Magazine(マガジン)

コラム

進化するICTデザイン(2)~くみたてるBIM

2019.10.08

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

今回は「くみたてるBIM」について触れることにする。
事業プロセスの中では、軽重の差はあるが、フェーズごとにいくつかの「くみたて」の段階が
ある。その一つ一つの組み立てをつなぎ合わせることで、プロセスを形づくってきたという背
景があるが、こでは、事業計画の初期、設計プロセスの入り口の「くみたて」として着目して
みる。
この段階は、これまではいささかアナログ的なところが多く、人の感性や経験、あるいはそれ
らを持っている人の決断に頼ってきたところが大きかったと思うが、近年は事業主の即断性
ニーズが高まるにつれて、デジタルツールを取り込んだプロセスが増えてきたと感じる。また、
速さだけでなく、内容の豊かさや精度の高さも求められてきている。というわけで、こういっ
たニーズに対応するため、われわれもこの「くみたて」のフェーズでは、5、6年前からBIMを
中心に据えたデジタルデザインに取り組んできている。

くみたてるBIM活用とは
われわれの利用のしかたは、事業プロセスの中の初期段階、設計プロセスの入口のところで活
用とトライアルをしていることである。この段階でのニーズは、ボリューム設定とそれを裏付
ける各シミュレーションが多い。これらをできるだけ早くカタチにし、概算コストとともに事
業採算をはじき出す。つまり事業計画の方向性を出すためのルールやプロセスとしてBIM+を
活用している(ここでBIM+と表現しているのはBIMを基軸としてデジタルツールを組み合わ
せるからであり、あくまでもBIMの持つデータ力を活用とする意図からである)。
下図はその事例である。


与えられた敷地に対して、建築・延床面積、構造架構を自動設定し、適合するボリュームを割
り出す。このとき、自動チェックで高さ制限や各斜線制限、平均地盤設定なども加味する。こ
れに景観や各環境シミュレーションを加える。また、外壁の開口率などを設定すれば、熱負荷
判断も可能になる。このような活用は目新しいものと感じてはいないが、着実さが増している
ことは確かである。最近ではこれに簡単なプラン+要求割り付け面積に加えVRが加わって
きたことであろうか。それも対象となる建築だけでなく、周辺環境を取り込んだタウンスケー
プ的要素が含まれることである。
ところで、この段階は元々設計プロセスの前段階でもあり、決められたルールや成果もないの
だがBIM+を活用することでアウトプトへのシケンスの考え方も芽生えてくる。ボリ
ムスタディー→シミュレション+VR→プラン→コスト→成果と判断という流れである。また、
事業主にとっても新たな価値を見出せるフェーズとして、重要度が高まると同時に、認知され
てきていると感じる。流れに没頭しているうちに、基本設計フェーズに入り込んでしまうこと
もある。
このように、このフェーズは事業主・クライアントにとっても魅力的であるが、設計者側に
とっても多くの可能性があるフェーズと理解する。当然、BIM+は多用されるだろうし、多様
な活用もみられると思う。また、この後の設計プロセスの出発点だけでなく、プロジェクトの
到達点を見極める重要さもある。BIMを活用したデジタルデザインの活性化のカギを握る
フェーズだろう。

BIMと自動設計・自動運用
社会では自動運転やバーチャル音楽アーティストなどAI活用が実現化に向けて動いている。
建設事業においても自動設計の概念と活用・運用が取り入られ始めているが、関連する不動産
業界では、前段の取り組みのような、敷地へのボリューム設計や法規制をモデル化して採算
チェックとして用いられ始めているし、同時に、簡単な架構計画とコストチェックなど、自動
設計による最適化も実施されている。つまりスピード感をもって計画の価値を確認するための
手法としてBIMを活用した自動設計が活用されているのである。
一方設計分野においては、精度を向上し、適切な判断に導くツールとして利用されることが多
い。上図のような機械的自動設計とは別に、ビジュアライズ面での活用である。Lumion、
Twinmotion、Enscapeを使い、Revitのモデルをスピーディかつ高い精度内容でVR化する。
これまでの定点的ビジュアル表現から、動的かつ多角的に計画案をチェックすることができる。
Google Earth上であれば世界中の計画に落とし込んで、あらゆる次元の最適化を確認するこ
とができる(これらの具体的な取り組み内容は次の機会にしたいと思う)。
このように自動設計(一種の機械的なAI)は、プロジェクトにもかなり取り込まれ進化してい
ることを実感しているが、われわれにとっては、実務における効率化という面でも寄与してい
る部分が大きい。これは設計前段階の「くみたて」に限らず、次回触れようと思う設計フェー
ズでの「つくるBIM」においても、プロジェクトの進め方、成果へのアプローチ、チェック・
確認手法の合理化など多くの有益性を実感する(働き方改革にも寄与している!)。
一方で、機械的自動設計の学習機能およびデータを発展させ、「人とのつながり」や「人の想
い」を具現化するようなディープラーニングを視野に置くことも必須と考え、試行している。
積み上げてきた人の経験や技術を生かしつつ、そのデータを活かしたこれまでにない、人の心
に残る造形やディテールの発見につながる利用方法―表現的にはアルゴリズミックあるいはパ
ラメトリックデザインなどにもつながる要素を有すると思うが…。―が挙げられる。勿論、設
計する立場からは、とても魅力的で継続的にチャレンジしたい分野ではあるのだが、むしろわ
れわれが考えるBIMによる自動設計は、「自動運用」につながるような姿を想定し、めざした
いと思っている。
その理由は、連続的にデータを活かせる点にある。

人とつながるBIM
前回も少し触れたが、われわれはBIMモデルとセンサーを組み合わせクラウドで管理する
BuildCANという維持管理システムを開発運用している。BIMモデルおよび属性デタを活用
して「空間」の快適性を確保しながらランニングコストの低減を目的とするものであるが、勿
論その先にはライフサイクルコストの低減という大きな目標もある。これを更に進めて、「人
とのつながり」にフォーカスしたシステムへ昇華することを考えている。
「人」を中心に考えると、温湿度、明るさ、静けさなど、それぞれ快適さに関する指標が異な
る。それぞれ空間に居る人の感性データ(=「人のセンサー」/例えばスマートウォッチのデー
タなど…)と空間センサーが連動し、積み上げられた過去のデータから学習判断し、自動的に
最適空間環境を整えられるようにすることで「人とつながるBIM」をめざす。
「空間」から「人」への評価軸の転換…。上図の中にもあるのだが、実は6、7年前に基本設計
段階に活用することを目的として、ファサードデザインと環境性能、そして空間の快適性とコ
ストを結び付けるようなシステムづくりにトライした。この段階のこのようなプロセスと結果・
データはとても重要であり、次の別プロジェクトでも参考データとして利用され、どんどんブ
ラッシュアップされ、利用価値が高まることを実感することができた。結果やデータを維持管
理システムで検証しつつ、その動的データが逐次プロジェクトに反映されれば、さらに自動設
計と自動運用のつながりが明確になるとともに、新しい発想や概念、そして新しい価値の創出
につながるのではないかと思っている。
このように「くみたてるBIM」は自動設計と自動運用を巻き込みながら、人々の生活に直結す
るようなプロセスとしても大きく注目されるだろうし、それを念頭においてチャレンジし続け
ることが肝要である。
われわれが常に重視しているのは、プロジェクトでの実践である。これは、目の前にある課題
やプロジェクトに今回のようなBIMの活用を工夫しながら取り込み、成果の大小にかかわらず
積み重ねることこそが発展の基盤になると捉えているからである。

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所   取締役専務執行役員   東京事務所長