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コラム

判断をしないという時間のロスに向き合う

2018.03.29

パラメトリック・ボイス                清水建設 丹野貴一郎

先日サンフランシスコとロサンゼルスに行く機会がありました。
短い期間に二都市に行った上、特にサンフランシスコではほとんどを打合せと移動に時間を費
やしたため、あまり街を歩く時間はなく、旅行的な意味では物価の高さとUberの便利さ程度
の感想しかなく帰ってきました。
仕事としては現地駐在の方のおかげで非常に有意義なものになり、いくつかの収穫を得る事が
できました。その内容をここに書くとさすがに怒られますのでやめておきますが、Autodesk
の施設やいわゆるシリコンバレー的な先端企業、またはコンピュテーショナルデザインを実践
するような設計事務所と話した感想としては、思ったよりは進んではいないかなというもので
した。
もちろん彼らの方が進んでいる部分は多く、取り入れるべき物事をあげればきりがありません
が、特に技術的な部分に関しては日本でも十分に対応できるのではないかと思います(ただ
しAIに関するものだけは圧倒的に日本は遅れを取っていると思います)。
おそらく日本の弱点としては、技術はあるがそれらを繋ぎ合わせて更に発展させて行くことが
苦手なのではないでしょうか。もしくは熟考するが故に発展のスピードについていけていない
と言った方が良いかもしれません。
例えばスタートアップ企業でも地域によって性格が異なり、わかりやすく言うとアメリカ系の
企業は何でもできると言い、ヨーロッパ系の企業は本当にできることしか答えない気質がある
ようです。これが日本の企業であれば持ち帰って検討します、と結局は何も答えないという選
択肢をとるのではないでしょうか。
いかにも日本らしいこの選択は西海岸の多くの企業や大学にとって非常に評判が悪いそうです。
確かに、視察や意見交換という理由で訪れる日本企業のほとんどがこの選択をとり、その後特
に発展もなく終わっていくという経験をした事を考えれば彼らの気持ちもわかります。
しっかりと検証し計画をした上で取り組んでいく事を否定するわけではありませんが、本当に
必要な検証か今一度考えたほうが良いかもしれません。
極端に言ってしまうと、判断しない人がいくら検証しても意味がないのではないでしょうか。
もちろん検証する人と決定する人が異なるのは良くあることですが、少なくとも判断しなくて
良いような検証は定量的に数字を比較するようなものに限られ、技術の展開に関わるような検
証は当然技術的な判断をできる人がするべきで、いわゆる顔を合わせることだけを目的とした
打合せは必要最小限にするべきです。決定までの時間のロスがいかに大きな損失か、いい加減
真剣に向き合う時が来ているのだと思います。
ちなみに実際に上記の理由で今回少なくない数の訪問を断られました。その中の一つでもある
スタンフォード大学でたまたま妻の友人が研究員(建築系ではありません)をしていたので、
お土産を渡しがてら大学近くのカフェで少し話をすることができました。妻からは何をやって
いるかわからないと聞いていたのですが、今回一緒にいったメンバー的には実に興味深い研究
で、技術の発展とは興味を持てる人同士の話の中で生まれるのだと感じる時間でした。ただ、
往々にして旧友の仕事とはあまり興味の対象にはならないものかもしれませんし、そんな話が
無くても盛り上がれるのが友人なので、どこでも技術的な話をしてしまうオタク気質は隠しな
がら、特に結果を求めない話で盛り上がることもまた重要なのです。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長