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コラム

建設業界とIT業界の共通点

2019.08.08

パラメトリック・ボイス                清水建設 丹野貴一郎

GrasshopperやDynamoのようなVisual Codingツールを使っていても実際にはC#やPython
といったスクリプティングが必要になってくることがあります。また、Forgeのようなクラウ
ドプラットフォームを使おうと思うとWeb開発の知識が必要になってきます。
そのような技術を持っている人がいないかと探してもまだまだ建築業界には稀有な存在だっ
たので、業界にこだわらずICT分野で開発をしてきた方に建築業界に入ってもらったらどうだ
ろうと考え始めました。
実際に昨年からチームに加わってもらた佐藤さんに一年が経たところでシステム開発につ
いて聞いてみました。


私(佐藤)はこれまで二次請けSIerのシステム開発者として通信インフラ基幹システム、旅
客系基幹システム、公共インフラ管理システム、官公庁システム、組み込みシステム等々多岐
にわたり少しずつ様々な業界に携わってきました。二次請けSIerという特性上、一つの業界の
一つの仕事に関わり続けるということはほぼ無く、長くて3年(常駐ではない)から短いもの
だと3~4ヶ月ほどのスパンで次のプロジェクトへ参画するという流れで仕事をしてきました。
担当させていただいた開発業務はほぼすべてが大規模システムといわれるもので、全体での開
発期間は一年以上あり、かかる費用は数千万円から数億円に至るものが当たり前のものばかり
でした。大規模システムの開発では、クライアント側とエンジニア側からそれぞれ、多くの関
係者が加わり一丸となって開発を進めていきます。
大まかな流れとしては要件定義・基本設計(外部設計)・詳細設計(内部設計)を経て開発
(プログラミング)となります。
基本的には要件定義・基本設計までを上流工程と言い、詳細設計・開発・テストまでを下流工
程と言います。
それらの工程の中でクライアントが一番関わるべきところは要件定義書の作成、システム開発
の見積もりを行う「要件定義」です。システムの目的や開発期間、システムの性能、導入や運
用方法など、クライアントとエンジニアが何度も何度も打ち合わせを重ね、要件定義書に落と
し込みます。ここについては規模の大きさに関係なく「思ったものと違った」システムとなら
ないよう、しっかりと認識合わせを行う必要があります。
その為にはクライアント側にも「システム開発で本当にやりたいことを明確に理解している人」
が必要です。それに気づかずにいるとエンジニア側からはシステムライクな解釈で話を進めら
れてしまい、クライアント側はただ言われるがまま合意をし、後から「思ったものと違った」
となるでしょう。すると度重なる仕様変更がなされ、下流工程が停滞し、プロジェクトの炎上
(大幅なスケジュール遅延)に繋がります。炎上する理由は上流工程でクライアント側とエン
ジニア側の間でしっかりとした要件の定義ができていなかったことがほとんどです。
システム開発を始めたい時にクライアント側が一番意識しなければならないものは、システム
に関わるためのチーム作りかもしれません。
システムを誰に使わせたいか、使わせる目的は何なのか、どのような環境の準備が必要か、情
シスがクリアできない課題は何なのか、クリティカルな機能は何なのか、現場視点で意見を出
すことももちろん必要になってきます。様々な立場の人たちが多角的に関与していかなければ
システム開発は破綻してしまうのです。
IT業界で当たり前のように使われている「プロジクト」という言葉自体がそもそも建設業界
のワークフローがお手本になっています。「プロジェクトマネジメント」の国際規格である
PMBOKも元々IT業界のためではなく建設業などの大規模プロジェクトのために開発されたそ
うです。
システム開発プロジェクトの流れは建設プロジェクトの流れを踏襲しています。
何かの目的のために建物を建てたいクライアントは、建物を建てるために必要な経験や知識を
持っている建設会社にどういう風に発注するのでしょうか。
クライアント側もある程度の知識は持っていなければいけないはずです。エンジニア側はクラ
イアントの意見を的確に吸い上げる力も必要です。お互いに相手任せにしていても決して良い
ものは出来上がりません。
建設業界とIT業界はもっとお互いの業界について知ろうとしても良いのではないでしょうか。
(清水建設 佐藤)


ITのプロジェクトマネジメントが建設から来ていることは知りませんでしたが、たしかに建設
では多くの物事をマネジメントする必要があります。
建物を建てるときにはできているのに「IT」というだけで敬遠している人も多いのではないで
しょうか。皆が普段やっている事を置き換えるだけと考えてみれば、遅れていると言われる建
設のデジタル化も思ったより簡単にすすむのかも知れません。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長