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コラム

恩師の箴言

2019.03.19

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

私事だが、この4月から一人娘が社会人になる。親としても義務を果たすことができ、よろこ
んでいる。同時に自らが社会人として歩み始めた頃に思いを馳せると、恩師である笹田剛史先
生の箴言が蘇ってくる。出来の悪い学生だったので、よく怒られた。仕事をする上で心して
おかないといけないことを諭していただいていた訳だ。自身への戒めとして紹介したい。

1.「出来ない理由を探すな、実現する方法を考えろ」
プロジェクトを進める中で新しい要求があったのだが、いくつか理由を挙げてその要求には応
えることが出来ないことを説明しようとした。即座に「出来ない理由はいくつでも考えられる。
出来ない理由を考える時間があれば、どうすれば出来るかを考えろ」と言われた。出来るか出
来ないかではなく、何が出来るか、要求の本質は何かを考え、事態を前に進めることが大切だ
ということ、そして常に前に進めるという心構えが必要であることを教えられた。
 
2.「“時間がない”は理由にならない」
出来ない言い訳として「時間がありません」と言ったときのことである。時間は誰にも平等に
ある。“時間がない”ということは他にしなければならない大事なことがあるので「“あなた”
の言っていることをする“時間がない”という意味だ」と注意された。“時間がない”とは優先順
位が低いことを違った言葉で言っているだけで、場合によっては要求を出した人の優先順位も
低いと受け取られることもあるということだ。それ以降、安易に「時間がない」とは言わない
ようにしている。
 
3.「仕事仲間と遊んでも面白くないが、遊び仲間と仕事するのは面白い」
世の中には自分の知らないこと、知らない人であふれている。自分の居心地のいい場に安住す
るのではなく、面白そうだと思ったところに出かけ、見識や人の輪を広げた方が楽しいという
ことである。仕事仲間と遊んでも楽しければいいが、遊び仲間として付き合ってきた人と仕事
をすることになった時の楽しさは格別のものがあるということを伝えたかったのだと思う。声
をかけられればのこのこと出かけていくのは、先生のこの言葉が影響しているのかもしれない。
 
4.「本を1冊書くには100冊の本を読まないといけない」
最近の学生は本を読まなくなったと嘆かれている時の言葉である。この後に「100冊の本を読
めば、10,000冊のエッセンスを得ることが出来る」と続いた。頭では本を読むことは大切だ
と分かっていたが、このように言われると本を読まないと損をするという気になった。以降、
本をよく読むようになったかというと、そうではないのが情けないところだが、本を読むとき
の心構えが変わったのは確かだ。
 
5.学びて思わざれば則ち罔し、思いて学ばざれば則ち殆し
ご存知、論語の一節である。これは学生時代ではなく、退官間際の講演の中での言葉である。
学生に対しては、勉強するだけでは十分ではなく、自分の頭で考えて身につけなくてはならな
いという思いをこめて、社会人に対しては、常に新しい知識を得るよう努めないといけないと
いう警句としてのお話だった。学ぶこと・考えることをやめたとたん、成長は止まってしまう。
それを実践してきた本人から言われると、言葉の重みが全く違った。

 母校の外観:学生時代を過ごした。すでに解体され、今はもうない。寂しい限りだ

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 母校の内観:3年間を過ごした研究室。ここで先生に諭され続けていた

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