Magazine(マガジン)

コラム

ブロックチェーンはどこまで革命的か

2019.05.09

ArchiFuture's Eye                慶應義塾大学 池田靖史

原稿が遅れてしまい平成最後の連休前に仕上げられなかったので、本コラムが掲載される頃に
はもうすっかり気分も令和になっていることだろう。私の年齢だと平成の始まりが、ほぼ社会
に出て働き始めた年と同じなので、始めから終わりまで現役として体験した実感がある。だか
らこの機会に30年間で一体何が変わったのかと思いを馳せているのだが、皆さんはどうお感
じだろうか。いろいろなことが変わって来た中で一時的な流行もあるだろうし、自然災害のよ
うな予想外の要素や、時代にかかわらず意外に変わっていないものだってある。その中で私た
ち個々の暮らしと社会の両方に30年前の予想を超え一番深く根本的な変化をもたらしたのは
なんだろうか?スマホに代表されるモバイルデバイスを思う人も多いだろうが、私はインター
ネットという世界的なコンピューターネットワークの成長だと思う。その頃多くのコンピュー
ター技術の基礎は存在していて当時のパソコンと現在との主な違いはその計算速度の圧倒的な
差異に基づく改善に過ぎないとも言えるし、その将来の働きについて予想と期待がそれなりに
されていた。それに対して通信技術の一種として、それまでにもあったFAXやテレタイプの高
品質化すぎないように過小評価されていたとも思えるインターネットは年を追い拡大と成長に
応じて新たな可能性が見出され、加速度的な投資や参加、新たな技術開発が雪だるまのように
膨れ上がり、誰もの想像を超えて我々の社会を変えたように思えるからだ。モバイルデバイス
の存在は大きいが、それもインターネットを通じた社会的ネットワークデータサービスの表面
的な様態ではないかと思う。スマホのバッテリーが無くなって使えなくなるのも個人的には辛
いが、今、インターネットが全く機能しなければ、物流も送電も交通機関も金融取引も、娯楽
や医療のような活動さえも停止してしまうほど根幹的な存在である。街や家の表面的な姿は変
わっていないように見えてもその主人であり、利用者である我々自身の意識の変化によって
「仕事」「学び」「子育て」さらに「結婚」や「恋愛」と言った社会的活動におけるその意味
は変質させられているように思う。ほとんど全ての社会において避けられない大きな方向であ
る地球環境問題的な視点もインターネットが強力に加速したと考えて間違い無い。幸いイン
ターネットの持つ分散的システムの特徴である冗長性のおかげで、その仕組みは非常に頑強で
全体がダウンすることは全くと言っていいほど無く、結果的に我々はますますその存在を意識
することがなくなってきている。現在建築関連で起きている様々な技術革新についても、BIM
の活用であろうが、ロボテクスの利用であろうが、AIであろうがインターネットを通じた高
速なデータ転送から切り離されてその本領を発揮できるものはほとんどない。

そのインターネットの起こした革命的な変化を、さらに大きな段階に進めるのがブロック
チェーンであることが、MITメディアラボのそこここでささやかれていると昨年留学中にも感
じていたのだが、ビットコインのための技術として、いわゆるフィンテック(財務情報工学)
的な世界の話だと思い、最初は建築のようなものづくり的世界にはそれほどの影響を感じてい
なかった。しかしその後、関連する講義を聞く機会や議論の機会が増えるにつれ、インター
ネットに続くその社会的な影響の可能性に改めて目を見開かれた。ブロックチェーンは計算論
的には暗号化技術の一種で、誰にも改竄不可能なデータベースを分散的なネットワーク上に構
築できる。ビットコインはこの技術によって、絶対に消えないデータとして存在でき、さらに
その取引履歴も記録され確実に保証されることで貨幣と同じように使える機能として発明され
たものである。ビットコインについてはその投機的な期待や不法な取引への悪用の可能性のよ
うな側面が主に報道されたように思うが、技術の本質からいえばその正反対で、考えられる限
り最も透明性が高く、悪質な意図や、詐欺的な要素の入り込みにくい安定した取引を実現でき
るものである。そしてブロックチェーンそのものはビットコインよりもっと根源的かつ普遍的
な社会的な価値、すなわち「経済行為における集団合意形成的な信用構築(とその電子的流動
性)」という人類史的な変革レベルの発明をしてしまったようだ。なぜなら功罪に意見はあっ
ても、主に貨幣を表象形式にする経済的な取引が現在の人間社会の最も根源的なメカニズムと
して働いていることは誰も否定できないが、ブロックチェーンは単純にその形式を置き換える
だけでなく、それ以上の働きができる人間同士の信用と価値の流通方法だからである。

我々は通常お金を一定のサービスや物品を購入できる価値のあるものとして蓄えたり送ったり
できるものとして使っている。しかし多くの場合は単なる紙や通帳残高記録のようなものに過
ぎず、物理的な実体のないその価値の保証は主に国家と銀行を中心とした金融システムを信頼
することで成り立っている。もっと広く考えるとそれは為替などの複雑な仕組みを通じて国際
的取引関係の中で維持されているとも言えるし、相互の信頼性に依存しているゆえに、その不
完全さから不調に陥る恐れを抱えていて、多くの犯罪や投機的な経済問題はこの「信用」を操
作することで成立する。ブロックチェーンは非常に多数のコンピューターに分散して記録を作
るシステムを構築することで、衆人監視に置かれているのとの同じ方法で取引の信頼性をこれ
までより圧倒的に引き上げる。例えば国際送金や初めての相手との取引などに伴うリスクは画
期的に小さくなり、早くもなるから、クレジットカードも銀行口座も持ってなくても、見たこ
とも聞いたこともないような相手にサービスの提供を安心して頼めることになる。本当はこれ
だけでも他の貨幣が駆逐されて、既存の金融機関の役割が置きかわってしまってもおかしくな
いくらい革新的な機能だ。貨幣経済のようにあまりにも浸透している社会的な慣習は急激に変
わりにくいという側面のせいで、現在はまだその端緒かもしれないが、ブロックチェーンが作
り出した新たな「信用」創出技術の破壊力は、その電子的流動性との組み合わせによって、通
信の手段というレベルとは別次元の威力に成長したインターネットと同じように想像を超えた
社会的な影響力が生まれるのではないかと予想できる。

具体的には、実質的な記録(信用構築)コストが従来の方法よりもずっと小さく高速だから、
一回の経済的取引を極小に分解して高速に大量に流通させ交換することができる。つまり
0.01円の取引を100万回するような経済行為が意味を持てきて、これまで価値の交換対象
にならないと思っていたこと(例えば順番待ちを譲った経歴を貯めて、いざ急いでいるときに
優先して割り込める権利に交換できるとか)が新しい社会の仕組みとして活用できる。情報の
薄利多売は書籍や音楽著作権のモデルに近いようにも見えるが、印刷機も書店もなくても誰で
も安価に自由に構築できる点が決定的に異なる。すなわち取引の情報信頼性を確保するための
中央集権的な組織なしに、広く浅く価値を交換し集約できる活動が可能になる。さらに既に株
取引で一般化しているように、そうした取引自体をアルゴリズム化して自動的に行われるよう
にすることで、思ってもみなかった新しいサービスや協調的活動の形式が社会の中で可能にな
るはずだ。誰かが欲しいと思うものは、それが握手する権利であろうが、眺めのいい席に座る
権利であろうがサービスとして社会的に取引できるが、その順番や位置などを、それぞれの利
用者の欲求程度や嗜好に従ってダイナミックに入れ替えて、満足を最適化することが圧倒的に
簡単になる。航空券の値段などは既に販売時期などによって細かく操作し始められているが、
例えばもっと細かく一つ一つの座席が全て違うものとして、航空会社に頼らずに各自の条件設
定を元に直接他の乗客と自動的に取引するようなことが考えられる。建築の社会的価値も特定
の空間的な状態を一定時間占有あるいは共有できる、ある種のサービス提供だと考えれば、
その内容を細かく分解し、(複雑すぎて自分でやるのは無理なので)人工知能を用いて周辺の
人間と高速に取引させて利用するモデルが建築とそのユーザーの関係を一変させることもあり
うることになる。

もちろんお金だけが人間社会の価値ではない。むしろお金は社会における人間的信頼関係の間
接的な交換方法の代表例にすぎない。だから人間同士の信頼を基礎にした全ての社会的行為が
ブロックチェーン技術の対象になりうる。つまり「投票」とか「免許」とか「学歴」のように
情報の信頼性を必要としてきた社会的システムは、すべてブロックチェーンにより、これまで
の中央集権的な信頼性保証から解放できる。書類化して印鑑を押し、本人確認して法律的な正
当性を確保し裁判所や警察の力を借りて履行の確実性を担保するモデルに頼らなくても、結
果的に社会生活に十分な信頼性が得られればいいからだ。UberやAirbnbのような情報サービ
スが成立できた背景には、情報自体の流通処理能力と同時にその信頼性について、乗客とドラ
イバー両方のユーザー間の相互監視システム、レーティング評価によってある程度確保できた
からではあるが残念ながらその部分においては完全とはいえず不正な操作が入り込む余地や
評価の情報量や普遍性についての不満や不安要素が残っている。ブロックチェーンはより分散
的な方法で似たようなシステムを作ることで、信頼性の向上だけでなく事前の期待との補償的
な取引を双方向に自動化することなども可能にするから、こうした「民主的」な情報(価値)
交換行為がさらに加速することになる。仮に不正ができたとしても発見と判定にかかるコスト
も手間も極小になるから、追跡と補償をシステム化することで、良くも悪くも究極の「誰も嘘
がつけない」社会経済に次第に近づくわけである。

上記のような私の見方は、少し過剰に捉えすぎていると思われたかもしれないが、ブロック
チェーンのまさしく革命的な社会的影響力について少し共感いただけただろうか?ブロック
チェーンもインターネットが前提になった技術である。だが、現時点で見るとインターネット
の本質的な価値はブロックチェーンによって別次元に開花するようにも思える。むしろ、沢山
のコンピューターがネットワーク化されることが人間社会の発展にどう影響するかについての
真の姿が改めて見えてきたからだ。私も関わる建設業の世界も契約に基づくサービスの提供を
基礎にしており、土地取引や区分所有、資格制度や品質保証に至るまで既存の中央集権的信用
保証システムによる経済的価値交換の上で行われている。これまでに述べてきたように、相互
の信頼を築くことで社会や集団における「価値」を合意形成するための (中央集権化されない)
民主的な仕組みがブロックチェーンだとすれば、それはまちづくりや都市計画の根本的な目的
と完全に重なる。まちの姿への影響を単純に述べることは難しいが、これまで一般に経済的な
側面と捉えられてきたその活動の仕組みへの影響は計り知れないことも確かである。どのぐら
い時間がかかるのかはわからないが、少なくともインターネットが30年間で果たしたのと同
じくらいの変化は令和の時代に起きるだろうと私は思っている。

 令和の時代の紙幣として渋沢栄一と東京駅の図柄が発表された新一万円札は、偽造防止対策の
 ために最新の新札技術を用いて5年後の2024年使用開始を目指しているが、それまでに「お金」
 をめぐる現代社会の状況はどのようになっているだろうか(画像は財務省HPから転載)。

 令和の時代の紙幣として渋沢栄一と東京駅の図柄が発表された新一万円札は、偽造防止対策の
 ために最新の新札技術を用いて5年後の2024年使用開始を目指しているが、それまでに「お金」
 をめぐる現代社会の状況はどのようになっているだろうか(画像は財務省HPから転載)。