Magazine(マガジン)

コラム

どの世代にも求められる
コミュニケーションモデリング

2018.05.15

パラメトリック・ボイス       ジオメトリデザインエンジニア 石津優子

嬉しいことにBIM促進に関連した話でプログラミングによる設計手法を取り入れたいので若
い人たちに教えてほしいという相談を受けることが多くなりました。今回はプログラミング
による設計手法の面白さについて書いてみます。それは、カタチの合理化と協業にあります。

はじめに、カタチを論理的に捉え、どのような手順でモデルを構成するかというロジックを
組むところにパズルを解くような面白さがあります。このような手順的なモデリングをする
ことで幾何学的に表現豊かなモデルを短時間で組み合上げることができます。

次に、設計フェーズの中でコンセプトモデルから設計モデルへと解像度を上げていくための
カタチの合理化です。設計が進むにつれて、ただのカタチから敷地条件や環境的な要素、構
造的な要素、施工条件、予算等、様々な条件が加わることで、カタチのモデュール化や合理
化を図ります。カタチを全体的、部分的の両方のアプローチから合理化を図れるところにプ
ログラミングの良さがあります。特に規模の大きな建物や独創的な建築の設計で効果的で、
データを扱う量が大きい場合や、固有な要素が増える案件ほどより大きな効果が表れます。
例えば、3Dを用いた設計で造形的な建築をつくると、合理的なカタチから離れてしまうこ
とが多くあります。どのガラスも固有なカタチであったり、各階平面が異なったり、各種図
面を揃えるだけでも大変ですが実際につくるのも大変です。同じ様相でもより合理的なカタ
チへと解答を導くことが可能です。そのことによって、設計者のコンセプトモデルが含んだ
意図を活かしたまま、実際の生産まで繋げることが可能になります。

最後にネットワークによる協業です。つまり、データ間通信を活かしたモデルを介したコ
ミュニケーションをとることが可能にした新しい働き方です。近年は、BIMやCADのプラッ
トフォームも複数人が同時に作業することを前提にアップデートされており、モデルを介し
たコミュニケーション、協業が可能になり、垣根を超え、階層を感じさせないプロジェクト
進行が可能になりました。それを更に加速させ、より早く円滑に合意形成のためのモデルを
つくることができるところもプログラミングによる設計手法の魅力です。

働き方や人と人との関係性にも影響力があるモデルを介した設計ですが、それが故に難しさ
も多く含んでいます。まずは、各人の技術習得のハードルの高さです。勉強し始めたがなか
なか習得できない、自分の年齢が若くないからだろうという声も多く寄せられています。私
自身、大学に入るまでかなりアナログ人間でした。小さな頃から高校生までデッサンや風景
画を描くことが日常にあり、何か彫刻をしたり工作をしたり、手を動かして行う「モノづく
り」が好きでした。

「デッサン」と「プログラミング」は、「習練」、「継続」、「応用」という観点から非常
によく似ています。まず、デッサンは日々少しずつ練習して、反復することで上達し、継続
しなければすぐに下手になります。今現在から過去を振り返りどれだけ継続的に描いている
かという期間が、どれだけ上手に描けるかという度合に比例します。ちなみに、作品の素晴
らしさとデッサン力に関しては比例するとは限りませんが、一般的に一部の天才を除いては
その基礎力なしには表現まで到達できません。そして、水彩画で上手に描ける人は、油絵で
も上達が早いです。プログラミングでも同じことが言えます。プログラミングも最初は簡単
なものから始まり、継続して習練することで、言語が変わっても応用して書くことができま
す。

実際、私がプログラミングを習った先生たちは私よりも年齢が10~20歳以上も上の人たち
ばかりでした。その方たちが小さい頃からプログラミングをやっていたという事実は確かに
そうですが、彼らは当時使っていたプログラミング言語とは違う言語を現在使っていて、常
に新しい情報を習いながら書いています。プログラミングを使って仕事をしている人たちの
特徴は、日常的にプログラミングを使っています。どれだけ接するかというところが大きな
要素になり、やはり楽しいと感じなければ続きません。プログラミングをはじめてから変
わったことは日常です。インターネット環境に身を置き、常に情報交換を行いながら練習す
ることが日課になりました。これは自分自身に対しての励ましでもありますが、続けていれ
ば必ず上達し、いつからでもはじめることができ楽しむことができます。

しかしこうして個人が技術を習得しても、チーム全体がそのコーディング文化に溶け込まな
いとコミュニケーションが生まれないため、断片的な技術活用に限られてしまいます。せっ
かく習得した技術も孤独なものになってしまいます。広範囲に活用した方が働いているグ
ループ全体の作業効率やモチベーションが格段に上がります。どの世代どの立場の人も同じ
モデルに触れることで、今までにないワークフローが生まれます。モデリングはそういう意
味で、ただの入力ではなくコミュニケーションそのものです。コミュニケーションのプラッ
トフォームがモデルに移りつつある変革期であるからこそ、決して若い人のツールではなく
どの世代の人もモデリング技術をある程度は取得すべきです。そうすることで、入力作業で
はなく意思疎通として3Dデータを扱うことが可能になり、より円滑なコミュニケーション
が生まれることでしょう。

石津 優子 氏

GEL 代表取締役