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コラム

コンヴィヴィアリティと未来の道具

2019.04.09

パラメトリック・ボイス           アンズスタジオ 竹中司/岡部文

岡部  コンヴィヴィアリティのための道具(Tool for Conviviality)1という、興味深い本
    がある。思想家イヴァン・イリイチが、未来の道具(制度や社会的システムを含む広
    義の意味での道具)のあり方を示唆した50年近く前の一冊だ。

竹中  コンヴィヴィアリティ ―― 面白い言葉だね。

岡部  イリイチは、コンヴィヴィアリティな道具とは「それを用いる各人に、おのれの想像
    力の結果として環境をゆたかなものにする最大の機会を与える道具のことである」と
    定義する。
 
竹中  さらに興味深いのは、彼が道具の種類を二つに分けて考えている点だね。
    「コンヴィヴィアリティな道具」と、「操作的な道具」の存在を区別している。産業
    主義的な道具は後者であり、本来は前者を目指すべきだと言うのだ。
 
岡部  道具の奴隷あるいは主人にもならず、人の自由の範囲を拡大するような、そういう道
    具を開発しない限りは、人間に進化はないのではないか。人のかわりに働いてくれる
    道具ではなく自分とともに働く道具のあり方こそが本来あるべき姿なのではないか、
    と彼は我々がまさに今直面している未来を見据えていたかのような疑問を投げかけて
    いる。
 
竹中  人は進化することで道具を生み出し、人は道具を生み出すことで進化してきた。道具
    は、われわれ人間社会の本質だと言える。そんな道具に対する彼の鋭い視点は、わた
    したちが考えているロボット開発への思想と重なる部分が大きい。
 
岡部  そうだね。コンヴィヴィアリティを日本語に訳すことはなかなか難しいけれど、マリ
    オ・カルポ氏の「デジタルエイジにおけるルネッサンス」という表現の真髄にも、共
    通的感覚がある。人らしい、豊かな創造性をイメージできる。
 
竹中  私たちがアンズスタジオを設立してから今年の秋で10年になる。
    設立当初から思い描いているのは、デジタル時代における豊かさと、それらを生み出
    すことを許容する道具を作ること、そして道具への問いかけを続けることだ。
 
岡部  人に代わって何でもやってくれる道具が創り出すユートピア的な未来像ではなく、人
    が人らしく生き抜くための多様性を生み出す、ある種の原始的な世界を目指している。
 
竹中  道具をつくり使い、そして使いこなすことではじめて道具への熱い問いかけが生
    まれる。とことん向き合う対話がはじまるのだ。その、人としての自然な、リアルな、
    嘘偽りのない美しい行為こそが ―― 彼が言うコンヴィヴィアリティそのものなのだ。
 
1    ILLICH, I. D. (1973).. New York, Harper and Row.