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コラム

BIMの学びについて

2019.06.18

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

中学校に進学した我が子の勉強スタイルはAIアシスタントを内蔵したiPadを傍らに置き人工
音声のボーカロイドの動画を流しぱなしで問題を解きまくるというなんだか昔読んだSF小
説みたいな環境です。わからないことはSiriに聞けば検索してくれるし、WEBサイトでは大手
の塾や予備校講師の動画を視ることができます。私自身は学生時代単価の良い家庭教師のア
ルバイトに明け暮れて小学生から高校生までいろんな子供たちを見てましたが、現代ならば
「独学」でも高いクオリティの「学び」が得られるような気がします。

私の所属するBIMマネージメントセンターでは、毎年一定数の新人を受け入れてBIM研修を
行っています。始めた頃は3D-CADの類を学生時代に使っていた人は稀有でしたが、最近では
「BIM」という言葉そのものを初めて聞いたという人は減ったと思います。ただし話を聞いて
いくと学校で教わったというより、ほとんど独学であることが多いです。是非ともBIMソフト
の無償学生版は継続して欲しいと思います。大学教育のみならず、企業、組織、個人、さまざ
まな立場の方が「BIM」を学びたいと思うとき、複雑な状況があると感じています。私自身は
BIMに携わったのが早い方だと思いますが、企業人であればすべてをオープンにはできないも
のです。また、建築ICTに関する紙媒体のメディアは2000年代より減っておりネットで拾え
る情報も、広告媒体を除いた実利あるものは極僅かではないでしょうか。そういう意味でもArchiFuture Webは貴重な存在でしょう。

20年弱この領域に携わっていますが公式・非公式な場での企業を跨いだ担当者間での情報交
換が実は大変有意義で、黎明期特有の相互の教え合い・学び合いという状況にありました。現
時点においてもBIMに取り組んではみたものの、メリットを実感できないという企業の声をよ
く耳にします。いわゆるBIMソフトウェアの操作についてはスタートアップ時に教わるのです
が、そのあとの実利を得るまでの道筋が分からないというケースが散見されます。その解決と
しては、BIMの延長線上になにが期待できるのかを理解した上で、戦略を考える必要があると
思います。

長い前振りになってしまいましたが、今回はその一助になると思われる書籍のご紹介をしたい
と思います。私が参画する日本建築学会/建築教育委員会/教育手法・技術小委員会/BIM 設計
教育手法 WGでまとめた7月10日刊行予定の「BIMのかたち~Society 5.0へつながる建築知~」
(彰国社刊)です。経産省が「新産業構造ビジョン」で示しているように、2030年を目標に、
現実空間とリンクしたデジタル仮想空間(サイバー空間)が社会インフラとして構築される方
向で整備がはじまり「超スマート社会(Society 5.0)」が訪れます。そのとき建築とそこに携
わる仕事は一体どうなっているのか、そんなことを真剣に考えたのが本書です。これはいわゆ
る「BIMのハウ・ツー本」ではないので、これを読んでもBIMが使えるようにはなりませんが、
BIMの戦略立案や実利を得るためにお役にたつと思います。本書はBIMを学びたいと思う方は
もちろんですがいまだ絶対多数かもしれないBIMの必要性を感じていない方にもおすすめし
たいのです。特に建築を志す学生の方々、みなさんは近い将来実務に就くと10 年も経たない
うちに、現在の風景とは全く異なる就業環境に置かれるはずです。BIMは「作図とパースが同
時にできる便利なCAD」という便利ツールから情報の共有と新たな価値を創出するエコシス
テムへと変化していきます。実際に私が携わるプロジェクトでは共通データ環境(CDE:
Common Data Environment)の構築を始めていますが、専用のソフトウェアや環境を揃え
る必要が無いCDEはインターネトブラウザを用いることで、従来参画が難しかった発注者や
ユーザーまで含めてBIMの恩恵を享受することができます。実際のところ、これまで発注者に
お渡しした紙の図面やCADデータは有効に利用されていないのではないでしうか。現在異業
種の企業と共同でプロジェクトに取り組む場合には、図面でのやりとりではなく、3Dモデル
でのデータ交換が必須になりつつあります。BIMに建築情報が一元化され、関係者間で共有さ
れるCDEの意義は大きく、互いの各分野に対する知識が薄い部分をこれが補ってくれると感じ
ます。

本書を読んだ建築学科以外の学生がこの業界を目指してくれたら最高です。私たちは近年、
オープンイノベーションを標榜していますが、既に人材面で多様性に欠けた閉鎖的な建設業界
の状況をまず改善すべきではないかと思い始めています。Society 5.0が実現した「未来の都
市」は建築以外の領域でのイマジネーションが必要です。今後は異業種を交えた連携が強く求
められることになりますが、その際にはBIMを通じて得られる情報認識や視覚化された合意形
成の仕組みが活きるのではないでしょうか。

執筆者が集まり本書をまとめる際に、未だにそもそも「BIMとは何ぞや」の定義から始めなけ
ればならないという、少々気が重くなる場面もありましたが、一方で発注者との打合せにおい
ては「LODをどうするんだ」という会話が飛び交うようになったのも事実です。確実にBIMの
裾野は広がっているものの、実務に携わる者としてはBIMの従事者不足がここ数年改善できて
いないように思います。学校教育の現場ではどうでしょう?

建築教育とBIMの親和性は本来高く、「BIMのモデルを見ること」には実際に竣工した建築を
見るだけでは得られない情報が含まれていると思います。リアルな建築とそのBIMデータがデ
ジタルツインとして存在する近い将来にはそれを活用した新しい建築の学びが生まれること
でしょう。

     表紙について
     表紙のらせん状の絵は、八つの階層 ① 2D-CAD ② 3D-CAD ③ 3D-オブジェ
     クトCAD ④ 建築生産プラットフォーム ⑤ 建築ライフサイクルマネジメント
     ⑥ グローバルネットワーク ⑦ サービスプラットフォーム ⑧ Society5.0を
     BIMデベロップメントモデルとして図化したもの。本書の中では各稿の内容
     がどのフェーズに関連しているかを示す道標として使用しています。これら
     は順次乗り越えていくステージというよりは、建築産業のさまざまな段階で
     最適な選択肢を示すものと捉えています。

     表紙について
     表紙のらせん状の絵は、八つの階層 ① 2D-CAD ② 3D-CAD ③ 3D-オブジェ
     クトCAD ④ 建築生産プラットフォーム ⑤ 建築ライフサイクルマネジメント
     ⑥ グローバルネットワーク ⑦ サービスプラットフォーム ⑧ Society5.0を
     BIMデベロップメントモデルとして図化したもの。本書の中では各稿の内容
     がどのフェーズに関連しているかを示す道標として使用しています。これら
     は順次乗り越えていくステージというよりは、建築産業のさまざまな段階で
     最適な選択肢を示すものと捉えています。

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 ソリューション推進設計部 BIMマネージメントセンター センター長