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コラム

【BIMの話】アメリカではね、

2018.04.05

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰

イチハラヒロコ氏の「ことばアート」が昔から好きです。彼女の主催するワークショップに参
加したこともあります。なんなら私のFacebookアイコンは氏の作品の前で撮影したものです。
モリサワのゴシックMB101で綴られる作品は文字と言葉そのものがアートであり、作品集を
パラパラと眺めると幸せな気分になれます。私がとくに好きなのは「好きだけど 苦手」と
いう作品ですが(あと「ひとこと わたしに あやまれ。」というのもたいへん共感を呼びま
す)、他にも良いものがたくさんあるので気になった方はGoogle検索などなさってみてくだ
さい。
 
さて、表題の「アメリカではね、」も氏の作品です。あとに何が続くか想像せずにいられない、
この言葉の魔力はなかなかのものです。我らがBIMについても「アメリカではね、」とか「海
外ではね、」という切り口で色々と語られています。
国ごとにBIM推進の状況がどんなもんかという話題は1つの関心事であり、比較によって自国
の状況理解を深める上でも必要とされる内容です。The Business Value of BIM for
Construction in Major Global Markets
(2014)はMcGrawHillによる大規模な調査で、様々な
プレゼンテーションによく引用されています。学術論文でも取り上げられるテーマで、たとえ
ばJack C.P. ChengとQiqi LuによるA Review of the Efforts and Roles of the Public
Sector for BIM Adoption Worldwide
(2015)では、標準化等の業界横断的な役割が各国の政
府によってどの程度果たされているかを大規模に比較しています。
 
シンガポールでのBIMが進んでいる、政府による環境整備によって業界へのBIMの普及が急速
に進んだ、という話がよく紹介されます。実際によくよく話を聞いてみると、BIM実務者の不
足や構造・設備へのBIM導入の遅れなど、青写真の通りに進んでいない状況も伺い知ることが
できるものの、戦略的にスピーディな意思決定を行って導入に踏み切ったことは事実です。し
かしシンガポールには地方自治体がなく、建物に関する各種申請はすべて中央省庁が直接担当
しています。ひとつの自治体の決断で国全体のシステムが構築できるというシンガポールなら
ではの事情は、多くの国にはなかなか真似のできないものです。
 
先日参加した国際会議でいくつかの国の政府のBIM担当者と話をする機会がありました。アイ
スランドの国全体の人口は34万人ほどだが100近くの自治体に分かれており、中には人口50人
程度のところもあるとのこと。また人口6,000万人ほどのイタリアも100以上ある自治体の多く
で固有の申請方式を用いているため、イタリアでの建築申請はこうであるという紹介は難しい、
と話していました。日本は世界で10番目に人口の多い国であり、ほとんどの国の数倍~数百倍
の人口を有しています。当然多くの自治体を有していますが、建築に関しては国全体で建築基
準法という統一ルールを運用しています。この点で上記の国々や、また州ごとに独自の建築規
定をもつアメリカなどとも異なる環境を持っているといえます。
申請だけに限りません。フランスではsynthèse architecturale/techniqueと呼ばれる職能を
置き、建築・構造・設備などの重ね合わせ業務を行うことが法により求められているが、この
職能とBIM Managerは別物であるため兼務していないケースでは同じ内容を二人の異なる人
が担当することになって混乱を生じる原因になる、という話を聞きました。分野横断的な重ね
合わせ業務を誰が担当するかは国によて見解が異なります。イギリスRIBAの規定では建築家
の所掌とされているそうですが、イギリス式の法制度がベースにあるとされるシンガポールの
Design-and-build契約では施工者側の責任とされています。こうした話は、ある職能がBIMモ
デルを主として何のためのものとして考えるかに大きくかかわります。
(※上記の話は私が聞いてから日が浅く、十分なクロスチェックを行う前に記事化しているた
め一部不正確な内容を含む可能性があります。誤りに気づかれた方がいらしたら是非ご指摘く
ださい。)
 
こうした話に何度も出会うと、「この手の話がわかりやすくまとまった、何かこう一枚の表み
たいなものはないものかネ」と誰かに言われそうな気がします。実際そうした情報を整備しよ
うと活動している人もいます。私個人としては、あまりにも内容が多岐にわたるのでおいそれ
とはまとめられない内容のようにも思います(少なくとも私はその「一枚の表」をまとめよう
とは思いません)。せめて、国ごとのBIMの進捗というタイプのトピックは、職種・契約・建
築行政のあり方・申請など複雑な要素が絡み合うそれぞれに固有の現象であるということ、そ
れゆえに安易に引用はできないのだけれどもよく調べれば学べるところがあるものだと捉える、
という程度だと実行可能かなと思っています。
 
話は変わりますが、日本の建築法規について英語で説明するとき、建築基準法に独特の概念を
どう訳したらよいのか迷うことがよくあります。最近、日本建築センターが建築基準法および
関連法規の英語解説資料
を発行していることを知りました。同センターは英語版の建築基準法
を販売してもいますが、上記資料に相当の部分の英語訳と解説が入っており、無料でダウン
ロードできるため非常に重宝します。
それによると、
準耐火建築物=quasi fire-resistive building
大臣認定=ministerial approval
延焼のおそれのある部分=parts liable to catch fire
だそうです。もちろん、それら概念の意味するところは説明を要しますが、用語統一できると
いう点だけでも大いにメリットがあり、おすすめです。
 
ところで「建築士」、建築設計および一定規模までの構造と設備、ならびに監理を受け持つこ
とのできる職能は日本に固有のものです。これこそ英語でうまく伝えたいのですが、対訳で調
べると”Kenchikushi”だそうです。そういえば、一級建築士の証書を英語版で取り寄せたとき
Kenchikushiと書いてあったような。たしかに固有の概念だから対応する語句があるわけで
はないので、いやしかし、ということは私が自己紹介するとcomputational Kenchikushi……。
うーん。不満があるわけではないのですがもうちょっと考えてみます。

         イチハラヒロコ氏の作品より

         イチハラヒロコ氏の作品より