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コラム

BIMを使えるようになるまでの4日間

2017.12.07

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰

このコラムを書く上で今のところ心に決めていることがあり、それは「何が何でもBIMの話を
する」ということです。心変わりしやすい私のこと、いつまで継続できるかわかりませんが、
その甲斐あって、最近は社外の方からもBIMの人として認識していただき、色々と質問を受け
たりするようになりました。
 
どうすればBIMを使えるようになるか、という質問はその中でもトップクラスに多いものです。
類似の質問で、研修は受けたのだけれど実務で使うには自信がない、どうしたら良いかわから
ない、というものもあります。
多くの方が、BIMでのモデリングの基礎を身に付けたいと考えるようです。私もそうでした。
実際やってみると、モデリングに必要な最低限の知識は短時間で十分習得可能な量であること
がよくわかります。より重要なのは、〈作り方の原則〉と〈作りたいものへの近道〉をそれぞ
れ大まかに知っておくことです。
ムダ・ムラ・ムリのない、ソフトウエアのつくりに沿ったモデリングとはどんなものかを理解
すること。その一方で、手元のライブラリやテンプレートでどの程度のことができて、存在し
ない場合は探してくるなり作るなりするとどの程度の手間がかかるかという感覚的なあたりが
つくことがポイントで、そこがつかめれば後はついてきます。
 
これができるようになるまでどのくらいかかるか、という質問もまた多いですが、私は常にお
答えする数字を持っていて、それは「4日」です。4日あれば「あたり」はつくようになりま
す。お約束しても良いです。その数字を守れなかった時は……お詫びになにか、間柱のコン
ポーネントかなにか差し上げます。
ではなぜ4日なのか。私が実際に要した日数をもとにしています。私がBIM関連の話を好きだ
とかパソコンがそこそこ良い奴であるとか、そうした話は割り引いてあります。ではその、
BIM使えるようなるまでの4日間はどんなものになるのか簡単に書いてみようと思います。
 
初日。とりあえずソフトを起動します。マニュアルを見ながら壁を作ったり床を作ったりして
みます。敷地境界線をなぞったりします。敷地めいっぱいにボリュームを立ち上げたりしてみ
ます。なんとなく操作がわかったところでここから何かを作り始めようとして、さっぱり手が
動かない自分に気づきます。
なぜか。何を作るか決まっていないからです。ここで「何を」とは、作るオブジェクトのカテ
ゴリを指します。作るものが柱か床か、あるいはただの外形かで使うコマンドは変わりますの
で、「何を」と「どんな」の両方で迷うと答えが出づらいのです。
これに気づいたのち、とりあえずCADを起動します。通り芯、柱位置、階段、外壁ライン、駐
車場、トイレのレイアウトなどをまず描いていき、作りたい建築の骨格を図化します。あとで
なぞるので自分さえわかればフロアごとに分ける必要もありません。もちろんそれも含めて
BIMの2D機能で描き始めてもかまいませんしスケールさえ合っていれば手書きのスキャンで
も良いと思います。重要なのは作るものを決め、それを下敷きにできることです。
 
2日目。初日に作ったプランをトレースしていきます。こうなると、例えば柱ひとつ作るにし
てもサイズが選べます。構造が何であれ、一般柱・一般壁でまずは十分です。それができたら
とりあえず床を張ります。最上階の床まで張ると3Dビーで見たときに形になっていて嬉し
いものです。規模によるものの、ここには大した時間はかかりません。使うツールも限られて
います。余裕があれば、扉や部屋情報を入れていけばかなりそれっぽい平面ができるでしょう。
もちろん、作るものが決まっている人はここからスタートですから、初日に逡巡したところは
飛ばせます。
 
3日目。ここまで来ると、きっと外装を入れたくなっているはずです。そしてほぼ間違いなく、
ここでもう一回手が止まります。
カーテンウォールにしろポツ窓にしろ、作りたい開口部がそのまま用意されているとは限りま
せん(既製品を使いたがらない設計者に限る話かもしれませんが)。どのソフトも、かなり詳
細な設定ができるツールを用意していますが、さすがにマリオンの部材や割付まで決めきるの
はつらい……という時は、何らかのツールを工夫してそれっぽい形を作るというプロセスが求
められます。
階段も同様です。どのソフトでも階段ツールにはやや独特な癖があり、慣れるのにはかなり時
間を要します。とはいえ階段はさすがに一般部品で作るのは手間なので、ここではやや試行錯
誤を求められることでしょう。2日目に比べると1箇所にかかる時間が長くなります。壁も階
段も、図面上は同じくらいの労力で描けるのに、モデル化すると差が生じることを実感できる
と思います。
 
4日目。ここまでくると、作ったモデルからプレゼンテーション用にパースを作ったりしたい
と思うようになるでしう。せかく作ったモデルです、誰かに見せてなんぼです。使うレン
ダラーによって多少は設定の試行錯誤が必要となるでしょうが、おそらく1〜2時間もあれば
見栄えのするパースが作れることでしょう。
ここまでのモデルでも色々なことができます。部屋面積の集計も出るし躯体数量だって計算
できます。他のソフトにエクスポートしてシミュレーションツールと組み合わせてみるのもよ
いでしょう。
 
これで4日です。使っていない機能はまだたくさんあり、それらをマスターするのには時間が
必要ですが、ここまで使うことができる人であれば難しいことではありません。自分の作りた
いものを作るときに、その機能が用意されているか、ない場合はどうすれば良いか、その目処
がつくならあとはケーススタディの積み上げです。例えば、入り幅木を作りたい時、トイレの
鏡を作りたい時、折上げ天井を作りたい時、それらそのものが首尾よく用意されているとは限
りません。そんな時にツールを工夫して使い、検索を駆使したり他の人に聞いたりしながら、
作りたいものになるべく近いものを、なるべく無理なく作っていく。そこがゴールでよいと私
は考えます。
 
ソフトウエアにどれだけ熟達している人にも分からないことはあります。あくまで程度問題で
す。ですから、ここまで来た方は、ご自身はもうBIMを使えると言い切ってしまってよいので
はないでしょうか。
ニューヨークに出張した際、通りがかったあるホテルで「日本語スタッフがいます」と書いて
たので現地の方にすごいですね日本人スタフを置けるほど需要があるんですねと言っ
たところ「“こんにちは”と“ありがとう”だけしか言えない人でも日本語スタッフだからねえ」
と言われたことがありました。謙遜や奥ゆかしさも大切ですが、できるということの表明も大
切です。自己解決の方向性さえ概ね合っているなら、これだけできればだいたい大丈夫。
 
もちろんここから先、いろいろと煮詰まることはあるし、解決方法の見当たらない課題を何日
も抱えることも出るでしょう。それはまた別のお話。悩みは助け合って解決していきましょう。

石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 コンピュテーショナルデザイングループ長 / 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 特任准教授