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コラム

(建築)少年(と少女)よ大志を抱け

2019.01.31

パラメトリック・ボイス               広島工業大学 杉田 宗

あっという間に2018年が終わり、新たな年が始まってしまいました。昨年より続けさせて頂
いているコラムも今回で4回目。今年もどうぞ宜しくお願い致します。

さて、今回は少し視野を広げ、国際ワークショップを含めた、国際交流についてお話したいと
思います。

昨年以降いくつかの国際ワークショップに関わらせて頂く機会があります。昨年11月には九
州大学Environmental Design Global Hubとニューサウスウェールズ大学(UNSW)による
インダストリー4.0を越えて:デジタルフブリケーシンとローカルクラフト」に参加させ
て頂き、「デジタルファブリケーション」と「ローカルクラフト」をテーマに両国の専門家や
研究者による議論が行われました。この2つのテーマは、地方でデジタルデザインを考える上
で非常に重要なキーワードであり、シンポジウムでは南小国町に滞在し、そこで展開されてい
るものづくりを視察しながら、最先端のデジタルフブリケーシンについて話し合いました。
UNSWには世界的にも珍しいBachelor of Computational Design(コンピテーシナルデ
ザイン学)のコースがありそこでは積極的にe-learningを取り入れることで授業前の予習と
してソフト習得をやらせ、授業時間を実習と指導に充てるカリキュラムになっているという話
もありました。このシンポジウムの取りまとめをされていた、九州大学芸術工学部の城一裕先
生や岩元真明先生らも、デジタルデザイン教育には高い関心を持っておられ、こういった交流
を踏まえて今後の教育に展開されるのではないかと思います。

また、今年3月には竹中工務店とAAスクールが神戸の竹中大工道具館を拠点に「AA visiting
school
」を開催する予定です。「AA visiting school」は毎年世界各地で開催されるワーク
ショップでAAの学生に限らず、世界中から参加者を募り、その土地に関連したテーマに沿
た課題に取り組みます。今回のワークショップでテーマになっているのは「コンピュテーショ
ナルデザイン」と「伝統木造建築」であり、ワークショップ期間中に日本伝統木造建築の構造
と意匠をヒントにした木造パビリオン(塔)を設計し、実際に建てるところまで参加者と一緒に
取り組む予定です。世界中から色々な人が集まり、共に日本のことを学び、また最先端のデジ
タルデザイン技術を学べるチャンスはめったにありません。日本の学生にも参加してもらいた
いと思いますので、興味のある学生は是非申し込んでください(2月27日締め切り)。

両方のワークショップで共通していることは「最先端のデジタル技術」と「ローカルや伝統」
の融合をテーマに挙げている点です。国際的な視点で見た時に、日本は後者の「ローカルや伝
統」が色濃く残っている国という印象が強いのでしょう。また木割に代表される様に、日本の
伝統建築は非常にパラメトリクと親和性が高いとも言えます。逆に「最先端のデジタル技術」
は常に新たなアプリケーションを模索している状況で、「最先端のデジタル技術」の実験場と
して日本の「ローカルや伝統」は魅力的な領域であると言えます。我々は「ローカルや伝統」
を自分たちの国が持つ魅力として捉える為にも、「最先端のデジタル技術」を持ち合わせる必
要性が高まっていると思います。

この様なテーマに視線を向け、新たな建築やものづくりの可能性を切り開いていくことの重要
性は十分に理解されると思いますが、実はもっと大切なことがその過程の中にあると考えてい
ます。それは人と人による国際交流です。昨年、私は改めてその重要性を体験することがあり
ました。

昨年9月、広工大杉田宗ゼミの5名の学生を連れて、イギリスのラフバラー大学(LU-ARC)のサ
マースクールに参加してきました。ゼミ活動として海外に出向くのは初めて、また、私自身、
誰かを引率して海外に行くということは初めてのことでした。5人の学生中4名が初の海外、
中には入国審査が不安で、YouTubeで入国の仕方を調べる学生まで現れるありさま。ラフバ
ラー大学のMatyas Gutai先生には「広工大の学生は一般的な日本の大学生よりも英語力が低
いから、本当に連れて行っても大丈夫なのか?」と何度も確認しましたが、「必ず彼らにとっ
て良い経験になるので、是非」と短い返事が返ってくるばかり。正直何かあったらやばいなと、
出発が近づくにしたがって不安になりました。

渡英中の色々な珍道中については今後のコラムのネタとして取って置き、今回は一番大切なと
ころをかいつまんでお話させて頂きます。結論から言えば、Gutai先生がおっしゃったとおり、
私を含めた全員の参加者が非常に良い体験をしてきました。まず初めに、普通に広島で学生を
している上では体験することのない環境に身を置いたこと。これは一見どうってことない様に
見えますが、私が学生だった20年程前に比べ、海外へ旅行に行く気持ちをもった学生が少ない
現状があります。社会のグローバル化が進む一方、教育の現場では、それに逆行している雰囲
気も感じており、海外へ行くこと自体が非常に特別な体験となる時代の様にも思います。その
体験をより良いものにするため、私は学生達にそれぞれが飛行機のチケットを手配して、予定
の日にヒースロー空港まで来ることを命じました。(結果的に学生達は一緒の便で来てしまい
ましたが…)自分1人で荷物を管理し、飛行機に乗り込み、知らない国の空港で迷いながら税関
を抜ける体験というのは、なかなかの冒険です。今の大学生にとってこれだけ孤独な時間を過
ごすこと自体、少なくなっているようにも思います。その孤独な環境の中で色々な思考を巡ら
せることこそ、本当に価値のあることではないでしょうか。まだ全く国際交流までいってませ
んが、まずはもっとこういう環境に身を置いてほしいし、大人はつべこべ言わずそれを見守っ
てやってほしい。

次に同世代でありながら、違う文化や意識をもった学生と接すること。これも海外に行かない
とできない体験だと思います。海外からの留学生が、大学や研究室に居ることが増えてきてい
るとおもいますが、こういった学生は日本が好きで、日本に溶け込もうとしている、ある種特
別な学生です。イギリスに行けばよりイギリスらしい、中国に行けばより中国らしい学生に会
うことが出来、彼らと接することで、世界の広さを知ることに繋がります。1度世界の広さを
知ってしまえば、自分が居る日本や広島が、どれだけ限られた世界なのかに気付くのではない
かと思います。そういう意識の転換が、日ごろの悩みや心配事をちっぽけなこととして受け入
れるようになれれば、もっと自分に余裕を持つことに繋がるのではないでしょうか。同様に、
英語で話すことも非常に重要な挑戦になったと思っています。ワークショップ最後の発表の際
に、心臓をバクバクさせながらも一言二言英語で発言した学生にとって、今後日本語での発表
なんてお手の物、のはず。すこし背伸びした、特別な体験を通して、自分の気持ちのゆとりを
獲得できるなら、こういった体験は今後必ず生きてくると思います。

こんな挑戦だらけのワークショップによくも丸腰の学生を連れて行ったな、と思われるかもし
れません。すでのTwitterで「広工大杉田宗ゼミパワハラ国際WS」なんて書かれているかも…。
しかし、彼らには彼らなりに特別な能力を持ってこのワークショップに参加していたのです。
参加した5名のうち4名は第1回目のコラムでも紹介した、広工大デジタルデザイン系の全授業
をパスし、半年間杉田宗ゼミでパビリオンプロジェクトに取り組んでいた学生で、残りの1人
も杉田宗ゼミのGHマスターとよばれる4年生でした。ラフバラー大学の学生は1年生であった
こと、また日本の他大学から参加していた学生はデジタル系の技術が限られていたため、広工
大の学生はアイデアをモデリングし、プログラミングを通して、デザインをブラッシュアップ
していく過程を、逆に他の学生に披露する立場にあったのです。これもなかなか良い体験だっ
たのではないかと思っています。英語に不安を抱えながら海外に行っているだけで、劣等感し
か感じない状況になりえますが、グループメンバーのスケッチを基に3Dモデルを作ったり、
コンポーネントを繋げてGHモデルを構築していくことで、言葉の壁を越えたつながりがすぐ
に生まれた様に思います。日ごろ頑張って勉強していることが、こういった形で必要とされる
体験は、学生のうちにできるだけ多くしておくべきです。

私の目から見て、このワークショップに参加した5人には何かしら意識の変化が生まれていま
す。もっと積極的に外に出ていろいろなことを見ようとしている者、色々なソフトを勉強して
デジタルデザインの力を引き上げようとする者など、その影響に大小はありますが、良い方向
に進んでいることは確か。また、そういった意識は蔓延するものなのか、今回ワークショップ
には参加できなかった他のゼミ生にも波及している様に感じます。学生が国際ワークショップ
を通して得るものは大きく、そういう意味で即効性の高い教育だと身をもって学びました。

グローバル教育が叫ばれる中、こういったワークショップの重要性は理解されてきていると思
います。また、同じようなワークショップが各大学で展開され、今回のような体験をするチャ
ンスも増えてきているのではないでしょうか。あとは学生がどの様なモチベーションで最初の
一歩を踏み出すか。大学で学ぶこと自体には、大きな差はなくなりつつある今、こういった体
験から得るものが大きな差として表れてくる時代になっているのではないかと思います。

その際、少しでも自信になるようなものを持っていってほしい。たぶん、その自信は何倍にも
大きくなって帰国してくることになるよ。

    九州大学Environmental Design Global Hubとニューサウスウェールズ大学による
    シンポジウムの様子。両大学の教員以外に、日本からは京大の小見山陽介先生や、
    VUILDの秋吉浩気さんらが参加していた。

    九州大学Environmental Design Global Hubとニューサウスウェールズ大学による
    シンポジウムの様子。両大学の教員以外に、日本からは京大の小見山陽介先生や、
    VUILDの秋吉浩気さんらが参加していた。


 今年3月に開催されるAA visiting school。筆者はチューターとして参加予定。

 今年3月に開催されるAA visiting school。筆者はチューターとして参加予定。


 昨年9月にイギリスのラフバラー大学で行われたワークショップの様子。異なる大学からの学生
 がチームを作り、1週間の課題に取り組んだ。

 昨年9月にイギリスのラフバラー大学で行われたワークショップの様子。異なる大学からの学生
 がチームを作り、1週間の課題に取り組んだ。