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コラム

BIMモデルがもっとデータベースであって欲しい

2018.04.19

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

最近、竣工後の運営・維持管理へのデータ継承を前提とした新築プロジェクトで、BIM導入に
かかわる機会が少しずつではあるが増えてきた。発注者かファシリティマネジャーあるいは設
計監理の、BIMマネジャーまたはBIMコーディネーターといった立ち位置である。
BIMの導入計画を検討する段階で、ファシリティマネジメントにおけるBIM活用の計画を作り、
設計や施工で作成されるBIMモデルに対して、建物ライフサイクルマネジメントからの要件定
義を行ったりBIM実行計画に盛り込むべき内容を立案したり、と言ったことを行う。竣工後の
建物運営イメージが曖昧な時は、話を聞きながらおおまかなBIM運用イメージを策定し、必要
となる建物データを建設側と合わせてBIMモデルのあるべき姿を決めていく。
 
竣工後に建物の運営・維持管理・改修工事を行う場合、建物情報をデータ化して扱うと便利な
ことが多い。理由はいろいろあるが、建物を構成する様々な要素の検索と集計、フィルターに
よる抽出や一括編集といったデータ操作が多いからではないかと思う。特に運用段階での建物
は一つではなく、複数の建物をCRE/PREとしてみることが必要となる場合も少なくないため、
できる限り情報を整理しどの建物でも同じように扱えるようにする。スプレッドシートを使う
と手軽ではあるが、ある程度以上の情報量を組織的に扱う場合は、データベース化した方が業
務の品質や統制面から有利だといえる。
ファシリティマネジメントで扱う建物データをリレーショナルデータベースの視点で見ると、
できるだけ正規化された状態にしておきたい。そのため建物データベースを構築するには、土
地、棟、フロア、スペース、部位・機器、家具・什器といった建物構成要素を階層に分け、そ
れぞれのデータテーブルで管理するマスター系のデータテーブルと、それぞれの階層に合わせ
て連携する履歴系や属性系のデータテーブルをリンクするのが常套手段となる。勿論図面やそ
の他の情報も粒度に応じて整理ができるので、適正に設計をすれば建物データベースは非常に
整然とした構成を持つ、扱いやすい情報として利用することができる。
それぞれのデータテーブルには大抵ユニークキーを設定し、レコードの重複を防止するととも
に他のデータテーブルとのリンク関係を定義したビューを介してデータを利用する。勿論それ
ぞれの項目は、それが文字なのか数値なのか日付時刻なのか論理(True/False)なのかと言っ
た、「型」を定義する。構造がきちっと決まっているので、クエリーを介してプログラムやア
ルゴリズムから操作することができる。トランザクションの記録を適正に残しておけば、いつ
でも何世代か前の情報に戻ることもできる。オブジェクト指向データベースであっても考え方
は大体同じだと言ってよい。
 
初めてBIMを知った時、建物を作るだけではなく、ファシリティマネジメントでも十分に使え
るだろう、と思った。おそらくBIMモデルはデータベースインスタンスのようなものなのだろ
う。これが筆者のBIMに対する第一印象である。
ところが、実際にBIMモデルを建物データベースとして使おうとすると七転八倒することとな
る。データテーブルを定義してキー項目を設定し、ビューを用いてGUI(グラフィカルユー
ザーインターフェイス)を設計したりAPIを用いてアプリケーションと連携したり、といった
データベースシステムでは当たり前のことがことごとくできないのだ。確かに属性データを抽
出して集計することもできるのだが、レコードのユニークさが保障されているわけでも階層横
断的な情報管理が容易にできるわけでもない。できるのは一つのスプレッドシートに属性デー
タをただただ並べて抽出することだけ。正規化もされていなければ、型もサイズも決まってい
ない。COBie形式でエクスポートすれば、建物、フロア、ゾーン、コンポーネント…とデータ
をそれぞれの用途で分類して出力することができる。しかし、すぐにデータベースとして利用
できるわけでもない。スプレッドシートをデータベースとして使えるようにするまでには、
データクレンジングをはじめ、それなりの手順と手間が必要となる。特に一度作成したBIMモ
デルを修正し、建物データベースを更新する際の差分把握の面倒さは筆舌に尽くしがたい。
データベース視点で見ると無法地帯もいいところである。BIMモデルは建物データベースだな
んて言ったのは誰だ…?
 
愚痴を並べていても仕方がないのだが、やはり現在のほとんどのBIMツールとBIMモデルは、
現時点ではデータを一度だけ新規作成するためのシステムになっていると思う。もう少し継続
的に情報を扱うデータベースのセンスでBIMモデルが存在していれば、発注者や建物ユーザー
やファシリティマネジャーが手軽に利用できるだろう。そもそもデータベースとして扱うこと
ができれば、GUIを介さずともアプリケーションやアルゴリズムからデータにアクセスするこ
とができるようになるから、アルゴリズミックデザインの分野でも単に形状を作るのではなく、
素材やビジネスといった様々な情報を考慮したデータ生成や分析・評価が簡単にできるように
なるのではないだろうか。既存のBIMモデルを解釈・評価したり最適化して書き直したりと
言ったことも実現されるだろう。ERP, CRM, SCM, RPA等と容易に連携できれば建築生産の姿
も大きく変わるのではないだろうかGUIを介してモデリングをするのと同じくらい手軽に
クエリーを介してBIMモデルを参照・編集できれば、世界は広がるはずである。
BIMモデルがもっとデータベースであって欲しい。早くそうなって欲しいと願うばかりである。
 
IFCの仕様はクラスライブラリの定義としても見ることができるので、IFC形式で直接データを
読み書きするBIMオブジェクトデータベースは比較的容易に実現できるのではないかと思う。
ひとつのBIMモデルがひとつのデータファイルに縛られる必要もない。必要に応じて建物デー
タの一部を切り出すことも、元に戻すことも簡単にできるはずである。最近、海外でそのよう
なプロジェクトが立ち上がっているという話も聞く。近いうちにBIMモデルがもっと建物デー
タベースとして利用できるようなると期待している。

松岡 辰郎 氏

NTTファシリティーズ NTT本部サービス推進部エンジニアリング部門設計情報管理センター 担当部長