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コラム

BIM的世界における「仮想プロジェクトラボ」のためのコンセプトワーク(建物のデータは、無限の資源になる~BIM-FM PLATFORM ⑥)

2019.05.23

パラメトリック・ボイス         スターツコーポレーション 関戸博高

このコラムでは、継続的に経営的視点から「BIM的世界」について書いている。

「経営」の本質は、「ヒト、モノ、カネ、情報」をどう扱うかだと言われる。しかし、若い皆
さんや技術者の方たちは、企業経営をしたことがない方が大半かと思うので、本当の意味でこ
の8文字の重さを知る由もないだろう。
実際の事業として「BIM的世界」の中にいると、この世界とどう付き合っていくかは、ITの課
題であると共に、極めて「経営」的課題でもあると思う。しかし、往々にしてこの2つの課題
について、語られることの量的比率は、もっぱら前者が多く後者は極めて少ない。このコラ
ムでは後者の視点に立って、特にヒト・組織や新事業の開発について書いてきた。今回は、
「BIM的世界」においては、人が成長する道筋をつけるのも経営者の仕事だ、という話から始
めたい。

1.贈る言葉
最近社内の会議で、若い社員向けに以下の話をした。
普段はこんな話をする柄ではないが、あえて中国の故事成語を二つ使うことで、後からでも最
低限の意味が伝わるようにと気持ちを込めて話をした。実際はかえって難しく感じさせてし
まった気もするが。

<要約すると>--------------------------------------------------------------------------------
一。『燕雀(えんじゃく)安(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや』
意味/志を高く持つ者の考えは、そうでない者には理解できない。

二。『学びて思わざれば則ち罔し(くらし)、思いて学ばざれば則ち殆し(あやうし)』
意味/人から学ぶだけで、自分で考えることをしなければ身に付かない。自分で考えるだけで、
人から学ぶことをしなければ考えが偏ってしまい適切な判断が出来ない。
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ふたつともよく知られた故事だがさすがに奥が深い。文系理系(こんな区分自体がナンセン
スな時代になってしまったが)に関わらず、心に留めておいてほしい言葉だ。
若い時は、つい所属する部門の短期間の評価や業績に心が奪われてしまいがちで、意志をしっ
かり持たないと、本当の専門能力も信念も自分のものとして育たない。あっという間に時間は
過ぎてしまう。そして、40歳を過ぎると経験を自分の能力だと思い込み新しいものを求め
なくなる人を多く見てきた。経験も磨き続けなければ、環境の変化と共に役立たなくなる。
『思いて学ばざれば則ち殆し』だ。2500年前の言葉が、今も確実に生きている。

また、何か新しいことをやろうとすると、うまくいかないことが多い。だが諦めてしまったら
それまでだ。特に今は科学技術の革新が速いため3〜5年ごとに自分の専門知識をより新しい
ものに組み替えて行く必要がある。そこで獲得した知識を自分なりの「知」として身に付け、
次の革新を生み出せる力になるまで粘り続けることが大切だ。

常に勉強をし続けないと、このような情勢の変化にはついていけない。テーマを決めたら最初
は訳が分からなくとも1、2年追いかけ続ければ何かが見えて来る。そんなあなたを理解し
てくれる人は、しばらくはいないかもしれないが、是非続けてもらいたい。高い山の頂は、麓
からは見えない。その山を登る人にしか見えてこないからだ。

「こんな精神論を…」と言いたい人も多いと思うが、もう少し我慢して読んでもらいたい。
この個の努力を、前回書いた社会インフラとしての「BIM情報プラットフォーム」=BIIP
(BIM Integrated Information Platform)や「仮想プロジェクトラボ」に繋げたいからだ。

2.『コミュニティ(Community)』と『ラボラトリィ(Laboratory)』~コンセプトワー
クとして
では、ひとり黙々と自分を磨こうとする若者は、どのようにして自分を高めていけば良いか。
簡単にいうと、優れた人に出来るだけ接し、刺激を受け、一方で同じ思いの人と情報交換を重
ね、アイデアを練り上げる。あとはひたすら勉強とそのアウトプットを繰り返すこと、建築設
計を学ぼうとする人が、優れた建築家とそのプロセスを共有するように、そのような環境にい
ることができればなお良い。
しかし、多くの若者がそうすることは、なかなか難しい。その難しさは、新しい技術開発や
サービス開発をしようとしている企業が、その自前主義ゆえに直面している困難さと相似形に
思えるがどうだろうか。そうであれば、個と組織の違いはあるが、両者の直面する問題を解く
には、まず次の二点をカバーする場が必要なのではないか。

①能力を高めるための、または新規開発の課題探索のきっかけとなる場(出会い・発想・多様
な専門性)
②経験の共有と新規開発の実践の場(試行錯誤・実装体験・コーチング)

ならばひとつの企業に属さず、①と②の受け皿となるものが出来ないかと考えた。そこで分か
りやすくするために、ふたつの場に名前を付けた。『コミュニティ』と『ラボラトリィ』だ。
これらは「仮想開発プロジェクトラボ」が具体的に機能するための構成要素である。

①『コミュニティ』は、個々に緩い関係の中で情報交換しながら、新たな開発テーマを探索す
るための場。ここでは出会いと発想が中心のテーマだ。
②『ラボラトリィ』は、具体的な新規開発プロジェクトについて、共同で試行錯誤、経験を共
有しゴールにたどり着くための場。ここでは成果が問われる。

 BIM情報の利活用が活性化すれば、BIIP周辺に将来必然的に新しいサービスの芽が生み出さ
れる。それを育てるためには、多様な専門性が交差し創発できる実験場のような場が必要であ
る。その役割を『コミュニティ』と『ラボラトリィ』が果たす。参加者は当面企業からの非常
勤出向者という前提ではあるが、意欲のある若者も参加することで、得られる何かは多いに違
いない。

敢えて記しておくが、このふたつの「場」は、機能空間であって実空間ではない。
そして、「仮想開発プロジェクトラボ」から生み出された新規事業開発については、新たに
SPCを設立して資金調達をしたり、企業連携により実現を目指すことにする。


3.これから
たまたま良い例を見つけた。以下の写真は、2月にオープンしたスターツ・ロンドン支店が入
居する、WeWorkのパブリックスペースだ。この会社の事業コンセプトに「コミュニティ型
ワークスペースの提供」というのがある。私の勝手な解釈だが、実物不動産としての部屋を貸
しているわけではなく、出会いを誘発する空間とそのための諸々のサービスを提供するという
ことだと思う。

 写真はWeWork Paddington

 写真はWeWork Paddington


私が伝えたいのは、WeWorkのコンセプトではない。近い将来「仮想プロジェクトラボ」が機
能するとしたら、この写真から想起されるイメージの空間(個と個の関係性)の中で交わされ
る対話や実験によって具体化されていくであろうし、そうするべく構想を練っていきたい。

以上、今回書いたことは徐々に具体的になってきている。進捗に応じて別稿で書いていきたい。