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コラム

ハビタブル・デバイスと建築

2015.06.24

ArchiFuture's Eye                  ノイズ 豊田啓介

今やテック系スタートアップの一大登竜門となったSXSWで今年注目されたものの一つに、日
本のベンチャーexiii社によるhandiiiがある。最近一気に注目され、かつ実用的な事例が次々に
生まれてきている筋電技手を製品化する試みの一つで、何らかの理由で手を失ってしまった人
が、文字通り筋電をセンシングすることにより(つまり脳で考えることで)電動の義手を動か
して使うものだ。どうしても技術的な側面が取り上げられがちな筋電技手の世界で、デザイン
性や拡張性も意識して実用化を目指すexiii社の試みは高く評価されている。
 
義手に限らず、生体センサを用いてものを動かす技術はここ数年で一気に実用化が進んでいて、
ボタンやキーボード、つまみやハンドルなどの道具を手や指で操作するという間接的なプロセ
スは、必ずしも何かの装置に入力を行う上で(人間から見れば出力)必須の過程ではなくなり
つつある。筋電や脳波だけではない。SIRIをはじめとした音声認識による入力はテスラのよう
な市販車でもかなり本格的に導入されているし、モーションキャプチャを用いたLeap Motion、
眼球トラッキングをするGoogle Glass、Laiderによる物体認識を用いたGoogleをはじめとした
車の自動運転など、Apple Watchのようなウェアラブル・デバイスを挙げるまでもなく、近年
話題になっている製品には何らかの新しい方法で動きや環境属性のセンシング技術が実装され
ているものが多い。
 
市販の家電の一部にも人の動きや温度分布をセンシングしながら動くものもあるが、生活の中
にはもっと圧倒的に多様なセンシング可能な属性があるし、より多様な環境情報を取り込む動
きはこれまでの道具の常識を覆しながら、今後一気に広がっていくはずだ。そもそも道具が静
的で、受動的なモノでなければいけない理由などなくて、技術が許容するなら、もっとセンシ
ングをして、かつ動いてくれるに越したことはない。
 
これは建築でも同じだ。生活環境としての建築には、もっともっと圧倒的に多くのセンサーが
組み込まれ、動的な対応が考えられていいはずだ。建築が動いてはいけない、反応して変化し
てはいけないなど、技術が足りなかった時代に凝り固まった常識に過ぎない。「ウェアラブル」
という概念が流行っているが、人が身につける(埋め込む)ことが今の技術トレンドの一つの
極だとすれば、環境の側に(つまりは街や建築に)埋め込んである、「ハビタブル」なセンサ
という考え方も、今後ウェアラブルと同等かそれ以上に重要な分野になっていくはずだ。その
中では、今家電として理解されている諸機能は、個々の機能に固有のセンサが一つの製品内で
固定されているのではなく、環境に埋め込まれた多様なセンサーに必要なタイミングで接続し、
その都度必要な構成をネットワークしながら利用する、離散的かつソフトウェアベースな形に
なっていくだろう。人と環境、人と道具、建築とデバイスとの境界はよりあいまいになってい
く。
 
建築とは実は、本質的に動的でインタラクティブなものなのだろう。建築がハビタブルなセン
サを備え(これは環境がウェアラブルなセンサを身に纏うということでもある)、筋肉を持ち、
考え、生きて人と対峙する、そのシステムと体と機能とを総合的にデザインすることが、建築
家の職能になっていく。

 exiii社の普及版筋電義手 Hackberry

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