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ユーザー事例紹介

ホログラフィックコンピュータを用い、提案力
と高品質な情報伝達を追求<新菱冷熱工業>

2017.12.04

空調をはじめ電気、給排水衛生、コージェネレーションなどの総合的な環境づくりを手掛け
る、環境エンジニアリング企業の新菱冷熱工業。長年ソフトウェアクレイドルの熱流体解析
ソフトウェアSTREAM®などを活用し、空調設備の効果を検証してきたが、顧客とのコミュ
ニケーションを円滑にして提案力を高めるため、気流シミュレーションの結果をMR(複合
現実)で可視化するシステムを開発した。
実際の室内空間を自由に動きながら空気の流れなどを立体映像で体感することで、顧客に的
確にイメージを伝えることができ、報告書の作成で複雑な解析結果をまとめるためにかかる
労力や時間を軽減することにもつながるという。


業界スタンダードのSTREAMをフル活用
新菱冷熱工業は、空調、電気、給排水衛生、コージェネレーションなどの総合的な環境づく
りを担う、環境エンジニアリング企業として知られる。同社はソフトウェアクレイドルと共
同で、数値解析による3次元気流シミュレーション以下、CFD)の結果を装着式ホログラ
フィックコンピュータ「Microsoft HoloLens(以下、ホロレンズ)」を利用したMR(複合
現実)技術により可視化するシステムを国内で初めて開発した。ホロレンズはWindows10
を搭載し、実際の空間に仮想空間を融合できる自己完結型ヘッドマウントディスプレイ方式
のMRデバイスである。ホロレンズにはソフトウェアクレイドルの3次元熱流体解析ソフト
ウェアSTREAMの結果が表示できるプログラムを導入することで、現実空間に解析結果が融
合される。
新菱冷熱工業は、1970年に技術研究所を開設、1990年につくば市に中央研究所として研究
開発部門を移転し、複数の研究テーマの1つとして流体解析に着手し、STREAMを導入した。
空調機器の吹き出し気流分布の検証を行うなど、実用性を確かめる基礎的な研究から始まり、
数年後から実際の物件に適用。年々、物件への利用頻度も増え、現在ではSTREAM24本、
SCRYU/Tetra4本を常時稼働させている。同社技術統括本部中央研究所の土志田 卓氏は、
「導入当初は中央研究所での使用が中心だったSTREAMですが、約10年前から社内で水平展
開するようになりました。CFDの認知度が上がるに従い、設計や施工管理の部門でも使いた
いという要望が高まってきたのです。現在では設計・施工管理部門に所属する100名以上の
社員がSTREAMを使用し、習熟するスタッフが全国の事業部、支社で活躍しています。複雑
な条件ではない案件は、各部門だけで完結が可能です。」と状況を語る。

         新菱冷熱工業株式会社 技術統括本部 中央研究所
         熱流体研究グループ 主務  土志田 卓 氏

         新菱冷熱工業株式会社 技術統括本部 中央研究所
         熱流体研究グループ 主務 土志田 卓 氏


そして、BIMにも黎明期から関わるなどコンピュテーションに積極的に取り組む同社は、中
央研究所設立当初から大規模計算サーバーを運用し、7年ほど前から全国の事業所とLANで接
続。常時アクセスでき、大容量のデータを扱わなければいけない案件や解析用のコンピュー
タを用意できない事業所からでも円滑に演算できるように整備している。同じく技術統括本
部中央研究所の五十嵐 瞳氏は、「導入本数や担当者が少ない場合、処理速度やソフトの同時
処理数の関係で、物件適用に限界がある場合が多いと思います。他社ではできない計算や短
期間での対応を求めるお客さまのご要望にお応えしています。」と語る。

         新菱冷熱工業株式会社 技術統括本部 中央研究所
         熱流体研究グループ 主務  五十嵐 瞳 氏

         新菱冷熱工業株式会社 技術統括本部 中央研究所
         熱流体研究グループ 主務 五十嵐 瞳 氏


「以前はCFDを利用するのは社内の設計検討がほとんどでしたが、最近ではお客さま側から
CFDの結果を求められることが多くなってきました。空調システムの能力や配置で複数の案
があるような場合に、判断基準としてCFDの結果を利用することがあります。私たちも、実
物大での実証試験を実施するより、多くのパターンで的確に提案できるようになりました。」
と土志田氏は語る。「STREAMはプログラムに独自の関数を組み込むなど、自分たちでカス
タマイズできるところがいいですね。他の汎用CFDソフトには、冷却能力の設定や省エネの
予測など空調分野に特化した機能は組み込まれていません。そして、STREAMは業界のスタ
ンダードとして広く認知されていますから、STREAMによるCFDの結果はお客さまから高い
信頼が得られます。」と五十嵐氏はSTREAMを使用することのメリットを挙げる。

     一般的なCFD可視化イメージ

     一般的なCFD可視化イメージ


 
ホロレンズでの可視化でCFDの結果を効率的に共有
CFDに対する顧客の認知度が上がるにつれて、表面化してきた問題がある。解析結果を共有
する際に、以前より資料の準備に労力がかかるようになったことだ。「CFDの結果をお客さ
まに提示し、検討したい個所や表示の位置などについての要望に応えていると、表現が複雑
になりがちです。また、紙の報告書やPowerPointにまとめるには手間と時間がかかります。
さらに、報告書のわかりやすさは作成者の技量に左右されてしまいます。」と土志田氏は指
摘する。すでに土志田氏らはノートパソコンでソフトウェアクレイドル製品の簡易ビューア
である「CradleViewer」を活用し、顧客への説明時に動きを見せるなどしていた
(CradleViewerは無料でダウンロードでき、iPadにも対応している)。さらに、ARやVR、
MRなど新たな可視化技術が注目されるなかで、ホロレンズが今年の1月に開発者向けに提供
されはじめたことに土志田氏らは着目。このデバイスをCFDに活用できないかと、ソフト
ウェアクレイドルに打診したのである。そして異例のスピードで開発を進め、7月に国内初と
なる、ホロレンズでのCFD可視化手法の完成を発表した。
現在は、中央研究所の会議室(12.5m×15m)や複数の実験室で、制気口から吹き出す気流
の可視化を行っている。ホロレンズを装着することで、CFDによる空気の流れをリアルに確
認可能だ。同システムの大きな特長は、外部コンピュータや電源への接続を必要としないこ
と。ホロレンズを装着したまま室内空間を自由に動き回ることができ、見たい任意のポイン
トで気流を確認できる。「ホロレンズの使い方は簡単です。また、CFDの結果は既存の
CradleViewerをホロレンズ上で操作するような感覚なので、CFD技術者でなくても扱うこと
ができます。」と五十嵐氏。また、同システムはポータブル性が高く、検証する空間での
CFD結果があれば、あらゆる場所でCFDの可視化が可能である。さらに、このシステムでは
CFDの結果をMR用に改めてつくる必要がない。「これまでのCFDと同じ感覚でデータを用意
でき、つくり込む手間は変わらず活用しやすい。」と土志田氏。「むしろ、これまではCFD
の結果を報告書の形式で共有しようとすると、さまざまな角度やレンジ、場所での書き出し
が必要でしたから、大幅な時間の短縮になります。」と語る。

     HoloLensによるCFD可視化イメージ(複数人での利用も可能)

     HoloLensによるCFD可視化イメージ(複数人での利用も可能)


そして、解析結果を顧客と正確かつ効率的に共有できる点が、同システムの最大のメリット
である。「2次元の画面や紙では、3次元の情報が適切に伝わらないことがあります。例えば、
気流は直線的に流れているように見えても、角度を変えて見ると、実は渦を巻いている場合
があります。こうした現象を見逃してしまうような問題を改善できます。」と五十嵐氏。
「体験者からは、驚きの声が混じったこれまでにない反応を得ています。予測がしにくく、
実スケールで見えなかった気流について“見える化”が強化されると、さらにCFDの認知度が
広がるのではないでしょうか。幅広いお客さまが気流を直感的に捉えられることで、互いの
意図が適切に伝わり、プロジェクトがより円滑に進むはず。」と土志田氏は期待を寄せる。

     複雑な空気の流れも直感的に捉えることが可能だ

     複雑な空気の流れも直感的に捉えることが可能だ


 
リアリティの追求でコミュニケーションの質向上と受注につなげる
同社では、当面は同システムをプロジェクトの付加価値として活用する。「特に、改修工事
で強みを発揮すると予想しています。改修前後の明確な違いを容易に見せられるためです。
適切な情報を提供することで、コミュニケーションの質を高めてお客さまの背中を押すこと
ができれば、受注にもつながるでしょう。」と土志田氏。同システムは7月に開発したばかり
のため、現在のところ室内空間に限定されているが、変動要因の多い屋外での活用も想定し
ている。例えば、建物屋上の室外機など、空調設備機器近傍の局所的な空気の流れの検討に
有効である。
「複雑な情報を適切に把握できれば、CFDの信頼性もさらに高まるはず。」と土志田氏は語
る。その先に目指すのは、BIMモデルとの連携だ。今後も同社は、より精度の高いシミュ
レーション技術とコミュニケーションの質を追求する姿勢だ。
なお、同社Webサイト内のMR技術紹介ページは、こちらから閲覧できる。

「STREAM®」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。