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コラム

【BIMの話】BIMTuberへの道

2019.10.03

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰

昨年参加しこちらのコラムで報告したAdvancing Computational Building Design 2019に
今年も参加してきました。今回は発表者としての参加であり前回データの話をしよう
書いたような話にさらに実例を交えたプレゼンテーションを行なってきました。主催者に快諾
いただき当日の映像(YouTubeへリンクします ※以下YouTubeへ)をYouTubeにアップ
ロードすることができました。英語ですが日本語字幕も(がんばて)付けました。ぜひご覧
ください。

さて、このほかに最近、YouTubeでいくつか動画を作ってアップロードしています。「10分
ょっとでまあまあわかるRhino 6 & Grasshopper」
(YouTubeへ)
「コストゼロ!建築設
計者のための10分テキストマイニング」
(YouTubeへ)
と来て、次は直球のBIMネタをまた
10分程度で紹介する予定です。

私はミレニアル世代最長老のオッサンであり、ファミコンと共に成長してきたデジタルネイ
ティブである一方アナログ時代の思考も捨てきれない世代です。YouTubeで顔を出して動画
を作ると有名になりすぎてネットの住民に住所を特定されるから怖い、と思って躊躇していた
ところがありました。笑ってください、本当のことです。そんな思考を一蹴した、ちょっとし
た出来事があります。

以前、BIMに関する論文を書くため、データ採りをする目的で大学院生にRevitを習得しても
らおうと、半日でRevitをざっくり教えるという講座を開催したことがあります。我ながらな
かなかいい内容になりそうだったので、講座を録画しておき、そのまま1時間くらいずつで
ブツ切りにしてそのままYouTubeにアップロード(YouTubeへ)しました。
それまで本家Autodeskからは日本語チュートリアルがたくさん出ていたし、英語ではもう束
になるほどその手の動画はあったわけですが、日本語で手頃なものはなかったので、これは
「バズる」のではないかと思い、YouTuberとしての副収入の道をホクホクと夢見たりしてい
ました。アホみたいですが実話です。

結果はというと、たしかに今まで私と接点のなかった方にたくさん見ていただけたのですが、
最も視聴回数の多いPart 0で、本日時点で721回視聴。Part 4の最後までご視聴いただいた方
は、YouTubeの統計によれば25人ほどのようでした。仮に私がこの動画で収入を得ようとし
ても100円未満です。米津玄師のLemonは4億6,000万回。何がそんなに違うのか。

そこらの会社員のオッサンと米津玄師を比べても詮ないことですが、物事というのは真剣に考
えるとなんらかの光明が差すもので、いろいろわかったことがあります。

まず私の動画は無編集であったため、最初に無音部分があったり、途中に参加者からの質問に
答えたりしている部分があって、見ていて「ダルい」。一方、英語のチュートリアルなどでよ
く見られているものは、挨拶や紹介もそこそこに最初の「掴み」が早い。
動画のアナリティクスを見ていると理由がよくわかります。動画の長さにかかわらず最初の
1分で70%近くの人が視聴をやめます。動画を最後まで見る人もおおよそ20%くらい。つま
り、最初の1分を見てくれた人が最後まで観る確率は低くないが、その最初の1分に2/3ほど
の視聴者が離れてしまう。
通信状態などにより、動画はよく待たされます。そのうえ内容がすぐ始まらないのでは、それ
は視聴者は離れて当然です。これは克服しなければならない。

そして、1時間というのは異常に長い。チュートリアルは比較的腰を据えて見るかもしれない
それでも視聴者の自分は20分あたら長いと感じる。1時間の動画ということはCMなしの
ルデンバラエティ1本分であり、芸人もアイドルも出ないオサンの語り1時間は、やはり
気軽に見られるサイズではない。
私が動画を見るのは圧倒的に移動中です。家で見る方もいるだろうけれど、建築実務者は私と
似たパターンの人も多いはず。ならば、通勤中に気軽に見られるくらいがいいはずだ。
せやろがいおじさん(YouTubeへ)とか見ていると喋りの間合いも細かく切り詰めて動画を
短く濃くしているのがわかります。これと横並びで見ると、同じオッサンでも(失礼)タラタ
ラ喋っているのは聞いていられない。テンポ感が必要です。

さらに、動画は必ずしも音声ONで見るとは限らない。私のオフィスなどかなり静かなので、
ートで見ることも多くあります。また音声がONでも喋りを切り詰めて早くするなら字
幕があったほうが理解が早い。ということは字幕を入れた方がいいということです。それも、YouTubeの自動生成の字幕はONにしないと入らないので、動画自体に入れた方がサクッと見
られる。このあたりは「なんでもレンジでチンする会(レンチン会)」(YouTubeへ)から学
びました。

そして何よりも肝心なのは動画が定期的に更新されることです。ArchiFuture Webのコラム
もそうですが、新しい情報が次々と出てくるというのはきわめて重要です。しかし私は会社員
であり、子育てとかなんとかも含めると、動画制作だけに取れる時間はなかなかない。
しかし、動画が生活の一部になっていれば話は別です。動画だけの時間を取らず、「人に教え
る機会」を逃さずに動画化すれば、あとは編集だけで済むし、教えるタイミングを作れば更新
ペースも守りやすい。
そんなわけで、「会社の同期に教える」という形で人を巻き込み、そのネタをそのまま再利用
する形で動画を作ることにしました。「生活の資本化」というやつです。

さらに、動画は宣伝しないと目に触れないからTwitterやFacebookで見てねとつぶやく。わか
りやすいタグをつける。サムネールを工夫する。こまごまとしたことも気をつけてみました。

これらの戦略を立てたうえで動画を作ってみたところ、明らかな違いが見られました。
その動画について呟いたツイトは50,000人以上に見られ動画再生回数も楽々と1,000回を
超え、何よりもチャンネル登録者数が数人から100人超えまでに伸びました。
たった100人?と思われても当然ですが、チャンネル登録者数100人はじつは全動画発信者の
上位5%に入ると推計される
そうです。もちろんYouTubeに動画を上げている人は星の数ほど
いるので、その中もさまざまですが、頭ひとつ抜けたような感じはたしかにしています。

このまま再生数をガンガン増やして憧れのBIMTuberになって独立アフリエイトで稼ぐ悠々
自適の生活を送りたい!という願望も正直言えば一瞬はありましたが、今のところそうは思っ
ていません。
ここまで来て思いましたが、動画の目的もいろいろです。私の動画は瞬間最大風速で何万人も
の人に見てもらうより、BIMやコンピュテーショナルデザイン、データドリブンデザインに
一足踏み出すのを躊躇っている人の背中をちょっと押すくらいのものです。むしろこの後も、
必要な人のもとにジワジワ届いていくのがいいだろう、それよりもコツコツ中身を作り続けよ
う、という気持ちでいます。
私がバンドをやっていてCDを手売りしていたときもこんな心持ちだったらいろいろ違っ
ただろうなあ、などと思っています。

まあそんなわけでYouTubeで顔を出しながら話すことは別に怖くなくなりました。視聴者に
なってみると、やはり顔が見えることは大事です。それに、会社も上記のような話を意外と
(失礼)理解してくれ、動画に関しては見守ってくれています。
今さらなんて思わず、手持ちのネタは動画にしてアップしてみませんか。石津さんも言うよう
に、デジタル技術への貢献にはいろいろな形があります
が、「持っているものをシェアする」
のは非常に上質な貢献です。顔を出しても住所は特定されません(そう滅多なことでは)。面
白いことを言えなくても、「踊ってみた」とかやらなくても大丈夫です。この秋、ぜひ。

石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 コンピュテーショナルデザイングループ長 / 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 特任准教授