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コラム

「Intensive Robotic Workshop」
オープンワークショップという形

2017.12.12

パラメトリック・ボイス       ジオメトリデザインエンジニア 石津優子

■モノの具現化へ向けてのデザインの解像度と許容誤差
はじめて「デジタルクラフト」の授業を受けたのは、大学院での交換留学生としてワシント
ン州シアトル市にあるワシントン大学へ訪れた2011年のときです。工房にはレーザーカッ
ターやCNCマシーン、プラズマカッターといった機材が揃っており、実寸大の家具や構築物
をつくる環境に魅了されたのを覚えています。
 
この「デジタルクラフト」の授業では、仮想空間上のCADで描いた3Dのモノを実空間へア
ウトプットする上での技術を学びました。授業は予算の設定から始まり、制作工程や機材、
加工の方法や素材によって許容される誤差や遊びをどの程度設けるかということも含めたデ
ザインの手法といった、モノを作る過程を複合的に捉え、進められていました。これまで自
分が日本の大学で受けてきた仮想空間上で完結する設計課題とは異なり、考える要素が多く
複雑に感じたのをよく覚えています。またこの授業では手作業も多く含まれ、デジタルの
ツール及び加工技術がより多くの手作業へ回帰させることにも面白みを感じていました。
 
実寸大の構造物をつくる授業は日本の大学でも経験したことがありましたが、ワシントン大
学で受けた「デジタルクラフト」の授業は、デザインに加え、機械による生産に向けたデー
タつくりという部分が加わるため、その経験が今の業務でも生かされています。日本で経験
した実寸大の制作の課題では、手作業という選択肢のみしかなかったために時間や予算や精
度という制約に大きく縛られていました。デジタルという環境でデザインを考えることで、
データの作り方や制作の方法に創意工夫をより広い範囲に凝らすことができ、実現したいコ
ンセプトにより近い形でデザインを実現できる感覚が、とても新鮮だったのを覚えています。
 
また、加工法によって異なる誤差や素材によって生まれる個体差など、デザインと道具と素
材との関係性もデザインを通して考える経験が得られるのは、物を作る視点からデザインす
るという本質的なものづくりの精神に触れることができた経験だと思います。昨今、モノに
あふれた時代背景から経験をデザインする、ものがたりのデザインといったソフト面のデザ
インに焦点が当たりがちですが、このハードな部分のデザインも現代に生きるデザイナーが
発想を凝らすことができる領域だと感じています。


■「Intensive Robotic Workshop」の開催
喜ばしいことに、今年のはじめに「Parametric Design with Grasshopper ― 建築/プロダ
クトのための、Grasshopperクックブック」を執筆したことで他分野の方も含め多くの方か
らフィードバックを頂くことができ、パラメトリックな形状を作るレシピ集としては、自分
たちが伝えたい内容を自分たちが望んだ形で伝えることに成功したと感じています。ただ一
方で、ジオメトリの自由な操作を行えるようになるということが、デジタル上のデザインを
物理的なカタチに落とし込む上でも非常に有益であるという点はまだ十分に伝わっていない
と感じていました。
 
そのような背景があり、デジタルのツールを用いた先端のデザイン手法・加工技術を用いて
複層的な課題を物理的な形へ落とし込むことができるようなワークショップ開催したいと、
スイス連邦工科大学時代の学友であり研究員のAchilleas Xdyis氏を日本に招いて8月21日か
ら9月3日の2週間のロボティックの国際オープンワークショップを開くことを企画しました。
国籍や所属や年齢に縛られず知識を共有する場をつくるために、学生一般含めた参加者を公
募し、日本では初の集中型のロボティクスのワークショップを開催しました。

  ワークショップの様子

  ワークショップの様子


■建築におけるロボティックの拡張性と両面性から起こる新しい価値の創造
ロボティックは、その拡張性が特徴です。CNCマシーンやレーザーカッターといった用途が
決まっている機材と異なり、ロボットをどのような用途に使用するか考えることから始まり、
デジタル加工技術どのような場面で採用できるかを自由に試行できるところに魅力がありま
す。道具の制作とその制御というハードとソフトの面と、仮想空間上でデザインし実空間に
制作するという2重の両面性を持ち併せています。
今回のワークショップのテーマは、「建築と林業におけるデジタル技術について」で、デジ
タル加工技術による、未使用材の新しい価値を研究したものです。未使用材とは未発達材や
間伐材、製材後の残材等、幹の直径が小さく、製材加工できず使用されない材木のことを示
します。製材でない丸太材をデジタル加工技術によって、情報化し加工することで、規格化
とは異なる新な生産方法を導き出すことを目的にしています。

  ロボットアーム

  ロボットアーム


今回挑戦した加工技術は主に二つで、一つは伝統技術の応用と、二つは素材の物性の変化で
す。日本の伝統技術である仕口や継手を参考にし、チェーンソーで加工できる形へデザイン
することで、丸太の仕口や継手加工に挑戦しました。使用する丸太はそれぞれ直径が異なる
ため、仕口や継ぎ手の長さも随所にパラメトリックに調整する必要があります。また一方で
は素材の物性を変化させる実験としてKerf Bending加工の実験を行いました。切り込みの深
さ、幅を変えることで、硬い材である木材に柔軟性を加えることに成功しました。

  仕口継手

  仕口継手


今回私が企画したロボティクスオープンワークショップでは、企画、設計、制作の全工程に
おいて幾何学の操作をデザインとファブリケーションの両面から検討しました。3Dモデリ
ングし、レンダリングという仮想空間で完結せず、実空間上の要素であるデザインの解像度
と許容値、マンパワー等の人員的要素や予算的な要素、すべてを絡めながらジオメトリの検
討を進めていきました。成果物制作を目標にしたこのワークショップでは、限られた時間の
中で効率よく制作することが重要になっていきます。そのため、ソフトの面だけのワーク
ショップと異なり実際につくるという経験値が大きく作用します。オープンという形でデジ
タルツールを実際に扱う経験を共有することで少しでも多くの人に一次情報としてデジタル
デザインを伝えることが二次情報で議論されることの多いこの分野の発展の根源になると考
えています。

  パビリオン

  パビリオン

石津 優子 氏

GEL 代表取締役