代からコンピューターを使ったデザインというものは既に
あったと思います。私は学生時代にCADを使うようになってから課題で自由曲線を使うよう
になりました。思えば自分の中ではこれがデジタルデザインのスタートだったように思いま
す。手描きでも出来なくはありませんが、スケッチをもとにコンパスや雲形定規を使って各
種図面を描くのはなかなかに大変な作業でした。ましてやイメージした自由曲面の形状は限
られた時間では限界があったため、CADを使うことで自由なデザインが可能になったといっ
ても過言ではありません。その後3DCGソフトを覚え、更にそれらを三次元的にデザインす
るようになりました。もちろん学生時代の稚拙なデザインなのですが、それでも頭の中でイ
メージした形をコンピューターの中で形にしていくことに興奮したのを覚えています。
 
ある課題でCADの機能にあったベジェ曲線というものを使った事があったのですが、講師で
来ていた磯崎新アトリエの方にこの曲線はどういう定義で書かれたものなのかと質問されま
した。その方は自分のイメージした曲線を引くためにCADの機能ではなく専用のプログラム
を組むような方で、私が曲線を何となく引いていることに気づき、あえてそのような質問を
してくれました。CADの機能で曲線を引くことに満足していた私には衝撃的な質問で、結局
その課題では曲線を使わずに提出しました。
 
現在では自由曲面でデザインできるソフトも普及し、施工技術の進歩も相まって様々な形の
建築が建つようになりました時々設計事務所から図面とは別にこの形を作りたいという3D
データをもらう事があります。私の仕事はこれをいかに「作れる」、更に言えば「作りやす
い」形にしていくかなのですが、それを考えているときに学生時代のあの言葉を思い出しま
す。
つまりこの形はどのような意図があってデザインされたものなのかという事です。その意図
はデザインの基本となるものなので、できるだけ意図にあった中で最適な形を提案するよう
にしています。
ここで問題になるのが、もらっている情報で意図が汲み取れない場合です。(偉そうな事を
言えばそんな意図もないデザインも結構あったりします。)図面に寸法もなく曲線が引いて
あったり、それを数値で定義するために数か所の座標が記載されていたりするのですが、こ
れだけで複雑な三次元形状の意図を汲み取ることは非常に難しく、多くの場合は推測の域を
出ない形状から検討をしていくことになってしまいます。
これは労力が増えるだけでなく、デザインをした人にとっても本来意図した形が伝わってい
ないという意味で不幸なことだと思います。
 
形状というものはフェーズが進んでいくと様々な変化を遂げていくものです。最終形状だけ
では分からないことがたくさんあります。機械系のCADソフトは作図の履歴を残すことでパ
ラメトリックに設計することを可能にしていますが、建築ではそのようなソフトはまだ一般
的ではなく、また規模が大きいうえに関わる人も多いため全ての履歴を残すことは現実的で
はないと思います。この状況で戻るべき基本形状がなければ本来の意図とは離れていくこと
は必然です。
 
以前、日建設計の内山さんがザハ事務所にいた際の講演で基本ジオメトリを定義するための
3Dモデルをドライバーと呼び管理しているとおっしゃっていました。デジタルデザインで
はデータのマネジメントが重要になりますが、そもそもデザインの意図を守るためにこのよ
うな基本形状の定義というものも併せて管理していくことが品質の向上に役立つのではない
でしょうか。