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コラム

より広いデジタルデザイン教育のフィールドへ

2019.03.14

パラメトリック・ボイス               広島工業大学 杉田 宗

大学は卒業設計・卒業研究の発表が終わり、今年度も残るは卒業式のみとなりました。学生達
は卒業旅行や就職活動など、学業からは離れてそれぞれが自分の将来を見据える重要な時期で
すが、教員にとっても今年度の振り返りと来年度の計画に充てる貴重な時間です。
 
1本目のコラムで「今こそ日本に合たデジタルデザイン教育を」と題して私が広島工業大学
で担当するデジタルデザイン系授業のお話をさせて頂きましたが、今回は我々が進めている形
とは別のデジタルデザイン教育について考察してみたいと思います。
 
広工大では1年後期から2年後期にかけて3つの授業により構成されたデジタル系授業がありま
すが、色々な大学の状況を見ていくと、広工大が非常に充実した環境であることが見えてきた
と当時に、今の日本の大学において、新しい授業を作ることの難しさも分かってきました。全
体としてのコマ数は決まっており、一級建築士試験の指定科目などを含め、外すことのできな
い授業が多い中、新しい授業を増やすことは学科にとって大きな決断になります。客観的に見
れば、こういう状況で時代に合った教育ができるのか心配になってきますが、大学に限らず、
似たような話は日本中にあるのでしょう。本来であれば、定期的に行われるカリキュラム編成
時に、全体に対する1割の授業を強制的に新たな内容に変えるなどの仕組みが必要かと思って
います。

しかし、そんな理想的な循環型社会になることを待っていては、私の中のデジタルデザイン教
育熱は燃え尽きてしまいます。今必要なのは、既存の枠組みには収まらない仕組みを考えるこ
となのかもしれません。

正直な事を話すと、私が建築を学んだペンシルバニア大学の修士課程では、広工大のデジタル
デザイン系授業のような科目はありませんでした。ソフトやプログラミングを学ぶ機会として、
学期のはじめに短期集中型のワークショップが行われ、そこでRhinoscriptやProcessingの基
礎を学んだ上で、残りの授業はそのツールを使って課題に取り組んでいく形が一般的でした。
広工大のデジタルデザイン系授業でも課題を通してコンピュテーショナルな思考を養うことを
重要視している点においては同様ですが、授業の進め方としてはソフトを教える事と課題が平
行して進む点において異なります。
 
ソフトやプログラミングを学ぶ方法としては、基礎部分を集中的にやる方が効果は上がるので
はないかと思っています。そして今後、日本各地でデジタルデザイン教育が進められていく際
には、こういった短期集中型のワークショップが主流になるのが良いとも考えています。ここ
では、学生への指導と合わせ、学科の若手教員(3DCADやBIMを勉強して授業を担当してくれ
と言われてる先生方)、またはその地域にいる建築家やデザイナーが学ぶ場になることが重要
だと思います。ついでに、夜はデジタルデザインに興味のある人たちを集めてシンポジウムな
んかやっちゃっても良いかもしれません。こういうワークショップやシンポジウムに関わる教
員や社会人が、継続的にその地域のデジタルデザイン教育に携わっていくコアメンバーとなっ
ていくのが理想です。
 
デジタルデザインを教える人材の少なさは問題ですが、こういう短期のワークショップの講師
なら少し遠出してもいいという人は各地方に数人ずついる様に思います。少なくとも私は
中四国を担当します。おいしいものと美人が多いところなら、九州や関西くらいまでなら行き
そうです。また地方ごとに色が出ることも良いことだと思います。「中国地方はBIM系に強い
けど、中部地方は構造系」なんてことになっちゃっても良いと思う。
 
課題はこういったワークショップを誰が主催するのか?ということです。本来なら大学が大学
の施設を使って行うのがベストでしょう。その先に計画しているデジタルデザイン系授業の足
掛かりとして行い、学生の作品を実績として残しながら、非常勤講師の適任を見つける機会に
もなる可能性があります。しかし、そううまく行かないのが今の日本。たぶんそういう大学は
少ないと思います。まだ、専門学校の方がポジティブに考えてくれるところが多いのではない
でしょうか。
 
地元の企業がバックアップして、地域の教育としてワークショップを開催することも考えられ
ます。そこにくる意識の高い学生をインターンとして向かい入れる方が、企業の意識に沿った
学生を集めることにも繋がるのではないでしょうか。すこしハードルは高いかもしれませんが、
行政が主導するパターンもあるでしょう。広島県イノベーション推進チームの様な活動も増え
てきています。ワークショップを通して、学生と社会人が集まって学べる場を作ることは地域
の財産になります。
 
この様に、デジタルデザイン教育は大学の枠に留まらず、より広いフィールドで拡がっていく
ことに重要性を感じております。こういったワークショップはすぐにでも始められると思いま
すし、今やらないと後がない。しかし、その趣旨は慎重に考えられるべきです。私が外せない
と思っていることは、
①学生、教員、社会人が必ず含まれること
②最低でも半日間は課題に取り組むこと
③プロトタイプや模型など、形のあるものをアウトプットすること
で、単なるソフトの講習会にならない工夫が、その地域におけるデジタルデザイン教育の継続
性に繋がるのではないかと考えています。
 
こういったデジタルデザイン教育の動きに賛同してくれる大学や企業、行政の方からのご連絡
お待ちしております。また、「俺に北陸地方はまかせとけ」と言ってくれる様な講師の方との
つながりも作っていきたいと思っております。将来的には共通のプラットフォームを作りなが
ら、各地方の色が出るワークショップが展開できればと思っております。
 
いつか関係者一同が広島に集まり、日本のデジタルデザイン教育について語り合う場など作っ
てみたい。そんな日が来れば私の役割も終わると思うので、ゆっくり卒業旅行にでも出ようと
思います。

 「ヒロシマBIMゼミ」の前身となる「Source Organization Netowork Workshop」の様子。
 杉田三郎建築設計事務所で2014年から1年半、毎回異なるソフトをピックアップして開催した
 デジタルデザイン系勉強会。ここでの参加者が現在の広工大のデジタルデザイン系授業の非常
 勤講師を務めている。

 「ヒロシマBIMゼミ」の前身となる「Source Organization Netowork Workshop」の様子。
 杉田三郎建築設計事務所で2014年から1年半、毎回異なるソフトをピックアップして開催した
 デジタルデザイン系勉強会。ここでの参加者が現在の広工大のデジタルデザイン系授業の非常
 勤講師を務めている。