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コラム

デジタルアーカイブ

2018.11.01

パラメトリック・ボイス            木内建築計画事務所 木内俊克


建築雑誌12月号にて「建築都市環境におけるデジタルアーカイブ技術とその課題」という記事
を寄稿した。詳細はむろんそちらをご覧いただきたいが、今回はそのスピンオフ的にデジタル
アーカイブについてあれこれ思ったことをつれづれにメモしておきたい。
 
かろうじて昨年から断続的に私のコラムをチラ見して下さっている方がいればそろそろ皆さん飽
きている、ないし完全に忘却されているころと思うが、しつこい性格なのでまた記すと、1年前
にArchiFuture Webのコラムをお引き受けするのにあたってこれについて書いていこうと決めた
内容が、「公共空間における情報の所在について」という軸であった。
つまり、あらゆる物理空間は時間軸と共にいろいろな情報を保持している支持体であって、その
意味で物理空間に付帯する情報も情報空間に係留されている情報も元来シームレスに見ること
が可能なものであり、さらに同じ対象でも少しずつ異なる角度から情報を読み込む主体としての
私たちがいてかつ、そんな私たちも刻一刻と情報のインプットにより書き換えられては、環境
にコミットして環境に付帯する情報を書き換えている。ので、そのループそのものが公共空間で
あるだろうしその空間をどう把握してどう介入するかを捉えることこそ情報技術の活かしどこ
ろではないかという話。
 
「デジタルアーカイブ」というジャンルが扱っている問題は、まさにこのトピックのど真ん中を
いくような話で建築にせよ都市にせよテキストにせよデジタルのつかない「アーカイブ」の
概念の中では物理的に限界があった、最終成果物に至る途中のあらゆる有象無象の「過程」まで
もが、ある意味「必要以上に」膨大な量記録できてしまうし、日々生成しているそれら膨大な情
報はあふれ続け、ただ流れ続けていく整理されない情報が無尽蔵の澱のように堆積していく状況
があり、そしてそうしたものの中にこそ社会で共有されるような「知識」が生まれてくる直前の
無意識のようなものが眠っているだろうことが議論されている。
こうした指摘は、様々なSNSが実装されて以来、益々重要性を増してきているのはいうまでもなく、プッシュ通知は流れ続ける情報の速度を上げ伝達時間を短縮することで情報のフローと
しての性格を後押しし、検索エンジンによりいつでもその総体にアクセスできる。Aという概念
を調べるとき、キーワードを含む複数の検索結果を並列的に眺めて、あぁAってこういう感じね
と理解するのがもはや最も一般的な概念の構築方法で私たちの頭自体もはやそういう風にで
きていると言ってもよいだろうさらに言えばGoogle Map/Earthは何はともあれ世界の情報
をくまなく映し込んだ写像としてもはや十分に機能している為どこに行くにも何を食べるにも
まずはググって、その場所や対象の何たるかをそこにどんな検索結果が並ぶかで理解し、そこへ
の距離やその過程で遭遇・通過するはずの様々な事象を頭に入れ、そういうものとしてそこに向
かい、そういうものとして対象を受容する。言い過ぎではなしに、情報が十分にはりめぐらされ
た都市部においては特に、世界の半分はGoogleでできていると言える。
 
ただし、「デジタルアーカイブ」が学術的に議論される際のポイントは、今一度言えば「世界の
半分はGoogleでできている」のと同じ以上に、「Googleは世界によりできてもいる」というこ
とで、この循環運動を循環運動として捉え、どうそこに介入するかの糸口をきちんと整理しま
しょう、というところにポイントがあるようだ。
言い換えれば、「デジタルアーカイブ」以前の「アーカイブ」は、公的にオーソライズされた文
書の保存と公開を行う文書館や記録すべき対象としてやはり権力がオーソライズした資料を集
める美術館博物館、図書館といった組織により生み出されてきたわけだが「デジタルアーカ
イブ」以降はまったくその限りではない状況が出現しているという事実で、端的に言って整理す
らままならない状況にあるのをまず整理できるようにしましょう、という目的が非常に重要視さ
れているということのようだ。
まずは、今まで別々に取り組みを行ってきた異なる自治体や地域、国、国際組織に所属する各公
的機関同士が水平方向に情報共有しようとするとフォーマットが異なったりで比較ができないと
いう問題を、メタデータ整備により解消し、そこにさらに公的機関ではない様々な主体により生
成されている情報群を同様に紐づけることができればフローとして流れ続けている情報の澱に
整理された「知識」の枠組みによる傾向づけのようなことも可能になるかもしれない、という議
論であり、そうこう考えていくと権力や政治の問題とも絡む非常にデリケートな側面をはらんだ
話でもあることが了解されてくる。
そうした意味でも、だからして物理空間と情報空間のシームレスなループはまさに「公共空間」
なのであり昨年11月のコラムで取り上げたようなMIT Center for Civic Mediaのような取り組
みがきわめて重要な位置をしめてくるものでもあることを確認させられる。
 
ちなみに「デジタルアーカイブ」というキーワードを含む論文をざっとあたるだけでも、図書館
情報学、記録管理学、教育情報学、デジタルアーカイブ学、マス・コミュニケーション学、政治
学、考古学、史学、映像情報メディア学、情報科学、情報知識学、印刷学、写真学写真測量学
文化経済学建築学流通学、バイオメカニズム学、人間工学、その他ここでは列挙しきれない
程に、実に幅広い領域で議論の俎上にあがっていることがわかる。ただし筆者はまだその一部
にしか目を通せていないものの、問題の根幹や、通底する技術的なテーマには近いものがあるよ
うにも感じる。そもそも検索エンジンは上述のような学問的縦割りを横断して乗り越えていくも
のであるし、その壁をどう柔軟に乗り越えながら、それでも膨大なデータに何がしかの更新性や
持続性のある枠組みを紐づけて、構築的なアクセス可能性を担保していくのかがやはり同時代的
な目標値になっているのだと思う。
 
というところで、今回は本当に思うがままにメモを羅列してしまったが、今までのコラムで書い
てきた議論を整理する上では、単純だが大事な論点を確認できたのではと思っている。また次回
以降、各論への踏み込みと全体の見渡しを適宜行き来しながら、「公共空間における情報の所在
について」考えていきたい。

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