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コラム

形を決めないカタチの設計図

2018.02.27

パラメトリック・ボイス           アンズスタジオ 竹中司/岡部文

岡部  「音の理論の発見(原題:Entdeckungen über die Theorie des Klanges)」という
    本がある。ドイツの物理学者であり天文学者でもあったエルンスト・フローレンス・
    フリードリヒ・クラドニが、水や砂などの媒体を通して音を可視化する手法を体系化
    し、まとめたものだ。
       
竹中  サイマティクスの手法だね。振動が伝わる板の上に粒状のものを敷き、弦楽器の弓で
    板の縁を擦ることで文様を描き出す。音は振動であり、空気という媒体があるからこ
    そ成り立っている自然科学的現象だということに、改めて気づかされる。
 
岡部  音楽は、非常に感覚的でありながら、本質は科学的でもある。すべてが自然科学の法
    則の上に成り立っているのだから、同じ芸術であっても、絵画や彫刻とは全く異なる
    性質を持っている。
 
竹中  そうだね。そして、音の本質と建築設計の密接な関係性は、遥か昔、紀元前までさか
    のぼる。そんな旧知の関係に注目し、よりインタラクティブな方法で建築の世界を描
    こうとしたのが今回携わったプロジェクト岩手県釜石市の釜石市民ホールTETTOで
    の試みだ。
 
岡部  設計者ヨコミゾマコト氏の「音の振る舞いから形を浮かび上がらせたい」とする想い
    が出発点だ。我々アンズスタジオは、これを可能にするコンピュテーショナルな手法
    を提案した。
 
竹中  形を先に決定して音響の解析を行うのではなく、形と音を同時に扱いながら形態を模
    索する方法だね。それが、私たちが提唱している「形を決めないカタチの設計」プロ
    セスだ。カタチ自身が学んでゆく手法である。
 
岡部  形を決めないカタチの設計プロセスは、ホールの大きさ、音の条件、建築法規、施工
    条件など、様々なルールを設定し、この空間に音を放つことでスタートする。放たれ
    た音は、シューボックス型のホールに音を反射させながら、空間の特徴を探ってゆく。
 
竹中  自らの姿を細やかに変形させながら、ホール全体に音を均一に放つことの出来る空間
    を学習させる、しなやかでダイナミックな形の扱い方だと言えるだろう。
 
岡部  その工程は、まるで生き物を見ているかのようだ。軽やかに踊る音の群れと対話する
    ように、天井面が繊細に変化する。雲のようにカタチを変えながら徐々に最適化され、
    音を包み込む柔らかい形態が現れてくる。その姿は、音の結晶体のようでもある。
 
竹中  今回の設計プロセスで扱ったルールは、マテリアルの選定も重要な要素のひとつだっ
    た。開発を行ったのは木加工の美しさが際立つLVL材である。マテリアルを加工す
    る工程でその特性を理解し、これを取り込んだ形を決めないカタチの設計図は、計算
    世界から物質世界へと連続している。そして、この二つの世界をつなぐ事こそに、
    「デジタルの力」の本質が存在しているのだ。

 釜石市民ホールTETTOの内装写真 Ⓒ青島琢治

 釜石市民ホールTETTOの内装写真 Ⓒ青島琢治


 音響最適化プログラム Ⓒアンズスタジオ

 音響最適化プログラム Ⓒアンズスタジオ