Magazine(マガジン)

コラム

モノとサービス ~XaaSふたたび

2019.03.12

パラメトリック・ボイス           NTTファシリティーズ 松岡辰郎

クラウドコンピューティングという言葉が一般的になってきた2006年頃、それまで
ASP (Application Service Provider) と呼ばれていたソフトウアをクラウドから提供するサー
ビス形態はSaaS (Software as a Service) と呼ばれるようになった。
SaaSが注目されたのは文字通りサービスとしてソフトウアを利用できることであり大規模
なシステムを構築する場合であってもオンプレミスのようにハードウェアの初期構築に大きな
コストをかけず、減価償却対象となる固定資産を持たずに済むことだと言われる。最初から大
規模なシステムを構築せず、ユーザ数やデータ量の拡大に合わせてスケールアウトしたり運用
を容易に中止したりできることも、SaaSのメリットとされた。
更にネットワークやクラウド技術の進化とともに、ソフトウェアに留まらず開発環境を含めた
システムプラトフームをサービスとして提供するPaaS (Platform as a Service) や、シス
テムの基盤全体を提供するIaaS (Infrastructure as a Service) といったサービス形態が次々
と生まれていった。
SaaS、PaaS、IaaS……と、様々なサービスはその頭文字をつけた名称で呼ばれたが、やがて
まとめてEverything as a serviceやXaaSと呼ばれるようになた。Xは様な頭文字が当ては
まる変数というわけだ。XaaSはクラウドコンピューティングとネットワークの技術によって
利用する情報システム機能の総称であると捉えられ、いつしかクラウドサービスという言葉に
置き換わっていった。今では当たり前のようにクラウドサービスの利便性を、誰もが享受でき
ていることはすでにご存知のとおりである。
 
現在XaaSは情報システムの中だけにとどまらず、社会基盤と結びついたサービスとしても注
目、認知されるようになっている。
最もよく知られているのはMaaS (Mobility as a Service) だろう。サービスとしての移動とい
うのはなかなか捉えどころがないが移動の利便性を高めるため手段である様な乗り物の利
用方法をシームレス化するものだと理解すれば良いらしい。自動車や自転車といた従来は所
有しているモノを使用したパーソナルな移動手段を電車やバスと同様にライドシア化するこ
とで状況に応じた最適な方法での移動を可能とする。最近ではシアリングカーやシアサ
イクルを町中で普通に見かけるようになった。
MaaSに限ったことではないが、社会基盤の機能がサービス化されていくと、これまでのモノ
を所有することに対する価値観自体が変わっていくことになるだろう。
もう一つの社会基盤サービスとして、PPaaS (Power Plant as a Service) が思い浮かぶ。
VPP (Virtual Power Plant) によるサービスとしての電力エネルギー供給はこれまでの大規
模集中電源のみに依存するエネルギー供給システムのリスクや太陽光発電や風力発電とい
たクリーンであても需給制御の難しいエネルギー供給システムの短所を補うものとして
目されるものだろう。非常電源用の小型発電機や蓄電池は思いの外多く散在する。今ではだい
ぶ普及してきた感のあるEV(電気自動車)も搭載しているバテリーを電源として利用するこ
とができる。
モビリティやエネルギーと言った社会基盤の機能をサービス化する上で重要なのは、散在する
需要家側のサービスリソースを束ね、需給バランスを適正にコントロールするアグリゲーター
の存在と、適正なデマンドレスポンス (DR) を実現するセンシングや需要予測技術ということ
になる。すべてのサービスリソースを厳密に統制することがあるべき姿かどうかはわからない
が、サービス受給者が利便性を享受するための最適化を担うプレイヤーと技術は必要である。
 
建築に関連するサービスも変化し進化している。最近のシェアオフィスは単なるワークプレイ
スの提供にとどまらず、異業種間交流や協業、新たなビジネスを創出する場ともなっている。
情報通信とコミニケーシンのサービスリソースを加えたWaaS (Workplace as a Service)
とでも呼ぶべき概念が姿を見せ始めていると言えるだろう。
社会基盤としての都市についても、サービスリソースとしての様々な建物設備やセンサー群を
どのように束ねて制御し、サービスを創出していくかがスマートシティを実現する上で重要な
道筋となる。
建築や都市のサービスを考える時、サービスリソースとしての人をどのように捉えるかという
ことにも興味がある。災害やなんらかの問題が発生した時、自然発生的に人々が助け合い問題
を解決した事例は枚挙に暇がない。建築や都市においてサービスを考える時、人はサービス受
給者であると同時にサービスリソースの一つであると捉える必要があるのではないだろうか。
 
今後現実的な存在としてのモノがなくなることはないだろうが、サービスのあり方の変化とと
もにモノのあり方や位置づけは変わっていくだろう。建築や都市をつくり供給する際にも、
サービスをより意識した提供の方法を考えていく必要がありそうである。
ひところよりは使用頻度が下がているXaaSというキーワードが現実社会での社会基盤サー
ビスの議論とともに、ふたたび姿を見せるようになるかもしれない。
 
ところで、今後XaaSのXにはどのような文字が当てはまっていくのだろう。
XaaSというキーワードを見かけるようになった2007年頃にはICT用語が色々と挙げられ、す
べてのアルフトが使えると言われた。建築や社会基盤の領域でもArchitectureAssetBuilding、City、Construction、Design、Energy、Facility……、といろいろな文字が当ては
まりそうだ。サービスの内容からではなく「サービスとしての○○」という語句のイメージか
ら新たなサービスの姿を想像してみても面白いかもしれない。
ご存知の方も多いと思うがこの話はアルフトの最後の文字ZがZangyoだというところ
で終わる。Zangyo as a Service、サービスとしての残業、つまりサービス残業というわけで
ある。そもそもZangyoという単語が海外でも通じることを含め、オチとしては素直に笑えな
い話だと当時も思ったものだ。しかし近年過重労働やサービス残業に対する意識も変わ
いる。いずれはZaaS (Zangyo as a Service) がワークシェアリングやRPAによって「残業を
代わりにやってくれるサービス」として認知され普及すると信じたい。