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コラム

BIMによる設備の自動設計の可能性

2019.05.21

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正

今回からこのコラムを担当させて頂くことになった訳ですが私が専門とする設備の立場から、
特に設備の方がBIMやコンピュテーショナルデザインに関わるきっかけに、もしくはBIMに疲
弊して離脱してしまわないように、多少なりともお役に立てればと思っているところです。

私がBIMに関わり始めたのは6年ほど前になります。物件名は控えておきますが、試行もほど
ほどに大規模なプロジェクトでのぶっつけ本番でのBIM活用でした。ここで1年半、缶詰状態
でBIMに関わることができたのは貴重な体験でした。そのプロジクトでやり遂げたこともあ
りましたが、様々な課題が浮彫りになったのも事実で、基本設計でのBIM活用方法や現業に
BIMを無理なく取り込んでいくための課題など多くの教訓を得ることができました。現在は
その教訓をもとに社内のBIM普及や、社外でのBIM標準化に向けた活動に関わっているところ
です。

それ以前はと言えば、BIMやコンピュテーショナルデザインとも、そして3D-CADとも無関係
な生活でごくごく普通の設備設計者として15年ほど従事していたわけですがBIMの世界に
それほど抵抗無く入り込めたのは、それまでに表計算ソフトのエクセルを使って様々な検討
ツールや計算書などを独自に作っていたことがあるのではないかと感じています。

設備設計者にとって、図面を描いたりチェックしたりというのも業務の中心ではありますが、
これは設計終盤での業務であってそれまではエクセルなどの表計算ソフトを使って部屋の
条件整理をしたり、システム比較をしたり機器能力を選定したり機器表を作成したりして
いるわけです。

「BIMは、そのエクセルデータの延長線上として捉えると、設備を専門としている人にとって
は取っつきやすくなる」気がしています。バラバラに分散しているエクセルデータに対して、
BIMは部屋や機器を中心に建物モデルとして一元化されたデータベースという捉え方です。

設備で扱う、部屋の室諸元設定や、冷暖房負荷、換気計算、機器選定、機器表作成といった
一連の作業は建築の「部屋」に紐付いていることが多いため、部屋の名称や床面積、天井高、
用途などをひたすらエクセルに転記して整合をはかるために修正を繰り返しているのが実情
だと思います。これを直接BIMモデル上でデータ連携することで、現状の煩雑な作業はかなり
改善できるはずです。

~部屋の情報から設備機器を、BIMとビジュアルプログラミングを使って自動選定~

データが連携できさえすれば更に、設備機器の選定は部屋条件からロジカルに決まることが多
いため、部屋の室諸元を基に各室で必要とされる換気量や冷暖房負荷を導き、機器選定までを
コンピューターで自動化することも夢物語ではありません。
機器の選定には幾つかのパターンがありますが、例えば1室に複数台が設置されている場合に
は、まず室内に設置する機器の台数を決め、1 台あたりの必要能力を計算して、それに見合う
番手を選択する流れになりますが、このようなルーティンワークは、BIMで自動化することが
可能です。

ただ、いきなり無謀なAI設計を目指すとさすがに現状は難しいでしょう。まずは、小さなルー
ンワクの自動化から自動設計にも段階を踏む必要があります。勝手に自動設計のステ
プを定義してみると以下の感じになるでしょうか。今はまだStep1の段階です。

Step1:小さな複数の自動化(冷暖房負荷や換気計算を元に機械的に決まる自動番手選定等)
Step2:設計フローの自動化(原単位や室諸元を基にロジカルに決定される自動設備選定等)
Step3:AI設計(運用データも含めた事例データベースに基づく自動設備選定等)

設計の自動化が、どの程度の速度で浸透するかは予測がつきませんが、実現するのは間違いな
いと思っています。ただ自動化が実現したとしても設計者が不要になる訳ではありません。
与条件の設定や、自動選定された結果を最終判断するのは設計者です。そして、自動設計は
一度完成したら固定化されたものをただ使うだけということではなくて、今後新たに開発され
るであろう設備機器や設備システムも柔軟に取り入れていけるものであるべきで、会社ごとに、
設計者ごとに違うアルゴリズムになっても不思議ではありません。恐らく、未来の設計者は、
自動化プロセスを自分なりに修正しながら再構築できる能力も必要になるのだと思います。

そのためにも今のうちからBIMやビジアルプログラミングに慣れておくことをお勧めします。

 ビジュアルプログラミング(Dynamo)を用いた設備機器の自動選定

 ビジュアルプログラミング(Dynamo)を用いた設備機器の自動選定

吉原 和正 氏

日本設計 プロジェクト管理部 BIM室長