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コラム

「BIM的世界」のブランディングは可能か
(建物のデータは、無限の資源になる
 ~BIM-FM PLATFORM ②)

2018.11.06

パラメトリック・ボイス         スターツコーポレーション 関戸博高

先日のArchi Futureでの日建設計 山梨さんとのセッションは話している方も楽しかったし
来場者の方々も多くは笑顔で聞いてくれていたので、多分そこそこ満足してもらえたのでは
ないだろうか。来ていただいた方々に感謝しています。

 Archi Future 2018 特別セッションの会場風景

 Archi Future 2018 特別セッションの会場風景


さてこのコラムでは経営的視点から「BIM的世界」について書いている(前号のコラム:
建物のデータは、無限の資源になる〜BIM-FM PLATFORM ①)。
今号では、次の3点について書くことにする①なぜブランディングが必要か②どのように
ブランディングするのか③情報技術により商品の製造者と利用者間のトレーサビリティ・
可視性の向上の中で、ブランドの必要性はあるのか

①なぜブランディングが必要か
恐らくBIMを普段使っている人からすれば、BIMにブランディングってなんだ? ルイ・ヴィ
トンじゃあるまいし、と思うのではないだろうか。
確かにBIMを図面を描く道具と考える人なら、そう思うのは当然だ。
だが、スターツはそう考えなかった。
我々は、BIMをビッグデータをつくる仕組みだと考えた。つまり、その情報世界を「無限の
資源」とし建築企画から設計・施工・FM・投資判断などに関わる全分野に向けて様々な
サービスを提供できるコンテンツに、加工出来るはずだと考えた(情報コンビナート構想)
しかし、現時点でこの分野の専門家ではない利用者に、サービスの利用価値を全て理解して
もらうのは、難しいと判断し、コンテンツ製作と並行してブランディングすることにした。

 ダイアグラム

 ダイアグラム


②どのようにブランディングするのか
2年ほど前に、ブランディングを前提として立ち上げたのが『BIM–FM PLATFORM』だ。
このサービスは、即物的に目に見えるものではないため、顧客は何が得られるのか分かりに
くい。戦略戦術に裏付けられたブランド名がなければ、サービスを与えられて初めてその質
が分かるということになる。それでは駄目だ。顧客が安心して選ぶことが出来るように、そ
の価値を保証するのが、このブランドの役割だ。
一方でブランディングは、インナーキャンペーンとして、BIMを使って仕事をする社員に
とっても重要である。それは、自分たちがいかに価値のあることを、仕事としてやっている
かを表現しているからだ。
 
話が分かりにくいかもしれないので、少しBIMから離れて違う角度から話をしたい。
スターツでは1995年に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに賃貸マンションを免震で建
てる為の、技術開発をスタートした。その頃は免震技術の存在を知っている人も少なかった。
今のBIMを取り巻く状況と似ている。
その後特許を取り、単に建てるだけでなく、品質保証をし、仲介や定期点検を含む管理とい
う不動産的サービスを付加し、更にコミュニティに貢献する非常用井戸の設置等、安心・安
全のシステムとして『高床免震』というブランドを立ち上げた。現時点までに設計施工で
450棟以上の建物を受注している。棟数であればスーパーゼネコンに準ずるところまで来て
いる。

 高床免震           起震車           非常用井戸

 高床免震           起震車           非常用井戸


 『高床免震』の知名度を高めるために、お祭りや運動会に起震車を参加させたりした。その
効果で、今ではスターツの免震と言えば、『高床免震』と言われるようになった。その結果、
毎月3~5棟を継続的に受注している。
ブランドが、このように曖昧な価値の商品やサービスに対して、顧客が明確なイメージと信
頼を持つことを助ける機能を果たすことを我々は経験的に知っている。
 
③トレーサビリティ(追跡可能性)の向上とブランドの必要性
最近、技術と社会を「トレーサビリティ」という概念で橋渡しする(読み解く)示唆的な論
文に出会った。読む中で「ブランド」の価値を現在のトレーサビリティが高まっている情報
化社会において、再定義することが求められていると思った。(注1)
 
引用しながら説明をしたい。慶應義塾大学の國領二郎教授は、情報技術がビジネスモデルを
大きく変えるドライバとして、トレーサビリティとつながりがあることを指摘し、ブランド、
パッケージ、定価、コマーシャルなど今日のマーケティング手法は全て、大量生産・大衆消
費社会における可視性の低さを補う手法でありまた「生産者と消費者の間に距離が生じた
信頼のギャップを埋めるために発達したものと言える。」と述べている。
確かにそういう面はある。
BIM-FM PLATFORMの目指しているゴールのひとつは、BIMデータを駆使してその建物の
「トレーサビリティ・可視性」を高め、その建物の現在価値を明らかにすることである。
ここで、以下の問いを立ててみる。
「限りなくトレーサビリティを高めたデータを駆使して行う情報サービスは、信頼性も高ま
ブランディングは限りなく不要になるか?」
現時点では、この問いにはおそらく答えはない。
國領教授も「ビッグデータと知識のトレーサビリティ」の項で、次のように述べている。
「大いなる進展が予想される一方で、トレーサビリティを確保する見込みがまだ立っていな
い分野も多く残っていることも認識しておく必要があるだろう。最大の分野が『データ』の
トレーサビリティである。」
私の勝手な解釈だが、これはデータをデータで管理するという追いかけっこになることを意
味しているのではないか。そこに生じるデータの「信頼性に対する不安」は、更に新たなブ
ランドを必要とすることになるのではないか。
そして当面の間、この様なデータに対する「不安」の解消は、データのトレーサビリティの、
いわば内側の問題ではなく、結局それを扱う個人や組織の信頼性に、依存せざるを得ないと
いうことになるのではないか。ここに従来とは異なる「ブランド」の必要が生じてくると思
われる。神(ブランド)と科学(情報)とどちらを信じますか、という問答になりそうなの
でこの辺りで終わりたい。
 
今号はここまでとし次号はBIM-FM PLATFORMを支える組織について触れることにした
い。
 
注1:國領二郎「トレーサビリティとシェアリングエコノミーの進化」
(J–STAGE 研究 技術 計画 2017 年 32 巻 2 号 p. 105-116)

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長