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コラム

オープンソースで開発される教育は可能か?

2019.05.14

パラメトリック・ボイス               広島工業大学 杉田 宗

新しい令和の時代が始まりました。日本では、政権交代や新しい大統領が生まれる様な政治的
な節目となる変化が少ない分、改元は大きな変化として感じられます。平成のシンボルが「イ
ンターネット」であった様に、令和の時代では「AI」が我々の生活に様々な変化をもたらすの
ではと言われています。私自身「AI」の専門家ではありませんが、建築の業界においては近い
領域に身を置いている立場として、今後のさらなる研究に興味が高まります。

これまで5回にわたり、建築教育におけるデジタルデザイン教育に関する私なりの考えを書か
せて頂きましたが、今回は一歩踏み込み、今後のデジタルデザイン教育の発展を意識した私の
取り組みについて紹介させて頂きます。

結論から先に先に申し上げると、今年度より広島工業大学環境学部建築デザイン学科で開講し
ているデジタルデザイン系授業の内容をオープンソース化し、今後他大学などで行われる授業
の組立て等に自由に利用できる様に公開致しました。これまでにも「授業スライド」は
Hiroshima Design LabのHPで公開しておりましたが、「授業スライド」に加え、3つの科目
「授業概要」、「授業スケジュール」、「課題文」をすべて公開致します。

こういった考えに行きついた経緯について、少し説明させて頂きます。

私は2016年より広工大でデジタルデザイン教育を担当してきました。その内容は1本目のコラ
ムである「今こそ日本に合ったデジタルデザイン教育を」にて詳しく紹介させて頂いた様に、
1年後期から2年後期を対象にした、『コンピュテーショナルデザイン』『デジタルファブリ
ケーション』『BIM実習』という、連続する3つの科目によって構成されています。コマ数と
しても非常に充実した構成で、他大学からも羨ましがられるような環境ですが、今の日本の建
築教育においては、このくらいのデジタルデザイン教育をやらないと、今後建築業界で最低限
必要になるデジタル技術に触れないまま社会に出ることが、今後も続いていくことになること
を心配しています。

一方で、前回のコラムでも述べた様に、今の日本の大学では新しい授業を作りにくい状況もあ
ります。その打開策として「ワークショップ」という形式でデジタルデザイン教育の土壌を
作っていく方法も模索しておりますが、やはり大学としては時代の変化に向き合い、新しい時
代の建築教育を築いていく必要があると考えています。しかし、こういった授業を始めるにし
ても、どこから手を付けてよいのか分からない大学も多くあるはず。よくあるのは、若手の教
員が「君、若いんだからソフト勉強して授業担当しろよ」と言われるパターン。これ、誰も
ハッピーにならない。実際授業が始まっても、教科書に沿ってソフトを習得するだけで、しま
いには学内の不毛な「アナログvsデジタル論争」の標的になり、なんで始めたのかさえ分から
なくなる。

やはりデジタルデザイン教育を通して、何を教えていくのか?ということが重要で、それが単
にソフトの習得である限り、今の建築教育には大きな変化が生まれないと思っています。広工
大デジタルデザイン教育の場合は、コンピュテーショナルな思考を持ちあわせた人材を育てな
がら、彼らがどの様に建築を考えるのかに焦点を当てています。つまり、これからの建築を考
える上でデジタルデザイン教育は不可欠というスタンスです。

これは私が留学、また海外の設計事務所で勤務した経験を通して強く感じてきたことでした。
私がプログラミングやGHに触れ始めた2006年頃は、米国でもまだこういった事を教える大学
は少なく、勉強したくても何からすれば良いのか分からない状態でした。そんな中、私のペン
シルバニア大学院時代の担当教員であったローランド・スヌークのkokkugiaコロンビア大
学でスタジオを教えていた長谷川徹先生のProxyのHPには彼らのスタジオに関連したwikiペー
ジが開設され、そこにチュートリアルからサンプルコードまで沢山の情報があり、当時われわ
れ学生だけでなく、世界中の人がそれを参考にしながらアルゴリズミックデザインの手法を勉
強していました(現在、両HPのwikiは閉鎖している)。

現在は、堀川淳一郎さんのParametric Design with Grasshopperの動画(クリックすると
YouTubeへリンクします)
高木秀太先生たちによるRhino-GH.comなど、ソフトを学ぶ上
で参考となる日本語の情報がネット上に充実してきました。広工大の学生にとっても、授業の
中で丁寧に教えることができない詳細については、こういったサイトを利用して各自で学ぶ文
化が出来始めています。今の学生にとてはVTuberキャラがGHやVRについて教えていくれ
るhironさんのYouTubeチャンネル(クリックするとYouTubeへリンクします)の方が、教員
が教えるよりもすんなり入ってくるのかも…。

つまりデジタルデザインを学ぶ教材は、講義でも教科書でもなく、インターネットが中心にな
りつつあります。建築系だけでなく、プログラミングの世界はみなこうやって学ぶスタイルな
のではないかと思います。様々なコードがオープンソースで拡がっていく様に、教材もオープ
ンソース化され、様々な場所で活用されることで、その内容自体が育っていく仕組みです。元
来教育にこそ、そういった側面があるはずですが、大学という枠組みが影響しているのか、教
育の内容については閉鎖的な議論が多い様に感じ、まずはこの閉鎖的な体質を壊していきたい
と思っています。

また、前述の堀川さんの映像などにたどり着いているのは、学生の中でも一部のコアな学生達
なのではないかとも思っています。日本のデジタルデザインの底上げを目指している私として
は、やはりもっと裾野を広げていくための努力が必要だと考えており、その時に重要なのは大
学や専門学校での「授業」だと信じています。建築を学び始めた学生にとって、学びの起点と
なるのは授業を通して教員から教えられることであり、その質を上げていくことで、建築教育
にはまだまだ伸びしろがあると思っています。今回公開する内容は、まさにそういった授業を
見直す立場の方々に活用してもらいたい情報です。

以前のコラムでも述べた様に、我々は「だれでも真似できる」デジタルデザイン教育を目指し
てきました。高価なソフトや高性能コンピューターが無いと始められない訳でなく、学生が多
かったとしてもちゃんと教えることができる内容を心掛けてきました。レーザーカッターなど
すこし設備はあった方が良いですが、これは思い切ってやりましょう。そういったツールを
使って学生達が輝き始めた瞬間にすべて元が取れます。広工大のデジタルデザイン教育のオー
プンソース化がきっかけとなり、将来的には各大学や専門学校で展開するデジタルデザイン教
育がネットワークで繋がり、日本全体でデジタルデザイン教育の質を向上させていくことを、
令和の目標の1つ目に掲げたいと思います。

 広工大デジタルデザイン系科目全体概要。3つの連続して履修することで、Rhino+GHからデジ
 タルファブリケーション、BIMまでを学ぶ。1つ目の科目である『Computational Design』で
 は思考錯誤の末に、グラスホッパーを先に教える内容に落ち着いた。
 ※上記の画像、キャプションをクリックするとGoogle スプレッドシートへリンクします。

 広工大デジタルデザイン系科目全体概要。3つの連続して履修することで、Rhino+GHからデジ
 タルファブリケーション、BIMまでを学ぶ。1つ目の科目である『Computational Design』で
 は思考錯誤の末に、グラスホッパーを先に教える内容に落ち着いた。
 ※上記の画像、キャプションをクリックするとGoogle スプレッドシートへリンクします。


 Googleドライブにて全3科目の「授業概要」「授業スケジュール」「課題文」を公開中。
 ※上記の画像、キャプションをクリックするとGoogle ドライブへリンクします。

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